いつかどこかに、小さな島があった。
その島は丸い形をしていて、
東西には白い砂浜、
南北は岩場、
そして多数の岬という地形だった。
気候暖かく、魚がたくさん獲れて、
朝と夕には空は色づき、
ときには大きな虹が上がり、
島人たちの暮らしはとても平穏。
いつか誰かが思いついたのが木片で波に乗るということ。
漁仕事の合間にみんなが集まり、
思い思いの波に乗っていく。
そのうち若者たちは、
誰が一番長く乗っていられるかを競い、
持ち寄りの賞金を出すようになっていった。
賞金とは聞こえがいいが、
じつのところ賭け金である。
で、誰もが勝ちたいので、
木片の先や底は思い思いの形に削り出され、
角が丸くなり、
次第に波に乗りやすくなっていった。
賭けとはいっても、相手は波。
じつのところそこまで差が出ないものなので、
掛け金は全員を行ったり来たりしていた。
ある日、
砂浜に奇妙な色をした木が流れ着いていたのを一人の男が見つけた。
波に乗ることがこのうえなく好きなこの男は、
「勝負で勝ちたい。そして波乗りだけして暮らしたい」
といつも熱く考えていた。
さて、流れ着いたこの木片は大きさといい、
重さといい、
とても良い波乗り板となりそうなので、
早速小屋に持ち帰って、
ノミを入れると、
その木の内側が見事に光り輝いた。
男は驚きながら、
一心に思い描いた形を削り出した。
その板を使うと、どの波でも誰よりも長く乗れ、
他の若者たちがその形を真似ても、
勝負の場所を砂浜から岩場に変えても、
はたまた時化の波でやっても、
誰もこの男に勝つことはできなくなってしまった。
ちょうど島は大漁に沸き、
島民たちが潤ったこともあって、
勝負は男が毎度毎回勝ちながら続いていった。
男には念願の賞金生活がやってきた。
だが、
控えめだった性格は、
勝利を重ねながら横柄になってしまい、
そんな王さま気分で他の島民とつきあえるわけもなく、
そのうち島の誰もが男と勝負するどころか、
口もきいてくれなくなった。
そこで男は島を出て、
他の島まで波乗り勝負をしに行くことにした。
そして、
どの島でも男よりも上手に波に乗れるものはいなかった。
数年が経ち、男は勝負を求め、舟で各地を廻っていた。
勝利の酒に酔って、砂浜で酔いつぶれて睡る毎日。
ある日起きてみると、
大事な板が見あたらない。
どうやら満潮にさらわれてしまったらしい。
男は慌てて舟を出して沖を、
さらには小さな入り江、港の中、
岬の内側を懸命に探すが、手がかりすらなかった。
男は自身の甘さを反省するが、
板は戻ってくるわけもなく、
仕方がないので他の木を使って同じ形に削り出しても、
あの魔法のように波に乗ることができるボードは二度と作ることができなかった。
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