「あ、あんなところで波が割れています」
と湾の中奥深くまで到達したうねりを見つけた緑くん。
普段はおだやかな内海で、
海面の起伏は、
外海が爆発していることを知るインジケーターだろう。
後部座席には、
雑誌取材で島に来られている椎葉順さん、田中英義さん、
編集の中野さん、そして写真家のCHARさんが乗っていた。
車内から、
県道越しに海が見えるたびに波の大きさが伝わってくる。
波をよく知るこのエキスパートサーファーたちは、
波を見るたびに寡黙となっていった。
それは海への恐怖ではなく、
畏怖と尊敬が彼らの(俺も含めて)思考にあり、
数時間後にはその波群と相対する緊張が重く全身を浸していた。
美しい波は、
ときに牙を向いて人に襲いかかってくる。
その怒濤のような海からのメッセージは、
どんな祈りもむなしく俺たちにのしかかってくる。
強力で分厚いうねり、
鋭い飛沫の牙群、
ギロチン刃のような切っ先、
速く、深く、
前後左右上下自在な恐ろしい混沌のかたまり。
意識があるのかないのか、または宇宙的な啓示なのか。
そこまで波を思惟(しゆい)し、
自分自身を解放しながらその波に近づこうと、
それを滑ろうと決意するまでのプロセスが俺は好きだ。
冒険家は、
誰も来ない場所、入ったことがない、
靴跡もない指紋もついてないところを求めているが、
俺たちサーファーは、
いつも誰も乗ったことがない、
無垢で純粋な海からのメッセージに乗ることができる。
同じ場所でも全く違う波。
それらは毎分毎秒届き続け、
優しかったり、
嬉しかったり、
怖かったり、
恐ろしかったりと、
受ける人によって様々な心象となるが、
それらドラマを全身で受け止めている。
波の小さい、
つまり穏やかな海の日はあまり感じないが、
「大自然に相対する人」
とは、
じつにちっぽけで貧弱なる存在だということを実感させてくれる。
怖いときもあるし、そうでないときもある。
ただ、肌でヒリヒリと感じることがある。
『嘘のない存在、場所、そして瞬間』
そんな定義がこんな波の日には蒸気のように立ちのぼり、
吸い寄せられるようにパドルアウトしていく自分がいる。
昨日も書いたが、
こちらは台風の影響で天候不安定でして、
大雨が降り、
そして止むと美しい色彩が現れる。
波のメッセージを至近距離で映してみた。
穴蔵なのか、
思考の底、
いや空か宇宙に投げ出されたかのような一瞬があった。
勇生さんのバレル。
深く、
速く、
そして複雑なるバレル。
速度を求め、
そしてラインを読み続けながら解放までのラインを模索していく。
アローバーズは岬(ポイント)波。
つまり「ポイントブレイク」。
横に大岩があり、
そこにぶつかった波が横に動き重なってきて、
ウエッジするピークを形成する。
そのピークが奇妙に掘れ上がったり、
より強いリップを形成したりと、
かなり複雑なテイクオフセクション。
ワイルドさと、
胆力、
気力、
眼力が試される。
ただ果敢すぎても危険だし、
自身を極限まで押しだすことができないと、
一日待っていても波に乗ることはできない。
掘れ方はたっぷりなのだが、
バレルセクションの距離が信じられないほど長いので、
メイクのためにはさまざまなドラマがあり、
それらをすべて通過した後に至福が待ち受けている。
上が英義さんで、
下がテッタさん。
下のシークエンスは、
椎葉順さんのものだが、
ここにアロー・バーズが誇る長いバレルが映っている。
ここからさらにバレルは続いていく。
世界でもトップクラスの波なのは間違いない。
真夏の凄波。
それを裸で滑る至福。
こんな日の波の下は、
「ある決意」
を秘めているかのように見える。
このように降りてしまうと、
バレルには入ることができない。
テイクオフしながらボードを引き上げて、
横へのラインに乗せる。
逆を言うと、
速い波はバレルに入るしか抜けられる道がないのです。
ニコリン奄美王子の緑くん。
「奄美は最高よ〜」
と、どこまでも優しきローカリズム。
そんな島人の懐の広さも俺が奄美大島を愛する理由のひとつです。
二神さんのタックイン。
バレルを回避しているのは誰だ?
こちらはバレル内。
中か外かで違う世界が存在している。
または同じ。
縁と業のような関係だろうか。
メイクできないと奈落の底に落とされる。
今回の潮は、
浅いところで腰程度しかなかった。
なので危険を伴うが、
引き替えに美しい波がある。
□
緑くんが、
俺の波乗り写真を撮ってくれていたので、ここに掲載しますね。
ありがとう〜!
テイクオフエリア。
前の波に隠れて見えづらいが、
ファーストセクション。
「SURFSURFSURF」Tのハレの場でした。
https://www.nakisurf.com/blog/naki/archives/23814
インサイドセクション。
そうだ、BD3がいつもの5’0″になったのです。
奄美初日に
「シゲさんにお借りした5’1″に乗っています」
https://www.nakisurf.com/blog/naki/archives/24083
とブログアップしたら、
その二時間後に有屋町のコシナカラーの彰くんが、
「確か5’0″でしたよね。よかったらこれ、使ってください!」
と、
市内からグリーンヒルさんまでわざわざ持ってきてくださいました。
「うわあ、感激ですぅ」
いつもの5’0″でこのアロー・バーズ波を滑るという幸運。
不思議なことです。
彰くん、
大切なボードを本当にありがとうございました!
波乗り後は、
泳ぎながらの写真撮影なので、
海面にずっと顔を出していなくてはならず、
たっぷりココサンシャインを塗った。
上の写真はマンゴーブラウンを下地に薄く塗り、
そしてさらにハイポイントに分厚く塗った状態です。
これまで五日間、空港と東京にいたので、
ちゃんと太陽を浴びていないのと、
奄美の猛烈な紫外線に怖くなり、
ココナッツホワイトをバリバリに塗ったら、
行き交う人が驚いていた。
緑くんも、
「これ、最高よ〜。奄美には必需品ね」
とヘビーローテーションされています。
□
幾億もの波。
これはきっと誰の意志からでもなく、
つまり台風九号ムイファーの猛風から発生し、
自然の摂理として海岸に届き続けている。
ある波はねじれ、
ある波はまっすぐで、
またある波は豪快だった。
でもその中には、
一本として無駄な波はないはずだと哲学者なら考えるだろう。
サーファーたちは、
その波群を見据え、
最上の場所に集い、
沖に漕ぎ出て、
自分にとっての最良なる姿形を見いだし、
波面を滑走していく。
今回の奄美旅は、
観光親善大使の任命式があったので、
(巻末にリンクがございます)
サーフボードもウエットスーツも持たずにふらりと来たのだが、
前回見たウミガメの水中写真を撮ろうと、
カメラハウジングだけを持ってきたら、
こんな歴史的な波に当たってしまった。
そこでボードは友人からお借りし、
さらには足ヒレはグリーンヒルさんのレンタルを使用させていただき、
それこそミニマルなサーフトリップだったが、
得たものは絶大なのであります。
縁と偶然。
こんなことも旅を彩ることであり、
さらには人とのつながりを感じた波乗り旅でした。
奄美旅はまだ続きますが、
台風接近で、暴風域に入ってきたので、
少しのあいだ読書に没頭しようと思っております。
ちなみに今読んでいるのが、
北方三国志の巻五であります。
張飛の話が好きです。
さきほど雑誌を編集しているSさんと話していたのは、
「咜吉備誌康(タキビシヤス)」という仏像話。
今昔物語からの一話を解いて、
このウナクネ世界にからめるということに着想した。
発火したら書いてみよう。
いつかはじまった大きい波。
これがいつか小さくなるように、
いつかはじまった旅もいつか終わる。
まだ見ぬ波への果てぬ夢は続いている。
奄美の海は、
神話的に大きく、
そして永遠だった。
小さな自分がいたムイファー波。
奄美でこの波に出会えて良かった。
Happy Surfing!!
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