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naki's blog

【ドラグラ文芸部謹製】奄美大島_(Blue.2021年4月号掲載編_1601文字)

奄美大島。

(サトウ)キビが収穫されている。

集中力、挑戦、忍耐力、体力。ハーベスターたちの過酷があり、

果てしない作業を経て、

トラックへと積まれていく。

そこから精糖されて黒糖になるわけだが、

か細い茎からしたたる液体のささやかさ、

茶色く煮詰まっていく沸騰を見ていると、

黒糖は金粉と同じ価値でも良いとすら思えてきた。

2月にやってきた伝説的な低気圧(946hPa)がある。

それが停滞前線だったころ、前の海は荒れた。

荒れ始めにパドルアウトすると、

最近では見たことのないほどの大きさのうねりがやってきて砕けていった。

それらをやり過ごし、

一安心していると、

今度は神話みたいな波が一瞬で目の前にやってきて、

一撃喰らって遠景というか、海の偉大を見た。

遠景の波なので、遠波(えんなみ)という造語を作った。

字面からなんとなく意味はわかるはずだ。

この遠波を感じることは、わが人生で幾度もあった。

ノースショアのサンセット、

コスタリカのデビルズ・ダンジョン(サルサ・ブラヴァ)、

土佐数箇所、

千葉ジェフリーズ(一宮河口付近)と勝浦、

イナリーズ&ホワイト・ハウス(カウアイ島)、

ヨーノ・ピーク(湘南)、

そしてここ(奄美大島)が思い浮かんだ。

途方もないというか、

自分の体が5cm程度の小ささとなり、

意識は浮かんでしまうほど、

視界のスケール感が変わる。

具体的には、

大自然に洗われ、

無に近づく稀薄な記憶と説明すればいいのだろうか。

しかし遠波は海だけでなく、

どこにでもある。

夢の中にもあるし、

電車の中、

サトウキビの収穫の最中にもあるだろう。

遠波で明滅を見たのと同等のことは、

どこにでもひそんでいる。

私はこれを書きながら背中を立ち上げ、

そして引き締めた。

島には気が合うサーファーがいる。

その一人と

「ワン(私)は、ナキさんが負けると思わなかったです」

そんな会話が始まった。

「負ける?」

「ボードが大きくなってしまって、

ナキさんもそういうトシだなって思ったんですよ」

「そうなの!?」

「え、そうは思いませんか?」

「じゃぁ、(君は)大きいボードには乗らない(の)?」

「自分を甘やかさないので、まだまだこれだけです」

「そうなんだね。

でも俺はこの大きなボードで、

ショートボード時代の倍はパドリングしているよ」

「どういう意味ですか?」

「乗れる距離が倍増するので、さらにパドルするようになったことと….」

「——」

「ボードが浮くので、最速を目指し、

体幹をみっちり絞ってパドリングできるようになったんだ」

「そうですか!」

「たっぷりとサーフしていた20歳のときの自分より、

今の方がパドリングは速いよ」

「それはすごい!」

「ミッドレングスを乗るようになって、

波乗りが速くなったし、

違うレベルに入ったようで、

なによりも波乗りが楽しくなったんだよ」

「へー」

「大きなボードに乗ったことはないの?」

「へへ、波が大きくなれば7フィート台に乗ります」

「でもたまに乗ると、波周りでグラグラしたりするでしょ」

「なんでわかるんですか?」

「小波でも常に大きなボードに乗りこんでいるから、

波が大きくなってもグラリともせずに、

その状態で高速パドルができるんだよ」

「新世界ですね」

「良い波へアプローチできるチャンスが多くなった。

これを例えるのなら、

モーターサイクルを大きくして、

強い馬力を手に入れたものを乗りこなすようなものかな」

「そうだったんですね!」

「だから負けたとか、勝ったというのは変な話だよ」

「あー、ワンが負けました!」

「あはは、波乗りに勝ち負けはないよ」

「そうでした」

「ジョン・ジョン・フローレンスやカイ・レニーでもそうだけど、

大きなボードにしっかりと乗ることができるのは、

上級サーフィンでは必修だと思うんだ」

「その通りです。ワンは明日から大きいボードでサーフします!」

「そうだ。それがいい」

(了、2021/02/22)