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【naki’sコラム】vol.47 仙女

むかしむかし、相州の浜前に、サーフボードを削って乗る主人と、波乗りをするおかみさんだけでやっている、小さなサーフショップがありました。

この夫婦は、特別に金持ちではありませんが、毎日の波と乗るボードには不自由せず、健康にもめぐまれて、幸せにくらしていました。

ある日の夕方ふたりで仲良く波乗りをしていると、 かっこいいプロサーファーとそのガールフレンドが黒のAVISOと、EPSクアッドに乗って、ふたりの目の前でバックサイドエアと、波の後ろからフィンまで飛び出るカービングリエントリーを決めました。

それを見て、おかみさんが言いました。

「あの人たちみたいに、わたしも一度でいいから、すてきなEPSのクアッドフィンに乗り、アストロデッキを貼って、ターンをしてみたいものだわ」

すると、主人も言いました。

「そうだな。何をするのにも、あの軽い中空カーボンファイバーならきっとエアが出来るし、目立つし、かっこよくいばっていられたら、もう言うことはないさ」

このおかみさんはスタイルがよく、目のパッチリとした美人でした。

「ねえ、おまえさん。わたしがEPSに乗ってなぜいけないのさ」

「そりゃ、いけないっていうことはないさ。ただエポキシ樹脂の扱いがわからないだけなんだ。そんなこと言うのなら、俺だって毎日、あんな大変なシェイプをやめて楽しく暮らしたいさ」

こんなことを言っているうちに、二人には自分たちの生活が、急にみすぼらしく見えてきたのです。

それからというもの家の前でサーフィンをするプロサーファーを見るたびに、うらやましい気持ちがおこり、とたんに自分たちには、苦労ばかりしかないように思われてきたのです。

おかみさんは、ため息をつきながらつぶやきました。

「こういう時に仙女がいてくれたらねえ。仙女が魔法のつえをひとふりすれば、たちまち願いがかなうっていうのはどうだい?」

こう言ったとたん、家の中にサッと光のようなものがさしこんだのです。

二人はおどろいて、ふりかえってみたのですが、誰もいません。

しかし、家の中には、たしかに人の気配を感じるのでした。

「なんだか、気味が悪いね」

二人が顔を見あわせていると、そこへスーッと、女の人があらわれたのです。

「あなたたちの話は、みんな聞きました。もう、不平をいう必要はありません。願いごとを三つ、口でとなえなさい。注意をしておきますが、三つだけですよ」

仙女はそれだけいうと、スーッと消えました。

主人とおかみさんは、しばらくポカンと口をあけたままでしたが、やがて主人が、ハッとしていいました。

「おいおい、おまえ、聞いたかい!」

「ええ、たしかに聞きました。三つだけ、願いがかなうって」

二人はおどろいていましたが、だんだんうれしさがこみあげてきました。

「えへヘ、 願いごとは三つだけか。そうだな。一番はやっぱり、長生きできることだな」

「おまえさん、長生きしたって、働くばかりじゃつまらないよ。なんといっても、金持ちになるこったね」

「それもそうだ。大金持ちになりゃ、願いごとはなんでもかなうからな。AVISOシリーズ全部買って、フェラーリとくりゃ、この浜の英雄だな…」

二人は、あれこれ考えました。

「ねえ、おまえさん、考えていたってはじまらないさ。急ぐことはないよ。ひと晩寝れば、いい知恵も浮かぶだろうから」

こうして二人は、いつものように仕事にとりかかりました。

しかしおかみさんは、台所仕事をしていても、三つの願いごとばかりが気にかかって、仕事がすすみません。

主人のほうも、夢に見たフェラーリやAVISOが目のまえにちらついて、仕事が進みません。

長い一日が終わって、夜になり、二人は暖炉のそばに腰をおろしました。

暖炉の火はごうごうと燃え、妖しい光をなげかけていました。

おかみさんは、暖炉の赤い火につられて、思わずさけびました。

「ああ、なんて美しい火だろう。この火で肉を焼いたら、きっとおいしいだろうね。今夜はひとつ、分厚いステーキでも食べてみたいもんだわ」

おかみさんがそう言い終わったとたん、 願いごとがかなって、大きなリブアイステーキ肉がバタンと、天井から落ちてきました。

すると、主人がどなりました。「このまぬけ! おまえの食いしんぼうのおかげで、だいじな願いごとを使ってしまった。こんなもの、おまえの鼻にでもくっつけておけ!」

主人が言い終わるか終わらないうちに、ステーキ肉はおかみさんの鼻にくっついてしまいました。

あわててひっぱってみましたが、どうしても取れません。

きれいだったおかみさんの顔は、大きな肉がくっついて見られたものではありません。

おかみさんは、大声で泣き出しました。

それを見て、主人は言いました。

「おまえのおかげで、大事な願いごとをふたつも無駄にしてしまった。最後はやっぱり、大金持ちにしてほしいとお願いしようじゃないか」

おかみさんは泣きじゃくりながら、足をドタバタさせました。

「おだまり!もうたくさんよ。最後の願いは、たったひとつ。このステーキ肉が鼻からはなれますように!」

そのとたん、ステーキ肉は鼻からはなれ、おかみさんはもとの美しい顔に戻りました。

それから二人は、二度と不平など言わず、今の暮らしを大切にしたということです。

(2006.12.16)

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