コラムvol.6 ロマン主義者たちの冒険 / コスタリカ編 PART2
カリブへ。

朝起きて波を見ると昨日同様の肩頭程度のミニマムサイズ。カリブ行きを決定したところでシエィが現れ、同行に同意。オスカーは古傷の靱帯を痛め、左膝が倍ほど腫れているため断念。シェーンとゴーキンは昨夜到着しているはずで、彼を誘いに行くが、かなりの疲労でパスとのこと。結局メンバーはシエィ、ケーシー、僕チームがジープ隊。ローガン、ベンが昨日来たブライアン、コンリー・チームを形成し、車2台で僕らのいる太平洋側からは国の反対側まで向かう。旅にはトラブルが付きものだが、いきなり通過点の首都サンホセで迷う。東京・新宿東口のような階層のある道路状況、標識すらなく、加えて一方通行が多い。行きたい方向に行けない。魑魅魍魎と化した車群がめいめいにクラクションを鳴らしながら走行する地獄都市ドライブに心底疲れ果て、ケンタッキーフライドチキンでランチブレイク、落ち込んだ気持ちを立て直す。道を聞き、地図通りに走っていたら先刻見たことのある風景が、なんとハモサビーチへ逆戻りしていた…。ハンドルを強く叩き悔しがるケーシー。バイパスのため引き返すことはおろか、曲がることもできずに約20分間重たい空気が車内に充満する。最初の測道に逸れてから地図を再び開くのだが、もう誰もサンホゼには引き返す気にはならなかった。シエィの提案により目の前を走る旧道を使ってみることにした。この道で行けなければハモサに帰ろうよと、弱気なアイディアが出る。この旧道は道幅が極端に狭く、疑心闇疑に進む。約1時間後にようやく、正にようやく目的の国道へ出た。車内全員でハイファイブ。更に途中、大小の河にかかる無数の橋を越える。スペイン語で河はRIO、リオの冠の付いた案内標識を読む『リオ・クレメン』、『リオ・ティエラ』、『リオ・スタンシア』。どれも赤茶色のゆったりとした流れ、玉石や流木で埋まった川岸、大きい魚がいるんだろうな、と僕は一瞬釣り師の顔になる。リオ・ブランコというサインがあって、ブランコとは「白」という意味だったな、と河をのぞくとそこにはやはり透明な渓流。どこでも名は体を表すのだ、と独りごちる。しばらく行くと、まるでジュラシックパークのようなナショナルフォレスト公園があった。それをかこむように急勾配のワインディング道路、そして給油所兼トラック休憩所、インペリアルビールの工場を通り過ぎる。途中、店の前でドラム缶をオーブン代りに鶏を丸焼きにしている食堂が印象に残る。
それから3時間同じような原生林風景を通り過ぎ、自転車とバイクで溢れかえる午後のプエルト・リモンに着いた。
ここは昔、奴隷の住む街だったらしく、褐黒色の肌を持つアフリカン系が多い。オレンジやグリーン、ピンク、イエローのカラフルな外壁の平屋の街並みは太平洋側と明らかに表情が違っていた。プエルト・リモンを抜け、左手に港、その後ろに海が現れた。波がある茶色いビーチ・ブレイクはサイドからの風にはあおられてはいるが、軽く頭以上はある。しかもジャンク気味で波の間隔が狭く、ファン・ウエーブとは言い難いブレイクだ。2キロほど沖に小島が見える。その右横には白い波が動いている。「あれ大きいよ!ホワイトウオーターがインパクトの時に上下に動くから。ほらねっ!」とシエィ。するとケーシーが「ここからの距離と、あの白波の弾み方といいチョープー(タヒチのサーフスポット/WCTが開催される大波で有名)ディールだな」と感想をもらす。「あの波には船をチャーターして渡るのだが、きっと巨大だからガンを用意しな?「とね」とシエィ。緊張しながら揺れ動く、彼方の白波を見つめる。写真を撮るとしたらまずは船から600mmを使って、フィルムは…..などとシュミレーションする。とにかく本当に波があるので、全員が興奮している。やはり情報は本当だったのだ。今夜泊まる場合に備えてシエィはガイドブックを開きはじめた。「プエルト・ヴィエホ。暖かく、風光明媚な海岸。ホテル、レストラン、ショップ」。少しして「風光明媚ということは何も無いんだよ。暖かいと言ってもコスタリカで寒い場所なんてないしね」と逆読みしている。茶色い波が延々と続く同じ景色、反対車線には検問所。

 

the POINT, the Captain Zero

さらに進むと道は大きく左に折れ、部落に入る。標識を見ると目的地プエルト・ヴィエホに到着し、車内で歓声をあげた。左右に立ち並ぶバーやレストラン、商店、ラスタ・カラーの垂れ幕。この街のどこかにその超世界級ブレイクがあるはずだ。そのブレイクを探す途中2人組のサーファーを発見するが、どうみてもビギナーっぽく、そのまま通り過ぎる。30軒程度の商店があり、ここがメイン通りなんだなと推察。そのあとはパームツリーがたくさん生えた砂浜となる。大小の岩が露出して4フィート程度のパワフルなビーチ・ブレイクがウオール(ダンパー=連なり)轟音を発していた。「wow!ブラジルにそっくり、サイズがあるしね。ポイントブレイクは岬にあるはずだからさっき通り過ぎた岬に戻ろうよ」とシエィ。
レストランの横に車を停め、海を見ると、頭程度の形の良いライトがブレイクしている。これが噂のブレイクなのだ、とひそかに感動する。岬突端からパドルアウトし、ポイントに近づくと、ダブル位の底掘れする千葉・松部系の波だった。しかもピークの下は岩が露出している….。うねりのスピード、ブレイクの強さ、50mはバレル内を走れそうなシェイプ、やはりここは世界一級品の波質であることを認識した。
サンディエゴのシーサイドからこの波に魅せられて移り住んできたテキーラ・サンライズによると、この波は『デビルズ・ダンジョン(悪魔の洞窟)』という名前がつけられていて、昨日までサイズは倍で、しかも無風のパーフェクトだったそうだ。その前の週にはフロリダから来ていたピーター・メンディアがこの浅瀬の餌食となり膝を割ってしまい、翌日の飛行機で緊急帰国したそうだ。ローカル#1 サーファーのマイコー(アフリカン/コスタリカン)によると、「明日の朝は風が落ち着くからきっといいよ」という。彼の紹介してくれたメイン通りのホテルを?チェックしていると、怪しい老人が近づいてきた。「Hi!こんばんわ私はキャプテン・ゼロだ。お前達は見たところエキスパートサーファーのようだが、なんでこんな表通り沿いの宿をとろうとするのか。私の経営する宿、そこはエアコン、バス、トイレ、冷蔵庫付きで2部屋あるしちょうど泊まれるぞ。そこでモノは相談だが、私は君たちには特別に一部屋15ドルしかチャージしないであげよう。本当は今夜、南アフリカからのサーファーが来るはずだったのだが、今のところチェックインしていないので、君たちに泊まる権利を譲ってもいいと思っている?Bとにかく見に来なさい!すぐそこで安全な民家に囲まれている。もう一度言うが私はキャプテン・ゼロという者で波乗り歴35年だ。疑うならサーファー・マガジンに私の記事が載っているので見るといい」と息もつかさず言う。面白いので見に行くと、いわゆる日本の文化住宅に似たバラック小屋で、とりあえず華奢なベッド、ドアのないトイレ、バス。「エアコンはどこにあるの?」とシエィが指摘すると、「冷蔵庫を開けて扇風機を回せばエアコンになる」とのたまう。絶句する僕たちを尻目に例の息もつかせぬ口上を延べ始めたので、それを遮るように、シエィが「ここに泊まるよ!」と決定すると、突然ローガンが「思い出した!わたしはあなたのキャプテン・ゼロのスマグラー、いやサーチング・フォー・キャプテン・ゼロ(キャプテン・ゼロを探せ)記事読んでいた。」と文法を間違いながらキャプテン・ゼロを指さす。「スマグラーって何だ?」と聞くと、あまり良い言葉ではなく、簡単に言うと密輸屋なんだそうだ。「密輸屋かー、じゃあスター・ウオーズのハンソロみたいだね」と僕が言うとキャプテン・ゼロの顔がほころび「昔は隣のパナマから麻薬を運び込んで一儲けしたものさ。今ではしがない爺だけどね」?と遠い目で言った。僕たちの声に気がついたのか、メイド風の太ったアフリカ・コスタリカンの親父が出てきて、泊まるかどうかを聞いてくる。キャプテン・ゼロは「全員ここに泊まるからシーツを替えてあげなさい、終わったら鍵はドアの上に乗せなさい」と指示をする。そして「ま?たはパスポートまたは運転免許でいいから見せなさい、最近は税務署がうるさいものでな」とポケットから手帳を取り出す。ベンがハワイの免許を見せると、ハワイ話で盛り上がり、2部屋分10500コロネス(貨幣価値でいうと30米ドルだが、現地では10,500円程度の価値に相当する)?ポケットに入れ、それと引き替えるように黒茶褐色をしたたばこ風の葉を出して「最上級のマリジャワナだ、欲しいかい?」と聞いてくる。全員で首を振ると、「私は表通りのタマラというレストランバーで酒を飲んでいるよ、そこはたった3ドルでおいしいスパゲッティが食べられ?るから後で顔を出しなさい」と去っていった。各部屋に蚊取り線香を焚いてからそこに食事に出かける。
タマラレストランは典型的なカリビアン料理を出す店で、甘い味付けの豆とライスを炒めた主菜がどの料理にもついてくる。ローガンはロブスター、シエィとベンは白身魚、ケーシーはチキンの丸焼き、ベジタリアンであるブライアンはフルーツとココナッツを食べた。小屋に戻るとさっきのメイド親父がいて、「カネは先払いだ、10500コロネス」と言ってきた。「えっ、さっき宿代はキャプテン・ゼロに払ったよ」とローガンが言うと、親父は激怒して、この小屋は俺の持ち物だ。そのキャプテン・ゼロを探してこい!と怒り始めた。ローガン組はサーファー・マガジン誌の記事と同じ台詞「キャプテン・ゼロを探せ!」とうれしそうに言いながら街に戻った。ぼくとシエィは目を合わせて笑い、歯も磨かずに湿ったベッドに潜り込んだ。
暑さと蚊で眠れないまま、意識を濁らせていると、台風のような風雨の揺れが起きた。小屋全体が軋んでいる。ものすごい雨と風、自然の驚異だ。
翌朝はすっかり晴れ、無風コンディションのデビルズ・ダンジョンに行くと、昨日より大きい波が岩棚に炸裂していた。まだサーファーは誰もいない。それぞれリーシュを入念にチェックして、真剣な顔で沖に向かう。
海面下に凹むボトムを見ると、降りられる気がしないのだが、さすがWCTサーファーのシエィだけは波を堪能している。バックサイドで50m以上もバレル内をフルスピードで走らせる。そのうちブチキレたケーシーがドロップを繰り返すのだが、ひどいワイプ・アウトとなって、海底に吸い込まれてゆく。いつものことだが一級品の波にはかならず鋭い棘がある。このファースト・ピークの棚を越えると、急深となっいて、海底に引きづり込まれ、渦に似た流れの中で長時間呼吸を耐えなくてはならない。浮かび上がると強い流れがレフト側に向かっているので、ラインナップには戻れなくなってしまう。結局最初にエントリーした岬の先端から戻る事になる。僕らはこれを『世界一周』と名付けた。更にこのコントロール不能になって撃沈してしまうテイクオフに「デビル・ドロップ」と名付け、以来使用している。
5時間にも渡る猛チャージ、いわゆるスーパーセッションを満喫した。こういう極限状態後はいつでもだが、砂浜を踏みしめると全身に拡がる至高の安堵感が体内を満たすのがたまらなく気持ちいい。タマラでランチ後、みんなにお別れを言い、太平洋(=マイスイートホーム)に向けて出発する。このプエルト・ヴィエホはジャマイカのようにドレッド、レゲエに占領されたIREタウンで、人々は笑顔でのんびり歩き、毎夕、ストリート対抗のサッカー大会がビーチで催されるというアフリカン・クラシックな場所。またのんびりと来てみたい、アディオス。帰り道?ヘパナマ国境に近いせいか、全車停車義務の検問所があった。パスポートを見せる(外国人は旅券の常時携帯が義務づけられている)と丸顔の警官が「ハポン、ハポン!(Japanのスペイン語読み)」と、ぼくのパスポートを見て喜んでいる。W杯サッカーで日本が決勝ラウンドに進んだ影響であろう。(ちょうどこの頃W杯決勝トーナメントが開催中)高速走行する山道、暗い雲から大粒の雨が落ちてきた。熱くなったエンジンフードから大量の湯気が出て、ウインドシールドを曇らせる。エンジンの負担を考えてかケーシーがすかさずクーラーを止める。

最後の峠にさしかかったところで渋滞が始まり、完全停止してしまった。1時間に2度ほど反対車線から30台程度の車群が過ぎ、少しするとその30台分前進し、また永く停車する。車から降りて歩く人が目に付く。これは大事故があったんだろうねと分析する。デビルズ・ダンジョンの水にすっかり浸された脳をもって強烈な波を回想する。陽は落ち、暗くなってきた。ようやく事故処理が終わったのか、車は前進を始めた。サンホセでまたもや迷いながらウィッシュボーンを目指す。ケーシーは念仏のように「サシミ、ビール、サシミ・・・・」と唱えている。>>PART3へ

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