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【naki’sコラム】vol.54 美しき夏の夢日

“サーフトリップ”という言葉があるが、どこからどこまでをその範疇にするのかを俺は明確に知らない。
距離が近い、または日帰りだとそう言ってはいけないのか。

今回の旅で俺は日本に行き、南島の波に乗り、日本書紀に出てくる島で珍しい波にも乗った。
そして少しだけでも波に乗れる時間があれば海に向かった。
「波乗りに行くこと、これがサーフトリップ」
と自分で制定するようになった。
とすると、全てがサーフトリップとなり、向かう先々での食事や休憩も“旅先の”という言葉がつくほど晴れがましいものとなった。

さて、『夢を食べる』という話を読んだ。
「夢を見て、育つ」というもので、今の俺はまさしくそうだったので話に入り込んでしまった。
そう、波に乗る夢を食べながら時間が過ぎている。
少し前までは極上波に乗ることを夢に見てきたが、今では斜面さえあれば、とさえ思いはじめた。
ボートがたてた引き波、湖の風小波なんかも超浮力のボードがあれば乗ることができそうだ。
風呂でも波を立てて、極小になって乗っている自分を想像しているのは楽しい。

これまでは生をかけてでも数々の波に乗ってきた。
どこどこの波、その波、あの波にも乗った。
その頃は波の芯がどうだとか、トップの切り立ち、ボードの速度や位置を追求し、その滑走事実をこころに刻んできた。
けれど、そんな時代は過ぎて、さまざまな波に乗ることを望むようになってきた。

先週末にも海におもむき、サーフィンをはじめたばかりの少年と一緒に波に乗った。
彼をボードの前に、俺が後にというタンデムだ。
波泡で満たされた視界、足がつかなくなった瀬に恐怖し、背丈の倍はあるような滝のような海の壁、まるで空まで切り立つごとくの波を感じ、永遠にやって来るかのような泡壁を越え、くぐり、沖に出ていくエピソードを共にした。

少年にとっては、無限なほどの広い海。
そしてその波に乗ることは彼の挑戦であり、決意だった。
体をよろめかせる風、冷たい水、思ってもみなかったボードの硬さ、ウエットスーツのしめつけ、潮水が目にしみ、肌を焼くような太陽の光、それらは都会では感じられないことばかりで、それを耐え、歩を前に進ませながら泡を越えていった。

「波に乗る」
ということに俺たちの意識の核心があったとすると、それはどこまでも澄明だった。
海面で大きく息をして、海中で祈る。
ふたりは真剣だった。
必死にボードにしがみついたりもした。
波におびえ、海におさえつけられながらも、その次に何かすごいことがやってくることを少年は知っているかのようだった。

やがて俺たちのボードはよろよろと前に沖に進みはじめた。
水平線が見え、波は崩れることなく、ただのうねりだけの起伏になり、世界は静かになった。

休み、景色を味わい、彼は次の行動である「波に乗る」という決意をする。
少し岸側に移動すると、多くのうねりがやって来て、その中で一番こちらに近づいてくるものに背を向けた。
その瞬間、海は動き、俺たちは海面を、いや海を滑っていった。
あれだけ強かった波泡を征服した瞬間だった。

“波に乗る”ということによって、意識が浄化していくのを感じた。
彼は喜びにふるえもせず、もちろん泣きもしなかった。

太陽に出会った霧が蒸発するかのような明るい歓び。

飛来するカモメの群れに胸が震えた。

俺は少年と一緒に波に乗ることによって、魂を白くしたかったのかもしれなかった。
そして彼は何を感じたのだろうか?

これからも永遠にやってくる波を俺は想い、願い、畏怖し、夢を見る。

波に乗り、夢を知り、そして夢に生きる。

そんな夏はやはり美しい。

 

(了、6/21/2010)初出誌 Blue. 2010年夏号

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