
BE HERE NOW
『これからのことは考えない。
いまここにあるがままでいい』
――ラム・ダス著 BE HERE NOWより
千葉の九十九里浜は、
砂鉄のサンドバーによるパワフルな波が特徴だ。
ナウファス(日本沿岸リアルタイム波情報)のブイ計測が、
2m@12秒、
東南東となった。
大好きなサーフ・ブレイクに行ってみると、
波は、
まるで大きな口を閉じるように轟音を発し、
ドミノ倒しのように整合性を持って崩れていた。
この強い東南東うねりと砂鉄の急浅の地形が重なると、お
よそ3m以上の波となる。
陸に向けて開くライトは、
ほぼパーフェクト。さらに時折、
寄るレフトが轟音で砕けていた。
波は、
入射角度が1度でも違えば性質や姿を変える。
よって、
混合度合いが高ければ高いほど波の形は複雑になる。
前述したナウファス計測値は、
幾億ものうねり角度の平均値だ。
同じ指紋や顔が存在しないように、
波はすべて違う形と性質を持っている。
さて、
大きな波が連続してやってくることを「セット」と言うのだが、
うねりが合併するのか、
偉大なまま遠くからやってきたのかはわからないが、
これまでのセットより水平線が濃くなった。
大波の予感がありありとあった。
私は反射的にうねりのたわみに向けて沖へと漕いでいった。
手前の波を越えると、巨大なセットの影がいくつも見えた。
水量を保ったまま切り立つレフト波が予感され、
震えるような興奮が全身にやってきた。
うねりは波へと変わり、
波先を形成していく。
引きつけるだけ引きつけてから渾身のパドリングを一回、
そしてもう一回と入れると、
テイルがグイと持ち上がった。
さらにもう一回と、鬼に追われるかのように漕ぎ、
サーフボードが波底に向いたのと同時に立ち上がった。
波というカタパルトから放たれた私は、
レイルを持ったまま落下しはじめた。
墜落しつつ、
波面に触れたときに体と波が接合するワンチャンスを待った。
硬い波壁を感じた瞬間、
波側への結合を試みて肩から背を使って波壁に食い込ませ、
減速を試みていく。
だが、
減速が足りなかったのか、
トラクションを失い、
ボードはサイドスリップした。
グラブしたレイルを掴み、
さらに波の内側へと入れていく。
すると、
自身と斜面が合致して、
滑落が止まった。
まん丸なバレルは膨張と収縮を繰り返す。
私は、
出口に向けてノーズを合わせた。
やがて音が消え、
穴蔵の奥でなにかが炸裂した。
爆風による押し出し、
真っ白な視界。
まるで花火の真ん中にいるようだった。
次の瞬間には、
バレルの外にはじき出されていた。
「浄白な陶酔」
そんな言葉が降ってきた。
私は、
数秒間のあいだに恐怖と栄光という対極を経験した。
波は、
魂が純粋なままにある副産物なのだと、
この時理解した。
やがてこの偉大なうねり群は北に去っていった。
数日経ってからまたそこに行ってみると、
新しい南東うねり群がゆるやかにやってきていた。
燦爛たる朝焼けのなかを波は整列し、
いつまでも美しく崩れている。
遠くに見える波は、音もなく、
反復運動のように幾度も同じ形となり、
泡となって跳ねて消滅するということ繰り返していた。
私は、
冒頭に書いたラム・ダスの言葉を思いだしていた。
「自分にとって必要なメッセージは常に目の前にある」
“The next message you need is always right where you are.”
(了、08/21/2025)

