新品・中古サーフボード販売、カスタムオーダー、ウェットスーツ、サーフィン用品など。NAKISURFは、プロサーファー、フォトグラファー、ルポライターで知られるNAKIこと、船木三秀のコンセプトサーフショップです。

naki's blog

【naki’sコラム】vol.49 波乗りは自分への挑戦

今朝は風が合っている島南西の闘牛岬、シュネレガンズには目もくれずにホワイトハウスに一直線で向かう。
連日15から20ノットもの強風に南側は全滅と聞いていたので、ハイウエイ沿いのパーキングはほぼ無人。
波はセットで軽くダブルオーバーあり、強いトレードウインド(今日はほぼ東風)にあおられたリップが干潮とあいまって、ねじれ、よれて、恐ろしくも強烈な無人ブレイクを見せていた。

先発していたカイル・鞠黒が近寄ってきて、
「サーフボードじゃ嫌だから”Catch Surf”を貸してくれ」
と電話であったようにキャッチサーフのソフトボードをサビタから取り出し、
「どうする、入るのか?」
と聞くので、
「間違いなく入るよ。もう俺はあの混雑スパイラルから逃れないといけないんだ」
BD3にワックスアップ。

この短いボードを使うには伏線があって、俺が日本にいたときの南うねりがダブルからトリプルサイズのパンピングだったという。
その日のホワイトハウスはうねりの向きが合わず、ほぼクローズアウト状態。
ここのヘビーローカルである巨漢オライアンだけがひとりパドルアウトし、クローズアウトの隙をついて切れた波に乗り、
「すごいバレルを抜けた」
という伝説に近いシンジツがAVISOのジョンからメールによって届いていた。
ジョンはさらに
「俺はNAKIがBD3で、このホワイトハウスの巨大波を滑るところが見たい。それが今の夢みたいなものさ」
と続けてあったことを思い出したというか、今日ここで実践してみせようと思ったのだ。

狭い浜に降りて、沖を見るとホワイトハウスのセット波リップがたわみ、フェイスが歪み、えぐれながらブレイクしていた。
しっかりと海に、岩に、海面に、そこに浮いているウミガメにも祈ってからパドルアウトする。
「これはもはやサーフィングではなく、修行だなあ」
と宮本武蔵の名言
「我、神仏を敬い、神仏に頼らず」
を思い出した。
突然強い雨が降ってきて、世界を暗くし、横風が海面をさらに凸凹にしていく。
かなり怖い環境となったが、
「これは千日の鍛稽古、いや万日の練稽古の一環なのだ」
と自らに武蔵の言葉を言い聞かせてパドルアウトする。
実際にこのサイズの波はもちろんやったことがある。
けれどこの猛烈なる横風、そしてこの暗さはなんとなく経験がなかったのですこし怯むが、もうすでに矢は放たれている。
沖に出ると、ひさしぶりのホワイトハウスにうっとりどっきり。
しかもこの南西、南、南東うねりの特徴なのか、水の量が多く、ピークの下では干潮マイナス0.11フィートと低いこともあって、リーフが露出しそうなほどのボイル。
しかもボトム付近がガボガボっとリーフの亀裂を反映してえぐれていた。
それを見て「Whoaaaa」と声が出る。
「こんなの降りられるのか?」
「俺はおとなしく闘牛岬で”いい波”に乗っていた方が幸せなのでは?」
ということが頭をよぎった。
そんな中、カイルが真面目な顔をしながらその恐ろしいエグレにドロップを敢行した。
「ゲー、ドドゲー!」と俺が言ったかどうかは定かではないが、そんな気持ちだった。
カイルは無事そのドロップをなぜかメイクし、その人生を継続することができたようだった。
セットが入り、一本目、二本目、そして3本目と俺の波だったのだが、まだ用意と気持ちの整理がついてなくて、斜面に向かってボードを落とせないでいた。
「できれば一本目は、そこまで恐ろしくない波でピークからするするっとテイクオフしたい」
という希望だが、世の中はそんなに甘くないことを知っているので、それはあくまでも希望として留め、カイルが叫ぶ
「Go go!」
という誘惑にも負けずにそれをスルーした。
そして、また次のセットが来る間、しばしの平和が訪れた。
こうなったらこんな恐ろしい波には乗らず、カイルの波乗りを指揮する『波乗り総指揮』として、沖に浮いていようかと思ったりもした。
すぐに次の波群が水平線にドーンと現れた。
その一本目の波が大きかったが、水量があるからかそこまでガボガボしていなく、さらにその波のフォーム(形)が
「俺に乗ってください」
と言っているようにフェイスを拡げていった。
おーし、
「われ事において後悔せず」
とまた武蔵の言葉を思い出し、全力でパドルして波の中に降りていった。
加速、滑走後、全速となったBD3はなぜか大気の上に浮いているような気がして、さらに俺の意識もスローモーションとなって、波斜面のコブ、リップのねじれ、エグレ全てを実体験した。
そのままボトムでボードを傾けて、その広いセクションを駆け上がる。
進行方向にダブルアップとなる海面の段を見つけたので、波の中腹あたりでボードを切るように落としこむ。
それはやはりダブルアップとなり、波はさらに切り立ち、俺の速度を上げる。
膝を波側に向けて曲げて、壁に張り付きバレル風のポーズを取り、セクションをすべてメイクした。
次のセカンドセクションは水深が深いことを知っているので、
「ボトムターン後オフザリップ」
と天気予報みたいなターンの切り返しにひとり酔う。
その後、思いきりキックアウトし、平海面に滑り降り、「YES! WHITE HOUSEちゃん!」といつものフレーズを叫ぶ。
沖に戻ると、すぐにカイルが「Yeah!バレルだっただろ?」と聞かれたが、正直に
「怖いからね、入らずに走り抜けたよ」
と言うと、
「そうだろそうだろ、ストール(減速)するのは怖いもんな」
と彼もこの気持ちを知っていたのが無性にうれしかった。

ここからは怖いのが50%、恐ろしいのが25%、そして無敵な気分を25%持って、セッションを続けていった。
カイルのものすごいテイクオフ。
それに誘導誘惑されたように俺もその『ものすごいテイクオフ』をメイクしようと、慣れもあって、無理気味セットのピークの下に入り込んだ。
だが、これはノーチャンスのようで、ボードのレイルはおろかフィンも波に喰わずにフリーフォールしていった。
落下する瞬間に気づいたのが
「ここはめちゃくちゃ浅い」
ということ。
しかも高さ4mほどもあるリップの下からだと、海面に影をつけているリーフがわかり、
「しまった!」
と両手で顔と頭を覆った。
落下。
最悪の事態を想定して体を丸め、柔らかくしておく。
初期衝撃が強烈にやってきて、次の瞬間には波が俺をさらい、第二衝撃後は海中に漂っていた。
やった!
なぜかリーフに当たらずに済んだのだ!
感謝しながら海面に上がると、カイルが心配そうにこちらを見ているので、
「イエーベイビー!」
とオースティン・パワーズの口まねをしながら親指を立てて安心させる。
気をつけなければ、とさらに自らを引き締めていると、先週のヒーロー、オライアンがパドルアウトしてきた。
その時の波を尋ねると、
「かなり良かったぜ、誰もやらないから今度一緒にやろうな」
とやさしく俺に言う。
握手しながら彼の目を見て、
「ハワイ波はやはり本物で、こんな重さを持った男を作りあげるのだ」
という深い感想というか実感を持ち、これをブログに書かなくては、と下界のことが頭をよぎる。
そのためには生きて帰らなくてはならない、とさらにさらに気を引き締めてセッションを続けていった。
やがて風もさらに強くなり、干潮から潮が切り替わるためかセットが一切入らなくなり、
「俺は上がるよ」
とカイルに言い、次の波を持ってセッション終了とした。

岸までパドルすると流れがすごく、全力で漕がないと岸に近づかない海流にこのうねりの凄さを知る。
ようやくたどりついた上がるための岩棚を見ると、いつもより少し違う形に見えた。
でも岩の形が変わるわけはなく、そうしてみると
「俺が変わったのだ」
ということを考えながら浜にたどり着いた。
砂浜に立ち上がり
「生還した」
とその達成感と、ほぐれていく緊張からか左膝が左右にとめどなく震え、その震えは1時間あまり収まらなかった。
文章を書いている今も両肩の後ろは弱く震えていて、サーフィンの持つ醍醐味と深さ、そして恐ろしさを味わった日となりました。

「挑戦」
とは字にすると、たった二文字だけど、この意味をまた知り、
「波乗りは自分への挑戦だ」
と言葉にしてこのコラムを締めようと思う。

(了、2009.06.26)

»Naki’sコラム一覧へ戻る