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naki's blog

酔う波_(初出誌、BLUE、2009年2月)_(1577文字、短編です)

こんにちは、

これから向かうところがオンライン接続はおろか、

携帯電話の電波でさえもないことがわかっているので、

去年BLUE誌に書いたコラムに少し加筆して、

ここに掲載しておきますね。

こちらはこのようにフラットです。

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それにしても酔う波にまた乗りたいです。

今日もすばらしい日にしてくださいね。

俺は元気ですよ。

みなさんもお元気で?。

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”酔う波”

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ノースハワイ2月。

「何よりもビールが好きなんだ」

というカイル・マリグロが家にやってきて

「シャンパンを飲ませて」

と言った。

「シャンパンはないけど、スパークリングワインならあるよ」

と一緒に飲むと、

早朝のヒンヤリとしたオフショアの味がした。

じつはカイルとは今朝、

【ビールの酔いとシャンパンの酔いは違う】

という話をメジャーズベイの沖でしていた。

「あの時は、酔いは同じだと思っていたけど、今はよくわかるよ」

とカイルが口を開いた。

酒の酔いは、

その種類によって全て違うと思う。

ワイン、日本酒、ウオッカ、焼酎、泡盛、ラム、老酒、テキーラ、ジン、バーボン、ブランデー。

日を変えてこれらを飲んでみるとわかるのだが、

酔えば酔うほどに違う景色が見えてくるはずだ。

とすると、

酒を飲むことは

「旅」そのものであるのかもしれない。

もっと言うと、

ワインの中でも赤ワイン、

白ワイン、

さらにはブドウの種類や収穫された土壌、

熟成期間等々、

過程や素性全てが違うのだから目の前の瓶の中に詰められたものは、

液体となった小宇宙とさえ思えてくる。

酔いながら今度は「酒」を「波」に置き換えて考えてみた。

ビーチブレイク、

リーフブレイク、

ポイントブレイク、

河口と大きく分けて、

さらにそれぞれのブレイクの満潮、

干潮、

無風、

オフショア、

オンショア、

サイドショアと波面を変え、

さらには低気圧からのうねり、

遠くからのうねり、

風波、

潮の満ち引き波、

なぜかある波、

台風の波と分かれ、

その大小強弱の結果,

俺たちが乗る波となる。

沖から見える景色もそれぞれ違い、

それは自分が住む街だったり、

好きな人がいる島だったり、

無人島、

ワイキキとかサーファーズパラダイスのようなビル群や、

スマトラ島やコスタリカのようにジャングルを白波の向こうに見ながらそれぞれの波を待つ。

そして海水温、

暑い寒いと、

温かいのから冷たいのまでとある。

そして波に乗る道具を考えてみると、

ロングボード、

ファンボード、

SUP(タチアガリ)、

ガン、

ショートボード、

フィッシュ、

ミニボード、

わけのわからないボード、

ニーボード、

ボディボード、

カイトサーフィン、

ウインドサーフ、

カヤックにゴムボート、

さらにはビート板から身一つで乗るボディサーフィンがあり、

そのどれかを選びだし、

そこから沖に出て、

選びぬかれた一本の波に乗ることになるのだから、

波乗りというのはありとあらゆる相違と混合を経て達成する遊びと分かった。

しかもそれぞれの波にドラマがあり、

時にはその一本の波に人生が詰まっているような教訓を得るはずだ。

バーで好きな酒を選び、

グラスを傾けるように好きな波を選び、

それに乗る【サーフバー】というのが将来できるかもしれないなあ、

とそのオフショア味がサイエンスフィクションへ方面へと熟成し、

俺はさらに酔っていった。

「波乗り酔い」

というのがあるのなら、

それは夢のような波に乗り続け、

歩くのがやっとなほど疲れ果てて、

たどりついた日陰で倒れ、

ボードと一緒に丸まりながら睡るのが最上級の波乗り酔いだと思う。

至極の一杯というのが酒にはある。

そんな極まった一本の波にいつかは乗ってみたいなぁ、

と目を瞑ると、

いつか見たことのある夢のように美しい朝焼け空が浮いていた。

その空に溶けたように張り付いた桃色雲の下、

次々とやってくる美しい波を思い浮かべ、

俺は今まで乗った波をずっと思い出していた。

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(了、2_20_09)

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