風の音を聞いていた。
空気を割くような甲高い音。
木々が揺れる音。
風に煽られる波が、
嵐の大きさを物語っていた。
ときおり激しく降る横なぐりの雨。
台風の接近に胸騒ぎを覚える人たちがいる。
この日のために研ぎ澄ました精神を、
一気に解放させるように、
念を込めてサーフボードの準備をする。
サーフィンは技術だけではなく、
精神の大切さも実感させてくれる波の到来。
こころを満たす海の存在。
波乗りの後のあの充足感は、
何ものからも味わうことが出来ない。
満たされた心とリラックスした身体。
海上がりに感じるのは、
心身のバランスが保たれるという実感。
朝陽とともに起きて、
日暮れとともに眠りに落ちるような、
自然のなかで生きる穏やかさにも似ている。
豊富な波、
暖かい気温、
降り注ぐ太陽の光。
今年もまたストーリーに満ちた季節がやってきた。
台風の動向に目を見張り、
それぞれの旅路へ向かうサーファーたちの季節。
ある人は北の大地から、
ウネリの入りやすい場所へと旅をする。
そしてある人は、
この日のために寝かせていたボードを持ち出し、
「思い描いた波」に乗るために入念なワックスアップをする。
美しい波に宿るストーリーは、
乗った人の心に永遠に焼きつく。
それは海がサーファーを引きつけて止まないもののひとつだ。
あたたかく湿った強い風は、
台風通過とともに穏やかになり、
やがて美しい波を形成するオフショアに変わるだろう。
雲間から降り注ぐ激しい日差しとともに、
サーファーたちは一斉に海に向かいだす。
木々を揺らした甲高い風の音は、
「ゴリゴリ・・・」というワックスを塗る音に変わっていた。
それぞれの夏が走り出していた。
「お気に入りのサーフボード」とともに・・・。
(じゅん)
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