最近、
特にこの10年間はサーフィングが多様化していると、
ここにはもちろん、
BLUE誌の連載コラムにも、NALU誌の連載エッセイ、
単発でのオンザボード誌コラム等に書いた。
私は元々PSAAというアメリカツアーのコンテストに出場すべく、
この北米大陸まで渡ってきたのだが、
(実際にはスポンサーに対して、アメリカツアーは説得力のある言葉だっただけ)
そのとき世界レベルのすごさを知って、
当時秋に千葉勝浦市部原(へばら)海岸で開催されていた
『丸井プロ』だけでは、
何も知らされていなかったことを切実に感じたことを思いだした。
当時の世界で台頭するトッププロは、
技のキレ、アプローチの方法、ターンの角度、
連続度、独創性が日本のサーファーとは異なり、
一番大きな違いは、
サイズが上がる、または波にパワーが出てくると、
外国人のターン全てがものすごく、
それは別次元に感じるほど日本と世界の差が離れていた。
日本に戻ると、「パワーを付けなくては」そう感じ、
『茅ヶ崎のパルバル(今もある)』というスポーツクラブに行き、
隔日でウエイトトレーニングをし、
牛乳由来プロテイン(現在はホエイが主流)をドバドバと飲み、
ほぼ毎日がんばって1500m泳ぎ、
「これならワイメアでもなんでも持ってこい」
と自信満々でハワイのノースショアに向かったが、
その苦労はあまり報われなかったことと、
マイケル・ホー大先生が、
「俺たちの波乗りはパワーでなく技術だ」
そんなことを言うので、ユル系に方向転換したのが27年前。
naki at Machukaze
Photo by U-Ske ©2007
で、それからもほぼ毎日サーフしてきて、
いまはオルタナティヴサーフに夢中となった。
さらにその支流であるウナクネ系、
これは独自のジャンルというか、ユニークな道筋に魅せられている。
Scott Prestie
この支流はジャンルに分けるというより音楽に例えるとわかりやすい。
私はロックファンで、他にはジャズ、フォーク、カントリー、
ブルース、クラシック等の嗜好軸があり、そこからの支流も好きである。
さらにはシティポップなる大瀧詠一さんや山下達郎さんたちのキラキラ楽曲があり、
「これこそが音楽界のウナクネ系なのではないか」
そんなことを片瀬海岸での鰻捻道合宿時に
マッカランの10年ものを富士スーパーで買った高級氷に溶かしながら
ウナクネ三蔵法師こと、Yoheyさんと大いに語らったものである。
Andy Nieblas
まとめると、
サーフィングにはメインストリームがあってこそのオルタナティヴ。
メインの大概は現在WSL等のコンテストサーフィングとなっている。
その基準は、フィギュアスケートや体操のようなもので、
技術的要素、難易度と完成度が高ければ優位となる。
だが、
オルタナティヴサーフ系では、そんな優位をつけずに多種多様な支流、
分派、枝分かれをさせて、
その派に寄り添うようにスタイルをなぞらえていく。
例えばレトロ、クラシック系というのは、波乗史を重要視したものだ。
ノーズライドはもちろん、
ハーフターン、トリム、グライダーという脱力系なものが多いので、
これは初心者にも目指しやすいと思える。
タイラー・ウオーレンやクリスチャン・ワックがしているのは、
過浮力ボードのテイルを踏み込み、ラディカルな推進力を得る技、
さらにはアクロバット系の技を繰り出すという難易度の高いものが好まれる。
ちなみにドノバンもこのハードコア系に属している。
Donavon Frankenreiter
そしてRVCAやNAKISURFが掲げるウナクネ系。
前出したタイラー・ウオーレンやクリスチャン・ワックが目指すどのボードでも乗る究極系。
さらには思想に宇宙や瞑想という要素の宗教的な教義。
「誰でもいつでもドーゾ」と門戸を大きく拡げているのはキャッチサーフ流。
または自由な自家製スタイルも受け入れられるのがこのオルタナ属。
これだけ多様なジャンルがあるのだから、
世の中にはありとあらゆるサーフィンがあるはずなのに、
実際にはメインストリーム系となると、みんな同じように見えてしまう。
無理に絞り出してサーフトリップ、ビッグウエーブ系がある程度だろうか。
Devo with Odysea Skipper
最近アメリカでは『サッカーママ系』というサーファーが多くなったと聞く。
なぜサッカーなのかはわからないので聞いてみると、
「子どもをサッカー場に送迎するお母さんを比喩しているもの」
「女性だけではなく、そんな行動をするのなら男性でも同一」
そんな答えが帰ってきたが、これもアメリカ的なのでよくわからない。
ただ、そのサッカーママ系というのは、
イ. 日焼けがまぶしいから帽子をかぶる(サングラスも同様)
ロ. 足が切れるのが嫌だからブーツを履く
ハ. ボードが(砂で)汚れるのが嫌だからボードラックを使う
ニ. 日焼けをしたくないので手袋やラッシュガード(もはや本物のサーファーでこれを着ている人は稀)を着用する
ホ. ボードが壊れるのが嫌だからノーズ・テイルガードをする
そんな特徴があるらしい。(単数でも複数でも)
なるほど、サーフィンはワイルドであったものだが、
一般的になるにつれ、
一般的な論、つまり日焼けしたくない、
怪我をしたくないとガードをする人たちが登場し、
それが派となるほどに増殖しているのが現在らしい。
Bobby and Anna
サーファーは、
1.日焼けするもの
2.足はキズがつくもの
3.そんなガードをするより見た目を重視する
4.サーフボードは壊れるもの
5. 砂が付くもの
そんなものだったが、
サッカーママたちはどうやらそうではないらしい。
Miller, Jamo, Sage
さて、話が変わるというか戻っていくが、
メディア、商品マーケティングやプロモーション等により、
操作性が高い(ターンが簡単)代わりに
浮力が少ない(テイクオフするのが難しい)ボードでのサーフィンが、
メインストリームの定義といえるだろうか。
とにかく均一的なボードでの波乗り、
または中級者以下にとって苦行系の波乗りが、
メインストリームということになっている。
どうやらそうらしい。
Karina Rozunko / Seea
まあ、
定番であるボトムターン、オフザリップの連続は楽しいし、
深いラウンドハウスカットバックも気分爽快でそれはすばらしいものだが、
そのターンをするためにそれまでどれだけの時間が費やされてきたかを考えると、
初心者でも比較的簡単にターンができるようになるオルタナティヴ族に較べて、
コストパフォーマンス(コスパ、CP)は低いといえよう。
まあ、これだけ上手なサーファーが増えると、
メインストリーマーの大量生産のようで味がないというか、
すでに個性を失いつつあるように思える。
ジョンジョンやシーバス(セバスチャン・ジーツ)たちは別格であるので、
メインストリーマーだとは思ってはいない。
さて、浮力がないボードは、一般サーファーにしてみたら
「波に乗れない」
「または波に乗るのがむずかしい」
そう断言できる。
Nation Factory / Lamborghini
日本ではショートボードの流行と共に
ーー30年も前から「波に乗る」という起点を考えずに、
小さなボードでサーフするというのが一般的になった。
結果、
「乗れるようになるまでは1年かかる」
「あんなむずかしいものはない」
そういう噂を呼んでいる。
実際私も波乗りを勧めた人からそう返事が返ってきたことも多い。
Toodee and Alex Knost (ウナクネ総帥)
先日も千葉一ノ宮でお父さんが子どもふたり、
お母さんが子どもに波乗りを教えていたが、
どちらもショートボードを使って教えていた。
波に押された子どもたちは、やはり立ちあがるのが精一杯で、
次の瞬間には水の中に飛び込んでいた。
「がんばれ、もう少し」
「膝を曲げてこらえろ」
そんな親の声を受けていた子どもたちは、
笑顔というよりは、
綱渡りの練習をするように真剣な顔で沖に戻っていった姿をおぼえている。
浮力があるボード、
例えば8フィート以上のエッグシェイプ等に乗れば、
または大きなボード(8フィート以上のサイズを指す)で、
波が小さければその日に、
岸で立ち上がり方の反復指導を受けたら
一本目から立ち上がって波に乗ることだって可能となる。
まずは波に乗りましょう。
乗って、滑って、楽しさを知っていただきたい。
波に乗れずにめげたサーファーは世界で何万人もいるのだから。
最初から難しくおぼえることはないし、
ショートボードに乗れなくても良いと思う。
Blake Hanson
話を戻すと、
その浮力が少ないボードに乗っているサーファーは、
操作性とダックダイブしやすいということだけで選んでいるのもあるだろう。
操作性と書いたが、
これは逆を言うと
『浮力がないボードでないとターンができない』
ささやかな力で操作しないと波に乗れないという表れで、
切れ込み過ぎる傾向を「キレがある」と思い込んでいる人も多い。
私も例に漏れず、最初からこの類のサーファーであり、
そしてその中での競争をしていた。
Greenhill Cafe / Amami
そろそろ項のスペースがなくなってきたのでまとめまると、
聴かない音楽ジャンルも受け入れる人。
または聴きたいジャンルのものだけ聴く人。
そう考えると波乗りもジャンルに分かれてくると思える。
波に乗るための答えはないのだが、
元々アウトローであるはずのサーファーが、
均一的なボードやその技能に執着するのは皮肉であるといえる。
さらには少し乗れるようになって、
サッカーママ系が登場するのも2016年だからか。
それは格好良く、
そしてワイルドだった1970年代からの先輩サーファーたちは、
車からボードラックを出してワックスを塗り、
常にブーツを履き、例の帽子をかぶって、
ラッシュガードを着てサーフしているサッカーママ系のサーファーたちがどう見えるのだろうか?
Mitch Abshere
それぞれ人のスタイルがあるように、
サーフィングスタイルが、それぞれのライフスタイルとなる。
選択肢は自由で、それらを組み合わせるのも自分次第だから、
あのワイルドなサーファーというのは永遠にかっこいいものだと再確認した夏の終わり。
または秋のはじまり。
前出した丸井プロの季節でもありますね。
すばらしい日曜日となりますように!
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