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naki's blog

摩訶不思議のデビルズ・ダンジョンから得た空海的な澄感覚_(4888文字)

物語はいつも突然始まる。

それが波乗りの話となると、

突然というより、偶然、

いや、突発的と言えばいいのか。

それはとにかく「いきなり」だった。

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コスタリカ、カリブ海の朝焼けを求めて外に出ると、

この沿岸にあったのは薄い色彩の空だった。

消えることのない

——まだ濃厚で甘いような湿気と、

からんでくる、熱い熱気の余韻はここにしっかりと存在していた。

海を見ると、昨日よりもうねりが動き、

黒い砂浜を、満潮の波が消していた。

浅いリーフに渦のような紋様をつけた海。

その紋様の向こうには大きな、

そしてものすごい波が姿を見せていた。

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「『デビルズ・ダンジョン(悪魔の洞窟)』だ!」

7年半前(2002年6月)にここでサーフしたことが蘇った。

【naki’sコラム】vol.6 ロマン主義者たちの冒険 / コスタリカ編 PART2

あの時は「シエィ・ロペスだけがちゃんとテイクオフできた」

という「中米で一番の世界的な波」というフレーズ。

そして、

「なんとか必死で乗ったことがある波」

のことを懸命に思い出していたのだが、

ここでの浅いリーフと、どこまでも、

もしかしたら

「地球のマントルまで掘れ上がっている波」

という印象しか浮かばせられなかった。

そのときは「波体験は一生消えることがない」

と自惚れていたが、

たった7年半経っただけで、

ここまで記憶は消失してしまっていたのが少し意外だった。

あれからさらに大人になったつもりの俺がやってくると、

街も変わり、景色も変わり、

同じはずの波までの距離も形も曖昧だった。

わかったのは俺は運良く、

この波をまた目にすることができたということと、

あれから7度もの春夏秋冬を経て、

カリフォルニア、

ノースハワイを通過して再会したこの波は

「さらに輝いていた」ということだった。

こうしてサーファーに挑んでくるような波を見ると、

閃くように炎が小さく胸に宿る。

その炎は、胸の中に音を立てるように転がっていった。

なんだったのだろうか?

というような小さな、

下手をすると見逃してしまうような感覚だ。

太陽が雲を透かしてきた。

日が出ると、木々に影を付け、

海に色彩を浮かべる。

やはりものすごい波だ。

前の波が邪魔をしていて、

波の下三分の一程度はここに写っていないのだが、

そうして隠された部分は経験と記憶だけを頼りに理解し、

自分を説得していった。

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果たして、俺はあの波に乗れるのだろうか?

と自問してみた。

そして、それには答えを出さずに

「入ろう」

「入ってみよう」

と決意して、持って来たテスト用ボードにフィンを取り付けた。

このボードは、

5’0″の長さのBD3の改造版で、

シングルフィンスロットが埋め込まれ、

最近自己流行しているボンザーシステムを具現化してもらった。

一番重要だったのは、

「既存のトライフィンセッティングにボンザーを採用しても機能するのか?」

ということであり、

そんな究極のテストをこの波で試みようと、

フィンを取り付けていった。

ボードを出していると、

フランクという名の男が現れ、

「そのボードを見せてください」

と丁寧で、きれいな英語が発声された。

彼の長男はアメリカ東海岸のプロサーファーで、

それは俺も知った名だった。

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右がそのフランクで、

左側にいるお方が「ゴミの中に生活を見いだし」、

さらには同尺度で「物とお金をたかる」のを生業とするホゼ。

「たかり」という言葉を聞いて反射的に思いだしたのが、

「値引き」と「下請け」

という3つの単語に異常反応するD先輩です。

と、ホゼをセンパイに紹介したくなりました。

もしDセンパイがここにいれば、こうなるだろうか。

.

「アミーゴ!」

「へへー、いいねーおっさん、朝から酔っぱらっているねー」

「ウツクシイ朝ですね。ブエノス・ディアス」

「おー、ブエノー!ここは波がおっかねえけど、美しいねー」

「2ドルくれたらもっとウツクシイ朝になるのですよ、グラシアス」

「ん、たかりか?お前たかりだべー、

それにしても酔っぱらって人にたかってはいけないね」

というふたりの会話が思い浮かんだ。

俺が思ったのが、ホゼも2ドルでなく、

1ドル程度にしておいて、

あまり酒臭くないようだったらもっと寄付が集まると思うんだけどなあ。

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次に表れたのが、エドウインという2m近い大男。

「なんじゃ、このボードは?」

と驚きながら、

そして興味深くミニボードを様々な角度から見ていった。

こうして地元サーファーが集まって自分のボードを見てくれるのはうれしいものだ。

エドウインはこのデビルズ・ダンジョン波に魅せられて、

マーベリックスで有名なハーフムーンベイ(サンフランシスコ)から越してきたんだという。

彼とは数日後、

ラインナップで会うのだが、

なかなかのグッドサーファーで、

切り立ったフェイスでのこらえ方に年季と熟練を感じた。

フランクには今日の波は少し大きすぎると言うので、

カメラをボードに持ち替え、

俺だけでパドルアウトする。

なんと言っても「いきなり」のサーフですから

飲む水はないし、

リーシュを探したりしながらのパドリングアウトであった。

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足下に山の小径のように伸びる水路を伝っていくと、

吸い込まれるようにこの

「デビルズ・ダンジョン」にパドルアウトできるわけだが、

そんな利便性に自然の驚異というか、

摩訶不思議を感じていた。

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水路出口にはこんなモノスゴ波がやってきて、

「ここはどこの波と似ているのだろうか?」

と類似点を見いだそうとしていた。

一本目の波がするりと入ってきて、

それは掘れ上がって、ボトムにリーフの影が大きな警告を発していた。

躊躇しようと思ったが、

イナリーズやソフトサンドリーフでの波経験が悪い方に作用して、

「いいや、波に訊け」

と体は乗る方に作動してテイクオフしてしまった。

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だが、

こんな風にどうにもならずに押し倒されてしまった。

さすがデビルズ・ダンジョンで、

しかし俺にとってこんな一本目は目覚めには激烈すぎ、

リーフヒットを身構えたが、

幸運なことにインパクトではなぜかボトムに当たることがなく、

2度目の押し(巻き)つけで、

海草など何もない硬いリーフを手で押さえていた。

あらゆる回転に俺は「涅槃」という言葉を思い浮かべていた。

本来なら「地獄」とか「苦行」という言葉なのだが、

この墜落の瞬間にテイクオフできるライン、

すなわちホワイトハウスと同じラインを見いだした感覚があった。

その反面で、こんな生死に関わることを、

辺地でやっていないで、おとなしく

「岸に戻って平和に暮らそう」

という考えも多少はあった。

そんな交差する思考の中、

「この波に乗ってみたい」という思いが勝り、

またピークに戻ることとした。

ラッキーなことにそこまで行くと、

「迂回しないと戻れないチャンネル」まで押し出されずに、

それは、世界一周というルートを避けて沖に出ると、

セットが入ってきた。

一本目よりも二本目が大きいと推測し、

最初の波をスルーすると、

やはり美しいうねり壁が現れた。

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「ホワイトハウス、ホワイトハウス」

と自分に言い聞かせ、

ピークの少しーー30cm程度ーー奥から波の中に入ると、

やはりボードは滑りだした。

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これで前に迫ってくるセクションに、

ターンをしながらノーズを進行方向に向けて飛び込んでいった。

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シングルフィン・ボンザーの滑らかで、安定した挙動。

そしてトップスピードまでがたった数秒というのはまるで

『ブガッティ・ヴェイロン』のようだが、

そんな気持ちで、

理想的に壁に合わせていった。

うねりはここでさらに浅瀬に乗り上げて、

サイズというよりも丸みの深さを表現してきた。

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たった一本だけ存在するラインだけを見つめ、

そのラインを、

俺はささやかなこころと、

猛る気持ち、

そして悟りを開いた導師のように静かな心、

それぞれを混合させながら進んでいった。

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バレルが完全に閉じ、

俺は水の壁を伝いながら、

その圧倒的な円運動の中心にいた。

これはチューブライディングというわけではなく、

このラインしか波をメイクすることはできない一本道。

そんな中に俺はいた。

圧力と、速度、そして重力が混合する世界で、

轟音と無音の繰り返しがここにはあった。

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バレルの中身が大きく開き、

巨大な洞窟が俺を包んだかと思うと、

それは怪物の胃の中のように突然小さくなった。

そして俺はその小さくなってしまった出口に向け、

ラインを上方向に設定し直した。

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通り過ぎた後方で爆発が起き、

胃袋の内部は霧状となり、

視界はなくなったに等しくなり、

次に視界が開いたときにはさらに小さくなった内部と、

楕円状の動く、

小さな出口が前方にあった。

ボードをさらに引き上げ、

体を小さくたたんで、

狭い空間を滑走していった。

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バレルが閉じる瞬間に、

いや閉じるのと同時に俺は速度を保ったまま、

「ボン」という小さな破裂音と、

水滴の吹き出しと共に吐き出された。

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「右手を掲げたのはなぜなのだろうか?」

そんなことを考えていた。

それからは妙に落ち着いた俺が現れ、

波を讃え、ボードを讃え、

さらにはカリブ海を讃えていた。

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ホワイトハウスのような激烈な、

そしてさらにピークが3つ4つも連続するという伝説波は、

バレル後も永遠に続いているようで、

そんな滑走を続けていたら「諸行無常」という言葉が浮かんだ。

これは、

「この世の現実や存在はすべて、姿も本質も常に流動、変化するものであり、

一瞬であっても、その存在は同一性を保持することができない」

という一節のあれだ。

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このキリスト教の国に来て、

なぜ仏教が思い浮かぶのかは自分でもわからないが、

それはきっと俺の頭の中に組み込まれた先祖の遺伝子がこの発火によって、

発動したからなのだろうか?

と、さらには、

「おごれる人もひさしからず、ただ春の夜の夢のごとし。

たけき者も遂にほろびぬ、偏に風の前の塵に同じ」

という平家物語の冒頭部分の一節までも思い浮かんだ。

どこかに英訳もあり、その

The proud perish like a dream on a spring night.

The hellion is defeated at the end.

Same as the dust flown by the wind.

という英文を読んでいると、

さらに自分を

「風が吹くと飛んでいく塵と同じ」

だと恐縮しながら知ってしまうような波だった。

そうして考えられるのはすばらしいバレルをくぐり抜けると、

俺の根源的な孤独が透徹するようで、

こんな言葉ばかり思い浮かべてしまった2010年2月のカリブ海だった。

しかしこれを書きながら思うのは、

「モノスゴ波にしっとりと悟らされたのだ」

と感じられるようなことで、

そしてまた一歩大人になった自分がいるようで、

そんな気持ちを確かめるようにあえてこのブログに書いてみた。

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こうして波があって自分がいる。

そんな波乗りも長年続けていると、

ある日に仏教がやってきたり、

または涅槃だったり天国だったりすることを再確認した。

それと、

神託というか予言もあった。

そこには、

「尊い法王やタキビの神が現れるぞ」

「聖なるものもいるぞ」

「次点にも気を配れ」

「室戸岬に行け」

そんなことだ。

母国から遠き国で土佐高知の室戸岬が浮かんだのは、

真言宗の開祖「弘法大師」空海(774年 – 835年)の直感があった。

空海は「鬼の国」室戸岬で修行中、

口に明星が飛び込んできて、

悟りを開いたといわれています。

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南の小さな国で、

すごい名前のオソロシ波を抜けて、

自分では小さな悟りを開いた気になっているが、

「これから始まるまだまだ長い旅」

の予告編であるような気もしている。

まだ佐伯眞魚(さえきのまお)という名だった空海は、

明星が飛び込んできたときの印象により、

空海と名乗ったと伝え聞いているが、

波乗りしているときに見えるのは空と海だけだ。

とすると、

サーファーは悟りを開きやすいのかもしれない。

などと、

日本ソウルサーフのスカイウォーカー、

抱井さんのことを思い浮かべると、

彼のペンネームが空志海児だったという符合に驚かされた。

すごいなあ…。

虚しく往きて実ちて帰る

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