「千日の稽古をもって鍛となし、万日の稽古をもって錬となす」
——『五輪書』
UNK-S 6’1″ (185cm)
.
私が波に乗り始めたときは、
サーフボードの長さは185cmだった。
やがてそれがファイブテンになり、
冬のハワイはセブンシックスが日常となり、
波によってサーフボードを使い分けることを知った。
Herbie Fletcher at his studio.
.
コンピューター制御でサーフボードの下地を成形するシェイプマシンが登場し、
予想と期待通りに定着した。
このことによって、
簡単に体積(CL=キュービック・リッター)を得られるようになり、
サーファーは自身の適正浮力数値を知った。
マシンはロッカー等の曲線を量産し、
乗り手の体重に合わせたサイズ変更も容易にできる。
ただ、どんなに高性能となっても実際にはシェイパーがデザインし、
ブレード(歯)が到達しない箇所を成形、細部フォルムを調整している。
ハンドシェイプのみの時代、
つまりシェイプマシンが登場するまでは、
シェイパーが自作したテンプレットを使ってアウトラインを切り出していた。
ロッカー角度もシェイパーのみが展開する力業だったのだが、
マシンはそれらを精確に表現していく。
さらに書くと、マジックボードと呼ばれる傑作は、
コピーのために再びスキャンされていく時代になった。
この結果、サーフボードデザインは飛躍的に安定した。
そのコンピューターシェイプに精通したシェイパーと、
この体積値について話してみた。
Ryan Engle at his Shaping Bay.
.
「最近のサーファーは体積値を決めて、
それに基づいてボードをオーダーしてくるようになった。
でもこれは正解ではない。
ボードが長くなれば、揚力が増すので、
適正な体積はより少ないものに移行し、
加えてロッカーやレイルフォルムという要素全てが存在しているので、
同一デザインでない限り、決して一定値にはならない」
サーフボードがここまでの委細詳細を求めるようになったのは、
コンペティション・サーフィングの功績だろう。
ジャッジたちは、イベントごとにそれぞれの波質を考慮し、
現在過去未来と、他の要素をも考えながら、それら演技点を設定する。
そして世界中から集まったアスリートサーファーが、
それらの基準や要求に合わせたサーフボードを選択すると、
——カーレース最高峰であるF1と似て——ほぼ同一なデザインとなる。
フィッシュやミッドレングスに話を移そう。
不思議なのは、それらに乗る人は、浮力数値について話をしない。
もっと言うと、ログ、いやスポンジボードやフィンレスを考えると、
そんな数字はナンセンスだというところまで漂っていく。
これは波乗りの種類が違うということを意味している。
Tyler Warren at his Shaping bay.
.
サーフィングの魅力は、技術の進化と共に移行している。
波斜面を滑走する喜び。
うねりと、自身との合致を意識していると、
波にはどうやら芯(スイートスポット)があることに気づいた。
その芯に沿ったセクション内で、
自分の通過点に点を予測し、それらをつないでいく。
例えばボトムに降りていくときは、
ターンの開始位置を点で置き、
次は波上部に切り返し点を設定する。
波は変化するので、常に修正を加えていくのだが、
ごく稀に自分の予想通り、思い通りに全ての点がつながるときがある。
このとき、宇宙が拡がるような感覚の、
広大なマインドフィーリングとなる。だから波乗りはやめられない。
浮力の話に戻ろう。
よく「こんな小さいボードに乗れない」
ロングボーダーはショートボードを指して言うだろう、
ショートボーダーは古代アライアを見てそう思うだろう。
だが、ボードを使わないで波に乗るボディサーフの浮力はゼロ。
そう考えると、波に乗れない浮力のサーフボードは存在しない。
さまざまな浮力のボードに楽しく、美しく乗るために波を理解し、
さらには肉体的な進化も遂げていかなくてはならない。
だが、しかしその究極は、
サーフボードも使わずに身一つで波に乗り、
波の中に確かに存在するスイートスポット点をつないでいくことだろうか。
その宇宙に跳躍できるような感覚を得るためには、
サーフボードの性能やサーファーの技術ではなく、
「波と一体になる」
といった基本中の基本に立ち戻れば良いと気づかされた。
◎