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naki's blog

【naki’sコラム】vol.21 Epic Day 2006

カリフォルニアの旅からカウアイに戻った数日後――。

インターネットでチェックする南うねりのブイが持ちあがっていたので何の気なしに波を見に行くと、なんと5フィートオーバーのパンピング。
この5フィート、カリフォルニア流に表示すると、3フィート・ダブルオーバーヘッド、または15フィート、日本だとダブル半だろうか。
深い沖から一気にうねりは駆け上がり、大きなバレルとなり、海面にものすごい量の白い泡を跳ね上げていた。しかもここは南側で俺が最も敬い、愛するホワイトハウスだからたまらない。
不意を突かれ、体、精神的に何も準備できていない状態だったが、ここでぐっと丹田に力をいれて、シートベルトを外した。ウエットスーツを裏返している間にもセットは途切れずにやってくる。しかも見渡す限り無人。これから危険なロータイドに突入する潮だが、そんな逃げ口上は許されないほど、舞台は整っていた。
ここは南側なので、ハイウエイから波がチェックでき、後ろにはコンドミニアムやらホテルが建ち、この島では賑やかな場所に属する。それなのにこのハイウエイには他のサーファーの車が一台だけ。その二人組は、季節はずれの大波を見て呆然としていた。

12月17日、しかも日曜日。快晴、風はオフショア、青い海に白い高波。まるで絵画風景だが、これは現実だ。

持ってきたボードは小波用5’5” BATFISHのみだが、かなりの量のワックスと、大波用の太く長いリーシュを発見して安心する。
手早く支度を済ませながら、「丹田に入れた『気』をエネルギーに」という自己暗示にかけ、リーシュの砂を払い、足首にしっかりと巻き付け、祈るようにボードを抱え、岩場からのエントリーをすると、海面が踊るように跳ねている。

強いカレントは一直線に沖に走り、久しく味わっていないそのカレント速度と揺らぎに少し不安になるが、気持ちを盛り上げようと、「ホワイトハウスちゃん、いざっ!!」と叫んだ。チェックした時は最後のインサイドセクションにクローズアウトがあったが、タイミングよくセットの合間でここも無事通過。あっという間に沖に着く。
ここは100%リーフブレイクなので、いつも同じ場所でブレイクする。自分のいる場所を確認する。これは漁師が使う「山立て」という方法で、岸にある複数の目印を目安に自分のいる場所を知る。

位置を合わせていると、突然沖が動いた。こんな沖でまさか?と思い、手前の波を越えるとそのまさかだった。いきなりオバケセットが出現した。気がゆるんでいたわけではないが、想定外のことに一瞬たじろぐ。しかし、体はきちんとそれに反応して、それを避けようと沖へ、ショルダーへ斜めに全力でパドリングを開始していた。

波が切り立つのを刻々と確認しながら祈るように漕いだ。全く進んでいないように感じるパドリング。一瞬で近づく水壁、一定のところまで持ち上がって、次の瞬間に一度止まり、ピッチャーのモーションのように弧を描きながら波のトップが分厚いリップとなり俺に向かって落ちてきた。絶体絶命だが、波との距離が近づき、その裏側に入るべく、全開漕ぎを一回一回強く、精確に掻いた。
最後の瞬間、リップの裏側に回れるという判断を下し、そのまま全力でノーズを沈め、後足でテイルを可能な限り深く沈めた。インパクトを避けた俺はそのまま波の中に入り、秒を普段より長く感じながら、海面に突き出た。オフショアから吹き出たものすごい量の飛沫が降ってきた。「ドシャー!」という音が止むまで目を開けずに、パドルスピードを変えないように、沖に突き進む。
さらに沖に波はやってきているはずだ。飛沫が落ちきったところで目を開けると、同様な波壁が飛び込んできた。ほぼ同様にそれにダックダイブをかまし、飛沫の後に目を開けると、小さめの波がセットイベント終了を合図していた。その波を越え、いつもの平らな水平線を見届けたところで気持ちを切った。

重量感のある水、大量に海面を持ち上げる斜面は「波」ではなく、海の怒りに感じるほど恐ろしい。

太平洋に舞う木の葉のような孤独な気持ち。

圧倒的に強力な波の下では、自己など無きに等しかった。

一度海に入ってしまえば、泣こうがわめこうが、助けを求めても、誰もいなくても、波は平等にその鉄拳をふるう。

ようやく体が震え始めた。

この震えは強い波の日にはいつものことで、海の、自然の無情を知り、寂寥(せきりょう)感が体からパワーを奪っていく。

気持ちを切り替えたい。

でないと、俺は岸にすら戻れないのだ。

落ち着かせようと、野球選手のイチローさんがやる「一点を凝視して集中する」方法をはじめた。イチローさんは打席でバットを立て、後ろのある一定の景色に合わせていることをナンバー誌で読んだ。それから真似をしていて、俺の場合はノーズのストリンガーを凝視する。バットフィッシュのノーズ、命を預けるサーフボードに精神の芯を入れていくと、パワーと意志が戻ってきた。

「よし、行くぞ!」
と波に向き直った。

それから少しづつ挑戦を続け、限界までチャージして、この日はみんなが来るまで十数本もの貴重な斜面をありえないほど高速で滑降した。
その内の二本は波のトップからボトムまで、テイクオフの姿勢のままエアダイブした。「ボトムに叩きつけられる!」と思ったが、なぜか当たらず、どちらも予想したより巻かれなかった。落下速度が速く、衝撃波よりも深く潜ってしまったからだろう。

最悪なワイプアウトは、中盤に乗った5フッターで、この日は昨日まで突風となっていた貿易風であるイーストスウェル(東うねり)が残っていて、ここのファーストセクションにウエッジ(横波、こぶ)となって出現していた。
テイクオフをメイクし、ボードを引き上げながら壁に合わせレイルをセットしたが、その巨大な東からの横こぶは、フェイスから一瞬で横綱双葉山の突き出しのように俺とバットフィッシュを払った。そのまま波に巻かれたのだが、スラッジハンマー(sledge hammer=壊滅的な大かなづち)と形容されるここの有名なイーストウエッジは圧倒的な破壊力で俺を叩き、そしてリーフに押しつけた。ある程度我慢したところで底を蹴って海面に上がったのだが、そのイニシャルインパクト(初期衝撃)の後にも海底に吸い込む回転運動が残っていて、かなりの時間海中を漂った。恐怖を感じ、遂に目を開け、白い暗き泡と、その向こう側に鈍く光る海面を確認し、「絶対上がるぞ」と息を入れ直した。

この時、絶望を感じることもあるし、その心象はさまざまだが、後で思い返すと実に興味深い感覚である。

そして最高の波は、後半に乗った5フッターのインサイドバレルで、手前からダウンラインし、高速のままそのフックに合わせて吸い込まれた。ジャックアップしたリップは高いところから向こう側に飛んでいく。横裏に廻った逆光が波の上に透け、スタンディングポーズのままそのエグイセクションを通り抜けた。
これがこの日、自分が得た饗宴だった。

「ドロップちゃん(このブレイクの本名)!イエィ!!」と海面を叩き、アドレナリンと、他の脳から分泌される麻薬成分が足の先まで拡がった。

ちなみに今日は同サイズ、イーストが入っていない分、イージーで柔らかめなフェイスだった。
情報はもう伝わっていて、15人という大量な人数が早朝よりひしめき合っていた。昨日、なぜ空いていたかを分析すると、一番の要因は誤った波情報だったはずだ。
それぞれの波情報サイトは同様のソースを使い、なおかつ実際に波を見に行っていなく、各サイトは膝から腰のまあまあと朝6時半にアップしていた。それに加え、クリスマス前週の日曜日、ということは教会やら家族サービスに忙しい日であって、実際に海に見に行けた人が限られたということ。そしてこの島のサーファー数が少なく、誰も予想しなかった冬にやってきた巨大な南うねりが要因していたのだろう。

俺に届いた一足早いクリスマスプレゼントか。プレゼントにしては苦しみもあったから、やはりバランス論者の俺としては、これ以上考えずに「ただ幸運だったんだ」としておこう。

(追記)
今フェイマス社のジェイミーから電話がかかってきて、「昨日NAKIが乗ったエピック(epic=亨楽)な波を見たよ、あれはすごかった。道路からみんな叫んでいたぜ」と言うから、目撃者がいたことに驚いた。

で、あの波をもう一度なぞらえてみると、体がアドレナリンで細かく沸騰した。これで俺は当分の間、エピックな気分で生きられると確信している。

深く、遠くに伸びた波乗道を再確認した2006年の暮れ。
(了、12/18/2006)

 

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Epic Day 2006

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