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naki's blog

【naki’sコラム】vol.65 落語『夢の中の酒』_(3838文字)

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演題: 夢の中の酒

登場人物:サバ、瀧朗、お花、美しい女

この演目を得意にしている落語家

故人: 十代目 鰻来(じゅうだいめ まんらい)

現役:  三遊亭 鰻楽(さんゆうてい まんらく)

えー、今日は古い話を聞いていただきます。

どうぞ最後まで楽しんでいただけたらと思います。

紫色の座布団の中央に座り、扇子を横に置く鰻楽。

えー、相模国、高座郡の藤澤なんていいますと、

東海道五十三次に出てくる宿場でして、

起点日本橋から六番目、およそ十二里半の距離でございます。

藤澤村の南側には相模湾が拡がり、

晴れた日には富士が、

それはまるで広重の絵のように見えるという美しい土地でございます。

藤澤には、

片瀬という江乃島を前にした村がありまして、

そこで生まれ育ったのがサバという気の良い男であります。

サバというのは、彼の本名ではございません。

子どものころからいい加減なことをするのはもちろん、

サバを読む、

もちろん言いつけられたこともサボる、

とにかくサバりまくるということで、

まあ、そんなあだ名がついてしまったんですね。

その彼がひょんなことから有名になり、

あれよあれよという間にそれは美しい娘が嫁に来るってんで、

村を上げて祝福され、

ふたりは江乃島が見える場でのんびりと暮らしていました。

ま、これは余談ですが、

サバが住むからサバリバなんていいましてね、

これは別の話でたっぷりと聞いていただきますが、

ある日の朝のことでございます。

 

サバは夢を見ているのかニタニタ顔。

普段から幸せな恵比寿顔が、

さらにどうしょうもないほどの幸せな顔を咲かしていました。

そこに主人を起こそうと思ってやってきたのがお花、

噂通りの美しい娘です。

夫の爛漫寝顔を見て、

「晴れがましいね〜。運気が上がりますよ。あんたの寝顔を見ていると」

そんなことを言いながらしばらくうっとりとしていたが、

そのあまりのデレデレ顔に何かがひらめいたようで、

突然心配になったお花は、

「お前さん、お前さん」

そう揺り起こしました。

ようやくあって起きたところで、

「どんな夢を見ていたかをお聞かせください。どうかお願いします」

そう尋ねました。

けれど、

「うーん、でもお前が怒るといけないから」

そうあって取り合わない。

断られても断られても、お花はしつこく食い下りました。

すったもんだあって、

決して怒らないならと約束して、

やっと聞き出した話が次の通りでございました。

(夢の中で)

サバが藤澤村の花沢町に用足しで出かけると、夕立に遭った。

ふと見ると、

珍妙で大きな建物があって、”八乃宿”と書いてある。

「ははあ、これはすごい旅籠(はたご)が建ったものだ。

こんなものは江戸に行ったってありゃしない」

たいそう感心しながら雨宿りをしようと、その下に行くと、

そこに置かれた銀色の丸い筒の小屋から泳ぐように出てきたのが、

歳のころ二十五、六のいい女。

「あら、あなたがお噂の、元祖正真正銘の、サバちゃんですか」

と、

「まあ、よくいらっしゃいました。

そこでは飛沫がかかります。どうぞこちらへ」

遠慮も果てず、その銀の筒の中へ押し上げられると、

そこは加州・髪結処という看板の店であった。

 

加州というのは、米国の西海岸のことですね。

 

木のちゃぶ台があって、

さらには新しい畳の香りがする座敷。

それはまるで江戸で見た居酒屋のようだ。

「外国の髪結処」と大きくあるのに不思議だ、と思っていると、

そこには豪華絢爛なお膳が出てきて、さらには酒が出てきた。

その美女に盃をさされたので、

「先輩の瀧朗くんは三度の飯より酒好きですが、あっしは一滴も頂けません」

そう断っても、女は勧め上手。

「まんざら毒も入ってないんですから」

と言われると、ついその気でお銚子三本。

そのうちどこかから流れてきた唄に合わせて、

「サバダバ〜サバダバ〜♪」

午後十一時唄の歌詞を口ずさみながら、

女は自分の顔をじっと覗きこむではありませんか。

サバはそのあまりの艶っぽさと、

自分が酒が飲めないこともあって、頭がくらくらとしてしまった。

すると、

「まあ、どうしましょう」

と、やさしく介抱してくれるではないか。

ややあって、落ち着いたので礼を言うと、

「今度はわたしがくらくらしてきました。いいえ、かまわないんですよ。あなたの裾の方へ入らしていただければ。

私にあのサバ手をお見せください。サバッサバーとやってくれるだけで私の熱い想いが達せられます。どうかお願い」

と、燃えるような長襦袢の女がスーッと横に入ってきたんですよ…。

というところで、

嫉妬なのか悔しいのか、かみさんが大声で泣き始めた。

そこにちょうどやってきたのが瀧朗。

「おいおい、朝から何てざまだ。向かいの親父も心配してこっちを見ているぞ」

サバ夫婦をしかると、かみさんが泣きながら訴える。

「ふん、ふん、……こりゃ、お花の怒るのももっともだ。

サバ!なんでえ、そうおまえはだらしないんだい。え!」

と、カンカンになりましたが、

「瀧朗くん、冗談言っちゃいけません。これは夢の話です」

「え、なに、夢だと?なんてこったい。夢ならそうお花が泣いて騒ぐこともないだろう?」

呆れる瀧朗をよそにお花は、

「きっとそんな下心があったり、示唆があるから夢に出るんです。ひどい」

と、引き下がらない。

挙げ句の果てに、瀧朗にその銀の筒小屋に行って、

「なぜ、ふしだらなまねをしたのか」

と、女に文句を言ってきてくださいと頼まれた。

私がこのタキビ詩を詠みあげて寝てくだされば、

夢の中に入れますから、と譲らず、

その場で瀧朗は寝かされてしまった。

(夢で)

「サバちゃんの先輩の瀧朗さん?」

そうやって例の銀の筒小屋から女が出てきて

「どうぞお上がりを」

「サバが先刻はお世話になりました。いやね、言伝(ことづて)を頼まれてやってきました」

そうやって上がり込んだ。

「お茶をどうぞ」

そう言って、女はなぜか酒ではなく、茶を持ってきた。

「ばかだね。なぜお茶を持ってくるやつがありますか。え?

さっきあいつが、

『私は三度の飯より酒が好きだ』と言っていただろう?

早く燗をつけて……え? 

火を落としてしまった?

……早く火をおこして持っといで」

「じきにお燗がつきますから、どうぞご辛抱なすって。その間、これを召し上がったら」

「いやね、サバはあたし、いただきません。

ある日からサバ嫌いになってしまったんですな。

ね、へへ、いやこっちの話でさ。お燗はまだでしょうか」

.

ここで大事なことを言わないとなりません。

そうでないと、せっかくのオチがやって来てもみなさんはわからないで、

アレアレ、鰻楽よ、お前さんオチてないじゃねえかと言われちゃいます。

まずは、この瀧朗の舎弟がサバ。

そしてそのあだ名を付けたのが瀧朗という人物です。

「サバ」

まさか、そんな欠点のような名前に陽が当たることはないと思っていた。

だが、世の中おもしろいもので、

猛烈世代には、サバるというのは、どうにも憧れに似たものがあり、

ゆとり世代には自分に重ねられるってんで、

“サバ”というのは当代きっての流行になってしまった。

自分で命名したせいで、あんないい加減な野郎が有名になって、

真面目で博識、

そして芸にも深く通じる自分は何も変わらない。

さらにはかわいい嫁を取り、

たっぷりと幸せに暮らしているあいつがなんとも悔しい。

やさぐれたくとも、ひねくれたくもないが、

瀧朗の心のいくばくかには、そんなこともあった。

そんな経緯もあるから、サバというのはあまり触れたくない、

さらには、サバがさらに有名になったことにサバ手がある。

これは両手の手指を斜め下に揃えて伸ばし、

「サバーサバー」とやるのが大流行し、

さては歌舞伎の演目にもなって、

市川團十郎が演じたこともあって、

サバは当世きっての流行の中心でありました。

それが悔しくて、

見るだけで虫酸が走るからと、

「お前、俺の前でサバ手したらひどいぞ」

そう脅してでもサバ手をすることを忌み嫌っていたのでありますね。

そんな瀧朗をよそに、彼が見ていなければ、

サバは隠れてサバ手の大盤振る舞い。

人気は続いていました。

これは話の核心というか、

大事なことでありますので、どうぞよろしく、お願いします。

 

 

え−、さてその藤澤村の夢の中に戻ると、

ちゃぶ台の前で、

女はその美しい顔を瀧朗に向けながら、

「もう少しお待ちくださいね」

そう言うやいなや、

「私、お燗を待つ間、瀧朗さんのサバ手が見たい。せ・ん・ぱ・い・のサバ手を」

「あれあれ、困ったな、サバ手ね…うーん…」

瀧朗は、

サバ手だけはどんなことをしてもやりたくはない。

けれど、女が望むならやってもいいか。

そんな心が持ち上がってきた。

でも気持ちを引き締めて、

「あれはさ、俺はやらないんだよ。

サバはね、さっきも言ったけど苦手なんだ」

そう断ると、

「瀧朗さんって、そんなに了簡が狭いお方だったのですね」

女は肩を落として泣き出してしまった。

「はて、元々はサバは私が命名したものだぞ。ここは夢の中だし、

ここは一丁、天下一流の瀧朗さまのサバサバを披露してみるか」

そう心に決めたところで、

 

「たきろうさん、たきろうさん」

 

と、お花に起こされた。

「あれ、ちょうど女にお小言をおっしゃろうというところを、起こしてしまいましたか?」

寝ぼけている瀧朗は、夢の中の女と、お花が重なってしまい、

つい、

「サバーサバー!」と、

本気でサバ手をしたところを二人にしっかりと見られてしまった。

 

ちょうど吹き始めた海風が、

瀧朗の真っ赤になった顔を撫でていったとさ。

パチパチ・パチ〜ドンドン!(太鼓太鼓太鼓)

お後がよろしいようで。