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naki's blog

【naki’sコラム】vol.53 Morning Mist Never tells lie. 滑空を滑走に変えた日

ブイが下がった。
夜明け前にソフトサンドに出発する。
昨日より半分程度、または2/3サイズのようだ。すると頭半くらいできっとパーフェクトになるぞ、と心を躍らせながら向かった。
ソフトサンド到着前はこのように岬の山々が見えるのだが、朝は無風のためここにミスト(霧)が多くかかると波が大きく、霧が少ないと波が小さい、というのは長老フレディのインディケーター(indicator)だ。

今日はなぜかこの霧が多く、フレちゃんは「おかしいな、波が小さくなっているはずなのに」とこぼした。
到着すると、朝霧が教えてくれた通りに波が大きくて驚いた。
確実に昨日よりも大きく、セットだらけである。
海の塊みたいな分厚い波がリーフの先端で、横で、外れでブレイクしていた。
WOW!
と言いながら、フレちゃんを振りかえると彼は
「Morning Mist Never tells lie.」
という新しい格言を言い放った。
「朝霧は決して嘘をつかない」というのが直訳で、
俺はマーボーさん風の意訳に変化させ、それは
「朝霧はシンジツのみを伝えてくる」としたら落ち着いた。
海は不思議です。
昨夜降った雨で道路は泥となり、湿気がすごい。
曇った空の下に切り立つソフトサンドリーフの波。
これはガンだな、と思うが、波が小さくなったブイ情報を信用していたので、BD3と小波用の細いコンペリーシュだけという装備。
それで砂浜に降りていくと、波はさらに大きく見える。
セットが入らないときに沖に出て行かないと、このリーシュではボードを捨てられないので、一発で切れてしまうだろう。
軽い体操をしながらセットを見る。
中サイズが4本入る。
そのセットが終わったときに沖に出ようとしたのだが、目を凝らすと水平線にうねりのこぶが見えるような気がする。
それがセットなのか、ただの錯覚なのかがよくわからないので、それを確認するため少し待つと、1分後にものすごい波が2発来た。
どのくらい?トリプルオーバーは間違いないだろう。
どちらにしても俺はあのサイズをダックダイブできないから、あそこで終了していただろう、と想像したら体が少し震えた。
震えるのを抑えようと、少し体操するが、各動作を慌ててやってしまう。
落ち着け、と自分に言い聞かせる。
そんなこんなでゲッティングアウトを開始する。
岸にくる頭程度のスープ(泡波)までも強烈にパワーがある。
すげえ、さすがハワイだ。
と微妙な気持ちながら波を讃える。
昨日までの歓びを感じようとするのだが、不安のほうが勝っているようだ。
途中の、ちょうど中間地点で流れのせいか、前に進みづらいエリアでセットが入る。
ここはわりと浅めの水深なのだろう。
中サイズなので、ダックダイブを深く、完璧に実行した。
それでも揺れて、横を向きながら海面に上がってくる。
泡と海面のブレと歪みがすごく、例によってボードが進まない。
進め進め。行け行け。
次が来た。
またダックダイブしようと息を吸うと泡が跳ねてきて、吸い込んでしまった。
咳をするとやばいので、それを飲み込んで潜る。
波の下が長い、苦しい。
揺れながら海面に上がってきて、咳をすると水を吸ってしまったようで胸が苦しくなっている。
やってしまったが仕方がない。
もう一発。
苦しいが、なんとか上がると、沖に波が見えなくなった。
今だ~!行け行け~!!
「根性根性ど根性~」と、ど根性ガエルのセリフのように、根性を気に据えた。
ゆっくりと確実にパドルする。
息が苦しいのだが、呼吸法だけに気をつけながら右、左、右、左と進む。
流れがない箇所まで来た。
ここは深いだろうから、特大セット以外はブレイクしないだろう。
少し一息ついた。
よかったぁ。
でもここで気を抜いて特大セットが来たことが何度もあるので、余計にパドルして、特特大セットまで予測したアウトまで行き、そこで一休み。
はぁ~。
そんな思いをしながらの波乗り。
ピークまで行く。
岸を見て、自分の位置を合わせて波が来るのを待つ。
波が来た。
胸が高鳴る。
こんな日に波を乗ることはレジャーでなく、執念であり関門である。
それがこんな苦しくて、恐ろしいゲッティングアウトに現れていたのだろう、と考えながら最初のセット波をスルーすると、その後ろには三角形に切り立った「極上特上大間の本マグロ大トロ波」が現れたのです。
サーフィンバンザイ~!
と波に乗り、またさらに乗りました。
特大セットはなぜか喰らわなかった。よってリーシュは切れずにフルセッションを無事に終えました。
岸に上がると、
「最高でしゅ~」
となぜか具志堅用高のモノマネを反射的にしそうになるが、そのくらいハイになっていたのだろう。
と落ち着きはらった顔で車に戻り、BD3をカメラに持ちかえてパシャリと一枚。

今日は波乗りのすばらしさに俺の感覚はまるで鳥となって大空を駆けたように感じる。
羽と、翼はないが、滑空を滑走に変えた日。

 

(了、2008.11.16)

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