おはようございます。
北西ブイはまたぐんと上がっています。
19.7ft@15sec./WNW305o
と15秒越えのほぼ20フィートサイズのうねりがこちらにまた向かっています。
このうねりは日本の北からきたもので、
きっとみなさんが7?8日前に凍えたあの低気圧からなんです。
イナリーズ予想は「ゴジラ波」で、潮によっては「キングギドラ」も混ざり、
ソフトサンドリーフは1000%の確率でクローズアウト。
軽く、背丈5?6倍の12から15フィートオーバーでしょう。
波情報には”Surf will rise to heights of 25 to 35 feet today.”
とあって、やはりものすごい波数字が表示されていた。
ハワイ北海岸にいる方はどうぞお気を付けて、
早川さんたちはもういらっしゃらないけど、
また戦慄の日がやってきましたよー。
本当にみなさん、お気を付けて。
□
飲料を買おうとしていると、ジリリリーンと携帯が鳴った。
「へへー、俺です」
「あっ先輩、お元気ですか?」
「今ね、スカイプにかけたらここにかかったけど大丈夫?」
「大丈夫ですよ、どうされましたか?」
「あのね、そっちに行ってあの波に乗りたいんだけど、
色々聞いておこうと思ってさ」
「いいですね?。いつ頃ですか?」
「2月か3月だね。その頃はソフトサンドリーフはどうなの?」
「よくご存じですね、最近いいですよ」
「WANGちゃんがさ、”あそこならぼくにも乗れます”と言っていたから
イナリ(ーズ)よりもやさしい波なんだってね」
「えー!?波質はやさしいのかもしれませんが、イナリーズと例えると、
ゴジラ対巨大宮本武蔵みたいなもので、異種格闘技というか別の波ですよね」
「君の言うことはいつもわからないんだけど、
その武蔵は宮本村の新免武蔵(たけぞう)なの?」
「おーバガボンドですね!先輩は何でもお詳しいです」
「菊一文字はグラスホッパーでしょ、あれ?俺たちなんの話をしていたんだっけ」
「波の話でした」
「そうそう、その波だけどさ、どうなの実際は?」
「いい波ですよ。めちゃくちゃいい波で特級Sクラスです」
「怖いことなんかないの?」
「いやあ、そりゃいい波と同量以上の怖いことはありますよ」
「例えばね、
あんまりしっかりサーフしていない人が入ろうとしたら君は何を教えてあげるの?」
「入らないほうがいいということでしょうか。
でも海を見たら絶対入る気になりませんよ。ものすごい速度でうねりは動いていますし、
沖でブレイクすると、その振動が浜まで、ズドン、ズドーンってありますもん」
「やっぱそんなにすげえんだ。じゃあもし俺があの日にサーフしようとしたら何を気をつければいいんだい?」
「まずはダブル近いショアブレイクを越えなくてはなりません。これにひっかかちゃうと、もうお陀仏です」
「堪忍してくれよー、他のところから出られないのかよ。
写真を見ると、穏やかなところあるでしょ、あそこからじゃだめなのかい?」
「あそこは流れが全てドライリーフにいっちゃうんですよ。そこに吸われちゃうんです。
あそこは水深ゼロから10cmでヤバイですよ」
「お前な、俺をビビら(驚か)せようと思って作り話しているべ?」
「全て真実ですよ。100%本当の話です。
あのリーフの切れ間を境に、流れが全てドライリーフの内側方向に吸うんです」
「君が去年やられた波の話があったけど、そこなのかい?」
https://www.nakisurf.com/blog/naki/archives/3900
「そうです。そうでした、あれはもう最悪でした。軽傷で済んで良かったのですが、
結局傷口が化膿してしまい、全治3週間くらいかかったんですよ」
「でさ、もしショアブレイクを越えたら何が表れるんだ?」
「インサイドの分厚いスープです。泡の山がゴーって押し寄せてきます。
で、海面だけに流れが入ってしまって、かなり進まないです。あそこは」
「ドルフィンは効くの?」
「ほとんど効きませんが、とりあえず一生懸命深く刺します」
「泡に幅があるって、どこかに書いてあったけどあの日で何mくらいあったんだい?」
「高さが3mくらいで、厚みが5mくらいでしょうか」
「嘘だ、そんなのに分厚ければ喰らったら終わりでしょう」
「そうなんです。結構スパルタですよね。でも波間隔秒数が12秒を越えたらすごいですよ」
「ふーん、12ね、まあいいや、それを越えると?」
「深くなるので、しばらくパドリングがめちゃくちゃ速くなります。
具体的には沖に向かって猛烈に進みます。
このときは躍進とか、歓喜とかという言葉が出てきますよ」
「でもここにも波が割れる(崩れる)んだろ?」
「はい、あの日はうねりにまとまりがなかったので、入ってきました」
「深いところでブレイクするとどうなるんだ?」
「浅いところに比べて、放出が少ないので、割と弱いですが、
厚みがさらに増すのでひっかかっちゃうとなかなか(海面に)上がりませんね」
「板捨てて潜るんだろ?どのくらい潜るの」
「3mくらいでしょうか」
「お前ね、人間そんなに潜ったら水圧で目玉飛び出しちゃうでしょ、
そんなに潜っているわけないだろ、本当のことを言え」
「さっきも言いましたが、全て100%本当ですよ。もし目の前に山みたいな波が来たら、
先輩でも100mくらい潜ってキンメダイを捕まえて帰ってきますよ」
「それは嘘だべ?」
「はい、これは冗談です」
「怖いこと言うなよな、こっちは本気にするじゃんよ。
でね、潜った後は何をしているの?ボードが付いているけどそれも一緒に潜っているのか」
「泡の下を潜り、波の後に出た感覚があったらいいんですが、そんなのは稀で、
だいたい潜っている途中で、リーシュの足がガン!って痛くなって、
それから波の中に持っていかれちゃいます」
「巻かれちゃうんだ」
「そうです。巻かれちゃいますが、これは上がりづらいだけで、
そこまで深刻ではないので、あまり何も考えないように、
学生の頃の授業中みたいな無心になっているとそのうちに浮かんできますよ。
そうしたら海面に向かって泳いでください」
「まだ泳ぐのかよ、もう息が続かなくなった時はどうすればいいんだ?」
「息を続かせてくださいね。でないと大変なことになりますから」
「お前、俺に復讐、いや天誅を加えようとしているべ、何様だと思っているんだ」
「でも沖に出たいのは先輩ですからね」
「まあ、そうだ、で次はどうなるんだ?」
「たいていはもう2?3発同じような、もしかするとさらに大きいのが来ています」
「やべえな、でもそんなに都合良くというか、波は俺のことを懲らしめようとするか?」
「はい、ほんとやばいです。でもセット波って、いつも3本以上でやってきませんか?
あっ、そうだ、この時は泡が海面を覆っていて、上がってきてもすぐに息は吸えませんし、
上がってきてもすぐに流れで海底に引き戻されるのが怖いですよ」
「そんななのか?、海はやばいんだよ。こういうときによ、お盆の時に波乗りしたバチが当たるんだよな」
「そしてそのセットが行くと、今度は沖に向かって、ラインナップというピーク付近に陣取るのですが、
ここの待つ位置が難しいのですが、一度覚えてしまうと下はリーフなので、
地形が変わらない限り、恒久的に使用できるんですよ」
「で、セットが来ると」
「はい、セットが来ると、たいてい一本目を狙います。
これは一番ボイルが少ないので、テイクオフがしやすいんです」
「ボイルってよく聞くけど、なんだっけ?」
「リーフブレイクの海底は平らではなくて、へこんでいたり、穴があったり、
または洞窟みたいになっているので、ここにうねりが通ると、
そこから水が噴き出したり、吸い込んだりするんです。
それで波の斜面に凸凹をつけるんですよ。
波が大きいと、ボードが飛ばされてしまうほどかなりの凹凸となります」
「おーあれか、あれは怖えよな。
で、テイクオフするんだろうけど、注意するところを教えてくれよ」
「波が分厚いので、最初の押し出しで立ち上がらない、というところです」
「いつ立てばいいんだ?」
「最初の押されたのを基に全力でパドリングを続けます」
「おっ、それは競輪のアガキだね。よくわかるぞ」
「そのアガキ、ですか、それをしていると、
さらに加速する場所があるんです。
それが本チャンなので、そこから波の中に入っていくんですよ」
「掘れちゃっている?」
「そりゃあもう、もうテイクオフするときは下の斜面が見えなくなっていて、
飛び降りるような感覚ですよ。大丈夫だからと信じ込ませて体を止めないようにするんです」
「止めちゃったら?」
「墜落と同じです。ここまで行って止めちゃうと、リップの上ですから、
そのままリーフめがけて叩きつけられます」
「叩きつけられたら?」
「よっぽど運が良くないとヤバイですよ。ワイメア病院のERに行くことを覚悟してください」
「もしリーフにヒットしなかったら?」
「それはかなりの幸運というか強運なのですが、一度ここで巻かれてしまうと、
浅くてあまり動けずに潜れずに、次の波が来てしまうので、
結果は同じだと思いますよ。命が少し延びただけです」
「じゃあ、ケンシロウ(c北斗の拳)にやられたみたいになっちゃんだな」
「そうですね。夢枕獏さんの『天海の秘宝』みたいに未来から時空船でやってきて、
助けてもらう以外ありませんね」
「お前のはわからないんだよ。でもそれ週刊朝日だべ」
「そうです。でも先週完結しちゃったんですよ。寂しいです」
「あのよー、わかった。そこはそれだから空いているんだよ。お前そんな波でやっていたらいつか死ぬぞ」
「そうなんですよ。フレちゃんとも話すのですが、ここはライフガードもいませんし、
電話も通じない、だから大変なことがあると、トムクンズのライフガードがやって来るそうですが、
到着までに最低でも1時間はかかるから be carefulだといつも言われています」
「それはやべえよな。これを聞いたらWANGちゃんは二度とやりたいって言わないな」
「そうですね。これをブログに書いておきますよ」
「お前、こんなことブログに書いちゃだめだよ。
でも書いた方がいいよな。じゃあさ俺の名前ではなくて、友人Dさんとしておけよ」
「それじゃ先輩だってわかっちゃいますよ」
「おー、俺これから見積もりがあったんだ。じゃあなガシャリ」
□
と電話は切れたが、
先輩に冬のハワイの海の本当の状況を知らせたく、
こんな会話をしてみました。
野球に例えると、メジャーのピッチャー対イチローさんでしょうか?
指を離れてからたった0.4秒程度で自分に向かってくる時速160kmのあの硬いボール。
自分の頭に向かってこないとも限りません。
よしんばバットに当てたとしても、ボールは自分に跳ね返ってくるかもしれませんし、
前に飛んだとしても野手がそれを捕って送球するボールがぶつかってこないとも限りません。
顔とかに当たったらもう終わりです。
そんな恐怖と戦っているイチローさんは、
たった一本のヒットを積み重ねるために毎日打席に何度も立っているのです。
その上であの栄光があるんですね。
で、波乗りの相手は人ではなく、自然です。
セット波は2本かもしれませんし、10本、もしかしたらそれ以上かも?
と巻かれているときにいつも疑ってしまうのです。
または上がる前にもう一発喰らってしまうのかも?
と、疑心が生まれるのです。
でもそんな疑いを胸の奥にぐっとしまい、
目の前にやってくる山波と対峙していく、
というのは人生の危機にも似ていますよね。
俺は一度イナリーズで8発連発でインパクトを喰らってしまって、
体が全く動かなくなりました。
重くなり、感覚がない状態で、少しだけ顔を海面に出し息を吸っていましたが、
もし、ここであともう一本波が、
セットでない波が来ていたら喜んで水を吸ってそのまま永遠に沈んでいったことでしょう。
そんなむきだしの危険が波乗りには潜んでいます。
けれど、みなさんもご存じでしょうが、
沖までの色々を耐え、テイクオフをメイクして、
ものすごい斜面をいつまでも高速滑走する。
「視界全てに波の湾曲を入れ込み、
水の上で加速していく重力を自分だけの力で得る遊び」
というのは他には見あたりません。
誰かが「ナンバーワンよりオンリーワン」と言っていましたが、
波乗りこそがオンリーワンを体感できると自分では確信しています。
「寒くて、指がくっついてしまってボードを落としてしまったこと」
「昔のバリで足をざっくりと切ってしまって、たこ糸で縫われたこと」
「はじめてのハワイで、波に巻かれただけで靱帯を伸ばしたこと」
「その後2ヶ月ギブスをはめていたこと」
「そのハワイでの波乗りのために一日おきに1500m泳いでいたこと」
「パドリング練習になるからと、波のない海でパドリングしていたこと」
「波乗りを始めた頃、全くお金がなくて、慢性空腹となりながらも波乗りだけは全力でしていたこと」
「ダックダイブ100連発近くして、ヘリ下の向こうから羽伏浦まで流されながら沖にでたこと」
「波乗りが大好きで大好きだったこと」
そんな全てが結集して、今ここに俺は立って、
こんな美しい波で波乗りしているのだと思うと、
ちょっぴり誇らしく、そしてうれしく、夢のようです。
冬のハワイには挑んでくる波、
挑む波、そして挑ませない波と色々ありますが、
挑んでセッションを終えた後は新しい自分がいるようで、
見るもの、食べるものも、
全て美しく、飛び上がってしまうような気持ちなのです。
技術でもなんでもなく、無形の歓びが感覚になって心に宿るのでしょうね。
長くなってしまいましたが、
ここまで読んでくださって感謝しております。
いつか、きっと、
そしてすぐにみなさんにもそれぞれの美しい波がやってきますようにと願っております。
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