俺は風に押さえつけられていた。
まったくボードが落ちていかず、
波の上から暗い底に向かっていた。
唯一の手段は、パドリングを強く、深く、
さらに、そしてさらにと腕を前に押し出していった。
漕ぎきった右手が水から抜ける前に左手がもう一度海に入り、
その引き上げと同時に俺は腰を浮かした。
下がるノーズ。
落下が始まった瞬間にレイルが波の腹に食い込んだ。
次はテイルが滑り出したので、
後足のつま先を踏み込んで、トラクションを得る。
こうして書くと能動的だが、
実際には反射的に体が動いただけだ。
前足を踏み込み、壁に体を押しつけるようにして、
波の中に吸い込まれるように、
同化するようにしていった。
朝陽に透ける色とりどりの壁が切り立ち、
丸まって、時間は全て止まった。
音は消え、
ボードに乗っている自分だけが全ての中心であるような感覚となった。
自身が風になったかのように軽い。
ストンと波の中から出てきて、そのまま壁を少し滑り、
レイルを切り返して、波の裏側に降りた。
沖を、次の波を、そして空を見て、俺は放心していた。
さっきまで一緒にいた風が俺から離れ、
一瞬弱くなり、そしてまた強く吹いてきた。
波がまたやってきている。
また俺は波に向かっていった。
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