小枝を折った。
かじかんだ手でも枝はたやすく折れた。
そのたやすさとは裏腹に、
枝はいきおいよく燃えさかっていた。
たき火からの熱が、
冷えた身体に温もりをもたらす。
ぱちぱちと、
ここちよい音をたてて燃える。
その音が波の記憶を思い出させた。
雪の日に出会った波。
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海岸に降り積もる雪は、
あっという間に溶けていった。
雪をもたらせた雲間から、
太陽の光が頼りなげに降りそそぐ。
冬の低気圧からのうねりは、
北西の風でシェイプされ、
うつくしいバレルを形成している。
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冬の波。
寒さを越えて乗った波。
いつまでも記憶の中では燃え続けるのだろうか。
うつくしい波は、
強まる風であっという間にその形を消してしまう。
うつくしい自然の姿に、
その儚(はかな)さゆえ、
人は強いあこがれを抱くのだろう。
やがて冷たい冬の風が、
たき火の炎さえもかき消していく。
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ふと目を閉じる。
まぶたの奥に残る波面の残像がさらに強まる。
冷たい北風の音のなかで、
波の記憶だけはするどく胸に刻まれていった。
くすぶっていた焚き火が、
音もなく消えていく。
夜空には明るい月が浮かび上がり、
茫洋とした海を照らしはじめた。
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「あと何度このような景色を目にするのか」
冬の海は、
“思想めいたとき”を与えてくれる。
冷気によって澄んだ大気が、
凛とした心をもたらすからだろうか。
そんな冬の波がぼくは好きだった。
(じゅん)
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