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naki's blog

【naki’sコラム】vol.36 『さらなる旅へ – バハ・メキシコ』 Donavon’s trip part1(1999年初冬)

海を見渡す崖の上。大きな月が俺たちの正面にあった。
長時間走り続けた’77年式シェヴィヴァンのエンジンを切ると、ドアの隙間から冷たい風が否応なしに流れ込んできた。
横に長いウインドシールド越しからは、月夜の海が大きく広がり、棉を丸めたようなだらしない波がゆっくり動いている。
月光下の波は白い波頭がその主役。
‘99年の10月28日。午前6時、メキシコ、バハカリフォルニア半島、ラ・ファンダ。

「潮は?」
さっきまで睡っていたドノバンが後部座席から聞いてきた。
潮位は…、というところで情報の輪が止まる。
出がけにガソリンスタンドで買った新聞「LA タイムス」を座席の下から引っぱり出す。
 
『Metro(メトロ、情報セクション)』
Tides(潮位):1.6 Low(干潮) 5:12AM 、6.2 HighM(満潮) 11:28 AM 、-0.5 Low(干潮) 6:30 PM 。Sunrise(日の出)7:05AM 、Sunset(日の入り)6:18PM
潮は、正午には大きく満ちていく。

ドノバンがサンドバー(海の中に発生する砂の州。波に変化をもたらす)を発見した。
「見ろ、あそこは波のリフォーム(再生)・セオリー通りだぜ。ピークの後ろから行って、あのパワーエッジを使ってリフォームセクションの中に入っていけば、かなりロングランができるな」 

セットが来る。
1本目はムッシー(緩い斜面波)で、たらたらとした青白いスープが動いていく。
2本目はドノバンのセオリーに沿った青白泡波。その通りにリフォームブレイクする波。
例えるなら、「月作動のドノバン魔法」なんていうのはけっこう正しいのかもしれない。
このセットは、3本目が一番大きかった。実際にはバレルになっているのだろうけど、まだ暗闇に包まれていて、さらに深い闇色を落とした波面が移動している。

代物のカーステレオからボブ・マーレイの『Stir it up』が流れてきた。
運転席にたたずんでいるチャドに、この曲の意味を訊ねてみた。 
「『かきまわす』という意味じゃないの」
俺はあらためて、「表面的なことではなく、この歌の真の意味は?」と聞き直す。
たよりなさそうな波が弱く動いている。
「これは俺の考えだけどね」
と前置きしたチャドはこう言った。
「男と女が出会ってねっとりと人生を送ることなんじゃないかな」
「それってビューティフルなことだよな」
と付け加えドアを開けると、大量の冷気が入って来た。
黒犬ウイリーがそれに反応して目を開けた。
俺も外に出ると、強いオフショア風が体に張り付いた。

車を風よけにして青白い海を眺めていると、やがて夜が明けてきた。
トヨタのピックアップトラックからベーン、アドルフ、そしてブライアンらグロメッツトリオも「寒イ寒イー」と体を揺らしながら出てきて、
「波ダー、波ダー、月ダー、星ダー、寒イー」となぜか興奮している。
あまりにも寒いので、俺たちは焚き火をすることにした。
炎から風に飛ばされるオレンジのラインが、何千本も宙に舞った。
ドノバンが起きてきた。
彼は焚き火の横で少し波を見た後、今日は風向きが変わりそうだから、岬と岬の間 – つまり入り江 – のほうがいいのでは?という動物的な勘に基づく意見を出した。
移動先はここからの距離、うねりの方向、浜の向き等の案がいくつか出され、「ギャンブルになるけど、もう少し北に移動しよう」ということが速やかに決定された。
行き先はチャドのみが知る『秘密の入り江』。
いまだに夜が明けきらない一般道をひた走る。

バンの後ろからドノバンがギターで柔らかい音を奏で始めた。
大きく突き出た岬。
部分的に岩が露出している砂浜。
カリフォルニア同様に群生するパームツリー。
電灯が切れたカフェの看板。
だれもいない沿道商店街。
野犬の群。
トタンでうまく組まれた家の横には一本の紐で吊された洗濯物。
荒野の中にある一本道。
点在する部落。
そんな流れ去る風景を眺めていると、海側に逸れ、砂利道に入った。
車体を大きく上下に揺らしながら進むと、植木で飾られた車止め(ゲート)が行く手を阻んだ。

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