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【naki’sコラム】vol.30 The White sound. -白音-

 

ビッグイベントのクリスマス、新世紀となったニューイヤーズデイも迎え、いまだにのんびりした休日ムードが抜けずにいる。

一昨日、そして昨日と大雨が降った。
新聞「ロスアンジェルスタイムス」の公式発表によると、この降雨量はこの冬最大だということ。
春から夏、そして秋まで大陸に堆積した汚れがバクテリア(細菌)となり、海に流れ込んできている。

キャピストラノビーチの崖まで行き、眼下に広がる海を見ると、川からの流れが、岸沿いをくねくねと曲がりながら茶色い帯を海面に作っていた。

雨によって海に流れ込んだ細菌は、傷口や、粘膜経路で感染する。
サーファーにとって、恐ろしい病原菌だ。
先日、オーシャンサイドで波乗りをした友人が感染し、発熱後に意識不明となり、救急病院で集中治療したほどなので、カリフォルニアでの雨の翌日には注意したい。

俺はクリスマスの前週に新体験をした。
それは波乗りの新しい世界に違いない。

東日本でこの秋一番の寒さをもたらした寒気団。
それは勢力を増しながら北に向かい、アルーシャン海域でさらに発達する。
冷たい猛風の下で海面は、同一方向に、波となって揺れ動く。
波は連なり重なり、それはやがて大きなうねりとなり、貿易風に乗ってはるばるハワイ諸島のある中央太平洋海域に突進してきた。
うねりとなってから実に100時間がここまで費やされている。

ハワイ諸島で3番目に大きい島、オアフ島。
その北部には「7マイルの奇跡」という伝統的な波乗りができる海岸があり、この大波は世界中から集まったサーファーたちを歓喜させた。
ソリッド20フィート、つまり波の前から計ると15メートルという北西うねりは、ハワイ諸島に上陸し、すさまじいエネルギーを波の切っ先にこめてブレイクした後は、北米大陸の西端までさらに進んだ。

南カリフォルニア。
その入り組んだ地形から「オレンジカウンティの秘境」と称されるラグナ・ビーチ。
そこにモナークビーチと呼ばれる小さな岬があり、隣に白砂が広がる群立海岸公園『ソルトクリーク・カウンティビーチ』。
ここはオレンジ群で北西うねりを最大に捕らえる海岸として、ローカルサーファーに知られている。

その湾の北側にサーファー達の間では、『ザ・ピット(穴蔵)』と愛称が付けられた海底隆起がある。

ここは、ものすごい波の饗宴がここで展開される。

さきほどのうねりが未明に届いたザ・ピットは、朝陽と共にその大きな口を開いた。

夏期を形の良いポイントブレイクで過ごした俺にとって、「ザ・ピットで入る」というのはいわば形式化された冬の儀式で、楽しいターンの繰り返しとは違った感覚となる。

波への畏怖や、海が創り出す芸術作品に触る気構えと、宗教的にまで昇華された静かなこころが求められる。

セットの起伏が水平線を上下させながら近づいてくる。

沖にパドリングし、ラインナップに到着した。
まずは呼吸を整える。

斜面が一番最初に凹むピークからドロップインし、波壁に沿うようにして降下すると、壁の先端が弧を描きながら自分を包む。

波が海面に炸裂した轟音の反響、濃藍色をした波の壁、部分的に砂を巻き上げているエリア、天井から先へ薄くなった部分が太陽に透けて艶麗な視界を創り出した。

その中で、楕円に開いた外への門までただひたすら走る。

やがてセクションがつながってしまったのか、出口が遠くなり、曲がった壁で見えなくなる。

空間にあった大気は、収縮と共に加速度的に圧縮して、

「キュイーン」

という高い金属音が俺を包んだ。

さらに圧縮が極まり、そして世界は「完全無音状態」と化した。

それは例えるなら真空というか、今見える全ての光景が本質をもたない因縁による仮の現象として存在しているように映った。

これは今まで経験したことのない神秘的なものだった。

その空間で俺はサーフボードに乗って、滑走したまま凍っていた。

突然、壁の角度が横方向へと変化し、泡が真下に発生して一瞬で波の中に吸い込まれた。
背中に強く感じる海底の硬い感触から解放され、海面まで浮上すると、まるで世界が変わってしまったかのように精神は解き放たれていた。

のみならず五感全てが研ぎ澄まされたようで、震えるように体が興奮している。

この感覚は長く持続し、夜になってもなかなか睡ることができなかった。
これが何なのかを説明しようとしばらく考えていたが、一番しっくりするのは「宇宙飛行士が青く輝く地球を初めて見た」というのに似ているのかもしれない。

翌日ドノバンと会って、体験した無音状態全てを説明すると、

「おーそれか!下まで開くチューブの中では毎回起きるぜ、バックドアなんかは風景がカチッと固まるのさ。お前初めて聞いたのか?」

と答えが返ってきた。

ディノも向こうからやってきたので同じことを聞くと、

「俺は耳がいいからシュワシュワと泡のはじける音が聞こえるんだ」

と、やはり彼らは何百回もその境地をすでに経験済みだという。

波乗りの持つ新世界に感動し、それからというもの波が出るたびにザ・ピットまで行くのだが、あれから一度も「無音」にはなっていない。

しかし、波を見る世界観が変わったようで、波はより自然的なものと理解するようになった。

 

追記:サンクレメンテのレジェンドが、(バレル内の無音状態のことを)『ホワイトサウンド』と言う」と教えてくれた。これこそ名は体を表していると思える。

 

(了、1/14/01)

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