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naki's blog

【naki’sコラム】vol.31 摩訶不思議のデビルズ・ダンジョンで得た空海的な澄感覚_(3388文字)

物語はいつも突然始まる。

波乗りの話となると、

突然というより、

偶然、

いや突発的と書けばいいのか。

それはとにかく「いきなり」だった。

コスタリカはカリブ海沿岸にいた。

朝焼けを求めて外に出ると、

薄い色彩の空だけが広がっていた。

消えることのない――濃厚かつ甘い湿気と、

からんでくるような熱気の余韻があった。

昨日よりもはるかにうねりが動き、

黒い砂浜を、

満潮の波が消していた。

浅いリーフに渦のような紋様をつけた海。

その紋様の向こうには大きな波が姿を見せていた。

「『デビルズ・ダンジョン(悪魔の洞窟)』!」

7年半前(2002年6月)にここでサーフしたことが蘇った。

https://www.nakisurf.com/blog/naki/column/column-06

あの時は、

「シエィ・ロペスだけがちゃんとテイクオフできた」

「中米で一番の世界的な波」

というフレーズを浮かべた。

「なんとか必死で乗ったことがある波」

を懸命に思い出していたのだが、

ここでの浅いリーフと、

もしかしたら

「海底から掘れ上がる波」

そんなことが浮かんできた。

そのときは、

「波体験は一生消えることがない」と自惚れていたが、

たった7年でここまで記憶が消失してしまっていたのが少し意外だった。

あれからさらに大人になったつもりの俺がやってくると、

街も変わり、

景色も変わり、

同じはずの波までの距離も形も曖昧だった。

わかったのは、

この波をまた目にすることができた運と、

あれからさまざまを経て、

さらにはノースハワイの怪物波を通過したこの波は、

「さらに輝いていた」

ということだった。

こうしてサーファーに挑んでくるような波を見ると、

炎が小さく胸に閃く。

その炎は、

胸の中に音を立てるように転がっている。

太陽が雲を透かしてきた。

日が出ると、

木々が海に影を付け、

海水の色彩を浮かべる。

前の波が邪魔をしていて、

波の下部1/3程度は見えないのだが、

隠された部分は経験と記憶だけを頼りに理解していった。

あの波に乗れるのだろうか?

と自問してみた。

そして、それには答えを出さずに

「入ろう」

「入ってみよう」

そう決意して、

持って来たテスト用のミニボードにフィンを取り付けた。

このボードは、

シングルフィン・スロットと、

ボンザーシステムを搭載している。

ボードを出していると、

フランクという名の男が現れ、

「そのボードは何?」

という英語が発声された。

彼の長男は、

アメリカ東海岸のプロサーファーで、

それは俺も知った名だった。

右がそのフランク。

次に表れたのが、

エドウインという2メートル近い大男。

「なんじゃ、このバカボードは?」

驚きながら、

そして興味深くこのミニボード5’1”(155cm)を様々な角度から見ていた。

こうして地元サーファーが集まって、

俺のボードを見てくれるのはうれしいものだが、

どうやら半分以上バカにしている雰囲気もあった。(笑)

聞いてみると、

エドウインはこのデビルズ・ダンジョン波に魅せられて、

マーベリックスがあるハーフムーンベイ(サンフランシスコ)から引っ越してきたという。

彼とは翌日海で会ったのだが、

なかなかのグッドサーファーで、

切り立ったフェイスでのこらえ方に年季と熟練を感じたのです。

足下に山の小径のように伸びる水路を伝っていくと、

吸い込まれるようにこの

「デビルズ・ダンジョン」にパドルアウトできるわけだが、

そんな利便性に自然の驚異というか、

摩訶不思議を感じていた。

水路出口で

「ここはどこの波と似ているのだろうか?」

と類似点を見いだそうとしていた。

一本目の波がするりと入ってきて、

それは掘れ上がって、

ボトムにリーフの影があり、

そしてボイルが大きな警告を私に発した。

躊躇しようと思ったが、

イナリーズやソフトサンドリーフでの波経験が悪い方に作用して、

「いいや、波に訊け」

と体は乗る方に作動してテイクオフしてしまった。

だが、

こんな風にどうにもならずに押し倒されてしまった。

瞬時にリーフヒットを身構えたが、

本当に幸運なことになぜかリーフに当たらず、

2度目の押しつけで、

硬いリーフを手で押さえていた。

そのリーフが過ぎると、

あらゆる回転に「涅槃」という言葉を思い浮かべていた。

強制退場させられるべきの最初の波だったが、

墜落の瞬間にテイクオフできるライン、

すなわちホワイトハウスと同じラインを見いだした。

その反面で、

こんな生死に関わることをやっていないで、

おとなしく「岸に戻って平和に暮らそう」という考えも多少はあった。

そんな交差する思考の中、

「この波に乗ってみたい」

という思いが勝り、

またピークに戻ることとした。

ラッキーなことに次のセットにドライリーフまで押し出されずに、

かんたんに沖に出ることができた。

セットが入ってきた。

一本目よりも二本目が大きいと推測し、

最初の波をスルーすると、

やはり美しいうねりだった。

「ホワイトハウス、ホワイトハウス」

と自分に言い聞かせ、

ピークより奥から波の中に入ると、

ボードは滑りだした。

ノーズを進行方向に向けて飛び込んでいった。

うねりは浅瀬に乗り上げ、

丸みを表現してきた。

たった一本だけ存在するラインだけを見つめ、

そのラインをささやかな希望と、

猛る気持ち、

そして弘法大師のような悟りを混合させながら進んでいった。

バレルが完全に閉じ、

水の壁を伝いながら圧倒的な円運動の中心にいた。

このラインしか波をメイクすることはできない一本道。

圧と速度、

重力が混合する世界で、

轟音と無音の繰り返しがここにはあった。

バレルの中身が怪物の胃の中のように大きく開き、

巨大な洞窟が俺を包み、

次に瞬間には突然小さくなった。

それでも小さくなってしまった出口に向け、

ラインを上方向に設定し直した。

具体的には荷重して失速させるのだ。

通り過ぎたすぐ後方で、

爆発が起き、

胃袋の内部は霧状となり、

視界はなくなり、

次に視界が開いたときには、

さらに小さくなった内部と、

楕円状の動く、

小さな出口が前方にあった。

ボードをさらに引き上げ、

体を小さくたたんで、

狭い空間を滑走していった。

バレルが閉じる瞬間に、

いや閉じるのと同時に「ボン」という小さな破裂音と、

水滴の吹き出しと共に吐き出された。

「手を上げよう」

そんなことを考えていた。

この波を讃えていた。

激烈な伝説波は、

バレル後も永遠に続いているようで、

「諸行無常」

という言葉が浮かんだ。

「この世の現実や存在はすべて、

姿も本質も常に流動、変化するものであり、

一瞬であっても、その存在は同一性を保持することができない」

という一節のあれだ。

このキリスト教の国に来て、

なぜブッダが思い浮かぶのかは自分でもわからないが、

それはきっと俺の頭の中に組み込まれた先祖の遺伝子がこの発火によって、

発動したからなのだろうか?

と、さらには、

「おごれる人もひさしからず、

ただ春の夜の夢のごとし。

たけき者も遂にほろびぬ、

偏に風の前の塵に同じ」

という平家物語の冒頭部分の一節までも思い浮かんだ。

英訳もある。

The proud perish like a dream on a spring night.
The hellion is defeated at the end.
Same as the dust flown by the wind.

という英文を読んでいると、

自分は、

「風が吹くと飛んでいく塵と同じ」

だと知ってしまうような波だった。

波乗りを続けていると、

仏教がやってきたり、

または涅槃だったり天国が直に感じられることを再確認した。

母国から遠き国でそんなことを感じていた。

真言宗の開祖「弘法大師」である空海(774年 – 835年)は、

口に明星が飛び込んできて悟りを開いたといわれています。

南の小さな国で、

すごい名前のオソロシ波を抜けて、

自分では小さく悟りを開いた気になっていますが、

「これから始まるまだまだ長い旅」

の予告編であるような気もしています。

ハッピーサーフィンが普及するといいなぁ。

競争でなく協奏だったり、

変なローカリズム撤廃みたいな。

そうだ、

悟りを開いた空海は、

『明星』を受け取ったときに見たのが空と海だけだったため、

空海と名乗ったと伝え聞いていますが、

波乗りしているときに見えるのも空と海だけだ。

Happy Surfing and Happy Lifestyles!!

(2010/02/08)

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