ようやく波が小さくなってきた。
暗いうちから軽く何本か波に乗り、大好きなアボカド朝食。
これは袋いっぱい買ってたった2ドル。
何もつけずにただ半分に割って、それをスプーンですくって食べる。
こんなシンプルフードが旅の体調を整えるようで、やさしく体に入っていく。
カリフォルニアの日系書店で購入した雑誌「ニューズウイーク」でワーキングプア、つまり働く貧困層という記事を読む。
それには「週に短時間しか働けず、家賃を払えずに飢えていく若者」とあった。
日本で飢える?本当か?と疑問符がふたつ付いた。
だって、今はどこにでも求人の張り紙がしてあり、働く気になればいくらでも職がある日本だと思っている。
今いるここは、発展途上国そのもので国からも保護もなく、夜は闇で危険、そして病気になっても金銭的な理由で医者にかかれなく、この国全体が飢えているようだ。
この地を一瞬だけ通過している俺のような旅人が書くのもおこがましいが、少し気になったので以下は私見として書かさせていただく。
前にも書いたが両足がない男が、両肘を使って這ってきて、こころから乞うようにーー哀しい目でーー両手を俺の前に差し出したときは、少なからず驚いた。
俺は当然のように持っていた小銭を全て彼に差し出した。
そして「温室育ち」の自分はああなったとき、彼のように路に出て物を乞えるのか?
と問い、それをする勇気はもちろん、この熱帯の不快な湿気と暑さに俺はきっと生きていく気力すらなくなってしまうのだろうな、とその弱さを知った。
とすると、その飢えるワーキングプアの人たちは一度発展途上国に来て、「生きていく」という熱き使命を知るといい。
されば、どんな仕事もあるだけ良い、または土でない床がある幸せ、水道水が出る爽快さ、電気が使える便利さ、雨が降っても濡れない家がある、激烈でない気候がある、夜間襲われない安全がある、という幸せに気づくだろう。
田舎暮らしがいい、と騒がれているが、田舎は田舎の不便さがあって、それを受け入れてはじめてその暮らしを愛することとなるのだろう。
ここでは何日間も波の良さを書いたけど、吐きたくなるような下水の匂い、いつまでも乾かない床や、雨漏りでずぶ濡れになった寝床のことは書かなかった。
けれど、ここで旅の幻想を打ち消すためにこんなことを書いてみる。
すると、この波がまた輝いて見えてきた。
生きていることの価値を見いだすような旅。
4週間前に来た前回の旅では朝陽に溶ろける斜面を感じ、その豊かさについて触れた。
今回はこんな足が汚れるような旅がしたく、やってきて実際に足を汚してみると、その汚れがいかにオーガニックなのかを知った。
良い意味でも悪い意味でもだ。
そんなことを考えていた。
家に戻ると、宿のマネジャーのチャーリーがBD3を返しにきた。
彼はこのBD3が大のお気に入りで、目を輝かせて毎日乗っている。
俺の体重が60キロ、チャーリーの体重が75キロなので、実に15キロの体重差を許容するAVISOを目の当たりにした。
うれしすぎる彼がライムばかり食べている口でキスをしまくるので、カーボンファイバーが溶けてきてしまった。(嘘です)
にわか雨が通って、すごい音と湿り気と涼しさを運んできた。
午後からはお気に入りの洞窟バーにデザートを食べに行く。
さきほど貧困の話をして、こんなホットケーキが400円もする店に行ってしまうのは論点がぼけるが、旅は忙しいからか時間毎に別人格になるようで、その贅沢な感覚に眉を開いてしまう。
↓これが噂のおいしいホットケーキ。
洞窟バーは最近感じたことがないエアコンの爽快さに浸り、文明人であることを恥じるが、その気持ちよさにうっとりしながらラム酒がたっぷり入ったピニャコラーダ(500円)を飲む。
この500円は道路工事人の日当と同額であるという。
このバーで亮太くんとこの国の物価計算について提議したが、ここは日本と比較してちょうど1/10であるという計算が正しいようだ。
500円は地元の人にとっては5000円であり、すると5円のププーザ(お好み焼き)が50円であることに気づいた。
とするとこのポケットに入っている20ドル札は2万円札に等しく、なるほど宿が10ドルであることは決して安くはなく、1万円の通常の値だと納得する。
白人の多くが泊まっているエアコン、朝食、温水シャワー付きの高級ホテルは一泊60ドルであるから6万円もする価値なのだろう。
アメリカ人にとってはバケーションで一泊60ドルとはバーゲン並に安く、いわゆるセレブ旅をここで楽しんでいるようだ。
貨幣価値が違うとこんなコントラスト(著しい対照をなすもの)が登場し、そこからビジネスが発生している。
一昨日見かけたのが白人の女の子にダブルオーバーのスープ波でサーフレッスンをする地元サーファー。
彼は教えると1時間で10ドル、つまり彼らの価値で1万円になる仕事なので、「波が大きすぎる」と言って断らないのだろう。
前出したチャーリーが彼らがロングボードを持って浜を歩いているところを見つけ、「ヨー、アサシンー(殺人)」と野次っていたのが記憶に新しい。
結局この白人の子は腿から足首までをリーフで傷つけ、血だらけでロングボードを抱えて帰っていったが、報酬の10ドルは払われたのだろうか?と気になった。
とまあ、こちらのビジネスは日々こんな調子だ。
だからあまり憐れむことはなく、熱い彼らの日々は今日も明日も続いていくのだろう。
了、5/2/2008