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【naki’sコラム】vol.27 こがねいろの波

 

ハワイでは夏の象徴であるマンゴーの季節が終わった。
次に食べられるのは4月頃になるという。少し前にはいくらでも実っていて、道端のをもぎとって食べていたのに、なくなった途端になんだかさびしくなった。

バリで行われていたWCTコンテストをインターネットのライブ中継で観戦した。
このカウアイ島のブルース・アイアンズが圧倒的な強さで優勝したが、彼をよく知る友人は、

「夕方の潮位が良い週だったことがブルースの優勝に起因しているのだ」

と仮説を立てた。

「このように午後から始まる各ヒートを全て勝ち抜いたブルース・アイアンズ」

つまり夜更かしのブルースは朝が弱く、通常のコンテストは早朝から行われるので、調子が上がる前に敗退してしまっていたのだろう、もし将来コンテストが午後だけとなれば、ブルースが無敵な強さを発揮してグランドチャンピオンになるぞ、と断言した。

そんな波乗り競争への執念というか、集中力を持って波と対峙することについて考えながら海に行くと、沖に美しい満月が浮かんでいた。

ゆっくりとだが、確かに水平線に向かって落ちていく月。
波頭が金色に淡く光り、泡になったうねりはふくらみ、小さくなっていった。
この大きな月を見ると、秋になったことを空から告げられたような気がして少しドキリとする。
それは夏休みの終わりに感じた過ぎ去った寂しい感覚のようで、少し切なくなった。

少しして友人がやってきたので、薄暗い内から2人で沖に出た。
ヒンヤリとした大気、遠くの雲がオレンジピンクに色づいている。
まるで熟れたマンゴーの色みたいだなぁ、と見とれていると波がやってきた。
暗い斜面にサーフボードを滑走させていく。
太陽が昇ってきて、波の斜面が金色になった。

月の色とは格が違う明るさと美しさだった。
その壮烈な視界に目を凝らし、無心で滑走していき、澄明な光景に恍惚となった。
自らの耳が発する風の音、後ろに過ぎていく波の咆哮に心が躍る。
初めて波に乗ったとき、初めてターンができたとき、初めてチューブに入ったとき、そんなことを思い出させてくれる純粋な歓びが俺を満たした。
最後はその金色世界に飛び込むようにキックアウトした。

 

「マインドオープナー」という言葉がある。
これは「こころを開く」という意味だ。
黄金色に染まった波に乗って俺のこころがまた開いた。

この情報社会、消費時代の世の中において、波に乗ってもギラリと輝く一瞬は少なく、けれどこんな朝陽の豊かな色彩に包まれながら波の斜面をグライドすると、俺の細胞は振動し、胸の動悸が止まらなくなった。
先ほどのコンテストでの熱狂とは違う価値観を感じた。

夜明けの、ゴールデンタイムは短い。
時間にするとたった2分間程度の燦爛の永遠。
太陽の暖かさに包まれるようにして沖に戻ると、友人の笑顔も黄金色に輝いていて、俺はまたひとつ年を取り、成熟したようだった。

 

(了、8_25_2008)

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