朝露にぬれた森を歩いていた。
時おりどこかでカサカサという音がする。
風のない朝、
きっと足早に木々を伝うリスの音だろう。
それは静かな木陰から漏れるように聞こえていた。
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さまざまな濃淡をまとった森の緑色が、
ぼくの体にゆっくりと染み入るように、
こころから清廉な気持ちになっていく。
ふと、
森と海の繋がりについて思いを巡らせてみる。
ぼくらが知る限り、
原始の自然から存在する海、
それは緑深い森にも通じる何かがある。
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それぞれの木々が作り出す森にも、
ひとつの生命といえる大きな力を感じる。
ひとつひとつの波を作り出す海にも、
同じように大きな生命の躍動がある。
そして両者には同じように、
さまざまな動植物を内包するやさしさがある。
リスもクマも、
トビウオもクジラも、
ひとつの生命体を形成するように、
森や海に内包されながら生きている。
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深き森と偉大なる海、
そこには楽しみや躍動があふれている。
一方で人を寄せつけないほどの怖さもある。
自然がもつ楽しさと怖さ、
それは天候次第で一瞬にして変化する。
自然というフィールドから離れて、
都市のなかで独自に進化する人間は、
無意識のうちにその変化を読み取る力をなくしてしまった。
その対価として情報力の共有を身につけてきた。
良くも悪くも、
そうすることでぼくらは暮らしやすさを得てきた。
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森と海に共通するもの。
そこに一歩足を踏み込めば、
おのずと自然に帰ることができる点だろう。
一歩足を踏み入れて、
ゆっくりと溶けるように精神が中和されていく。
すべての音はシャットダウンされ、
ふたたび耳に入ってくるのは、
こころに響くような調和のとれた音色だけ。
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森から海へ。
サーフボード一本で沖にこぎ出て、
ゆらゆらと浮きながら海の鼓動を感じてみる。
視界のすべてには海が広がっている。
ぼくはその風景に浄化されるように、
ただ海水の動き、水面の音を感じていた。
海にはぼくらが忘れてしまった記憶、
雄大な自然に内包されて生きていたころの、
遠い記憶を呼び覚ます何かがあるのかもしれない。
一歩を踏み出すこと。
その一歩で自然はたくさんのことを教えてくれる。
波乗りは、
そんなステキな側面も持ち合わせている。
深みに入ったぼくの思考をかき消すかのように、
はるか沖からセットの波がやってきた。
ぼくはその波に向けて、
力いっぱい漕ぎ出していった。
(じゅん)
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