あり余る時間と情熱にあかせて、さまざまな場所で色々なサーフボードに乗ってきて、気づいたことがある。
それは、「初めてサーフィンをした波質が、自分の好きな波を形成している」ということだ。
私は鎌倉は七里ヶ浜のリーフブレイクでテイクオフを知った。若布の季節で、ワイプアウトをするたびにそれが顔に覆い怖かった思い出があるから初春の干潮だったのだろう。
そこで波のある日は、一日中波乗りをしていた。疲れ果てて上がると、江ノ島と小動岬の向こうに沈む透明な夕陽にうっとりとして、近づく江ノ電の汽笛にしびれたのだ。今でこそベン・ハーパーという高尚な音楽を聴いているが、当時はYMOかサザンオールスターズ一直線で、また準備体操にはストレッチなどなく、ラジオ体操風を適当にして、海に入っていたのだからいい時代だったのだと思う。
俺の波乗りを始めた場所、この波質は、テイクオフをすると3mくらいの壁となる。本当はもっと長い壁だったのだろうが、初心者なのでショルダー側からテイクオフをしていたのだからこんなものだろう。そのままそれを突っ走り抜けると、その壁が手前内側に曲がり、その角度に合わせてボードを傾けてカットバックする。泡が近づくと重心を低くして落ちないようにして、泡に押されたボードと俺はそのまま岸まで何度かチョットバックという偽ターンをしながら乗り、エイヤッとプルアウトするのが極上の満足ライディング、これがオガマさんやカカイさんという超大先輩たちの言うところの「マンライ」であった。
そのマンライが一日に3本出ればしめたもので、当時酒を飲まなかった俺は藤沢吉野屋に原付を飛ばし、景気よく牛丼大盛りを食べたものだ。
そんな名水鎌倉でサーフしていたと思っていたら、茅ヶ崎のビーチブレイクに越し、カリフォルニアに渡り、いつのまにかノースハワイに来ていた。
こちらは世界の名水で、有名な大波がバンバンとやってくる。
大波も毎日あると飽きてくるもので、というよりスリルは疲れることに気づき、南西の小さなリーフ波に行ってみようと思い立った。ここは夏のブレイクなので、こんな季節には人などいない。たまにいても観光ガイドを読んでやってきたツーリストで、波を待つ場所がオフセットされているのですぐにわかる。
ここには丸いノーズラウンドノーズ・フィッシュ(RNF)系がよく合うので、AVISO-RNFからQちゃん、はたまた12年前の創世記RNFなどを持っていって、ジャキッとターンしたり、大きなカービングでトム・カレンを気取ったり、ノーズライディングを決め、「もうジョエル・チューダーは過去の人だ!」とひとりつぶやき、胸を張る。
だが、それは頭の中に発生した幻視、幻想であることは知りながら、舞台に上がった役者のように入り込んでしまう自分であった。実際にジョエル本人と会うと、そんなことを忘れ、「世界一のサーファーだ!」感動してしまう軽薄な俺も知っている。(実際に世界一と思うサーファーはジョエルの他にも多く、その都度変わる変動制の象徴なのを理解してほしい)
そんなある日、コールがメイヘムからRNFデザインを盗用したBULLET FISH(以下BLF)が届いた。
BULLET =ブレットとは弾丸という意味で、弾のように速いフィッシュということからこの名が付いたという。メイヘム版と、このコールBLFの大きな違いはレイルフォイルと、少し尖ったノーズとテイルキックだろうか。コールのレイルフォイルが微かに繊細で、ノーズは尖り、テイルキックがほんの少し付いている。
これら両デザインはリリースから10年は経っているので、すでに完成されているのだろう。
みんなが気になる感想は、率直に「とても優れていて、どちらが調子良いか判断できないです」という優等生な意見を述べるが、やはり選択にあたってはブランド名で、またはロゴマークのかっこよさ、評判、友人関係、家庭環境、学歴、職歴、年収や、インスピレーションで選ぶといいだろう。きっとその違いでしかない。
以前オリンピックをTV観戦していて気づいたのだが、パラレル大回転(giant slalom)競技決勝で、1位から10位までのタイムの差が1秒にも満たないことを知って驚いたことがある。世界中から選ばれた選手、その技術、体力、体型の差がたったコンマ何秒の中に閉じ込められていたのだ。
先日のパイプラインマスターズ決勝でもそうだ。ケリーの波よりアンディの方がわずかに上回っていただけだ。彼らには差などなく、それぞれの波の選択が大きな違いとなったのだろう。
一流となればなるほど、その差は狭まるのだ。
これを用いて説明すると、BLFとRNFの相違点を説明しやすいと思う。
このリーフ波の特色は、小さくても大きくても変わらない緩やかな斜面につきる。カリフォルニアではサンオノフレやトレッスルズ、日本だと御宿や鎌倉を想像するといいだろうか。
その長く伸びた斜面は無風コンディションと相まって、滑らかにフェイスをギラ反射させている。
冒頭に出てきた初めて乗った種類の波だ。
深い愛を捧げたいほどの波質。
美しい…、と見とれながらしっかりとパドリングをして、BLFを波に漕ぎ入れ、トーンと両足を一気に乗せ、遠くまで伸びたショルダーの向こうまで走り抜けたい気分になるが、あえてゆらゆらとファーストセクションにターンをかけていく。
一回のターンをきっかけとして加速する。そして、もう一回とさらにターンをすると、追加速し、これで最高速となった。
そのままボトムでボードをスクエアに(思いきり)寝かせ、そのままトップに跳ね上げると、ボードは狙ったところに見事に駈け上がった。ボードの裏側で重い波先を受けながらテイルを返すと、さらなる加速を感じ、今度はさらにフックの先にまで出て、大きなラウンドハウスカットバック(RHC)をしかける。
RHCの成功の鍵は、トップから向きを変え、最後にはスープに当て込むリエントリー(再入場)までを100%として、それぞれのステージにその100を割り振るとやりやすいだろう。
例えば、最初の向きを変えるトップターンに20%、そしてそれを10%でボトムまで持ってきて、ボトムからトップにあげるのを40%、最後のリエントリーに30%を使うというメカニズム。または最初に15、それから10、ボトムで25、最後のリエントリーに残りの50%を惜しげもなく使うと、ものすごい返しとなる。
そんな種類、バリエーションを考えながら波を乗り継ぎ、スケーティングして、最後はスピードが残っているところで、「ズバン」と威勢良く江戸前プルアウトだ。
無論これはマンライである。
“俺は今生きている!”
と感じ、湧き上がってくることがあるが、それはだいたいこんなマンライのときだ。
あまりにもうれしいので、パドリングをいつもより強めにして沖に戻る。沖に戻ったところで、腹の前あたりに何か見えるので「?」と思いよく見ると、空の雲が海面に映りこんでいた。上を見上げると、海面に映っている雲よりしっかりとした輪郭の雲が3つ、青く広い空に浮いていた。
詩的な表現で恐縮だが、こんなにもゆったりとして、満ち足りた気分にさせてくれたBLF。
BLFにありがとう、波にもありがとう、ハワイの海にも、コールにも、健康にも時代と、太陽へと、感謝の気持ちがとめどなくあふれた。
まとめるとBLFの早いテイクオフ、あっというまの最高速、精確で流れないターン、歯切れ良く、やわらかく艶のある動作、女心がわかり、瞑想させ、精神を浄化し、世界に感謝させてくれるサーフボードはそうざらにはないだろう。
ひと昔前だが、一家に一台カラーTVという時代があったように、
空に雲 みんなで乗ろう BLF(ブレットフィッシュ)
というキャッチコピー句を詠んでみた。
(了、12/20/2006)
















