黄昏(たそがれ)時にフリーウエイを北上していたら、
前にフェラーリがやってきた。
私は車好きで、それはプレミアムスポーツから普及コンパクトまで、
さらに言うと、軽やゴーカートまでも、とにかく動くものが大好きである。
友人の乗ってきたレンタカーを試乗しては採点している私にとって、
こういうドライビング・プレジャーの高い車を見ると、
「いいなぁ」
「乗ってみたいなぁ」
「所有できたらいいなぁ」
そういつも思うのであります。
が、しかし、
もしそんな車を所有できるだけの所得があったとして、
『フェラーリか、サーフィングの日々』
どちらを選ぶのか?
もし誰か(神か?)が降りてきてこう聞いてきたら、
私は間違いなく、サーフィンライフを選ぶだろう。
この歳になると、親が石油王でもない限り、
両方は存在しないことを知っているから、
両方という答えは用意しなかったことをここに補足しておきます。
で、もちろんいつものように波乗りに勤(いそ)しむわけだが、
時には、サーファー族ならではの景色が見えたりする。
今日のこの朝焼けは、昨日乗った強い波を思いだし、
よーし今日も気合いを入れて生きるぞ!
そう感じながら見た暖色であります。
□
さまざまなボードの形があって、
それは波や人に合わせてのものだけど、
実際のところは1本あれば良い。
「自分の1本」
そんなサーフボードのおもしろさもサーフィングの魅力である。
私にとって、その1本とは何だろうか?
どこを拠点とするかによっても違うだろうけど、
もしサンオノフレやトレッスルズ周辺(リンコン岬も含めて)だったら…。
7フィートのシングルフィンだろうか。
閑話休題。(話は変わって)
私が初めてメインランド、
つまりアメリカ本土に来た時、
Tストリートで見かけたのがクリスチャン・フレッチャー⑬。
数字にもあるようにウナクネトレーディングカード13番の漢(おとこ)である。
その1980年代、彼はまだティーンエイジャーで、
家族でもあるアストロデッキメディアによってその名と、
奇抜な服装と行動、
ものすごい高さのフロントサイドエアの人で知られていた。
さらにはインディグラブ、ステールフィッシュなんという信じられないエアまでメイクして、
各メジャーサーフ誌の表紙にもなっていた。
それから30年近く時が経ち、
多くの有能なサーファーがメディアに登場し、
そのほとんどは消えた、または消えるであろうが、少数のみは輝き続けている。
野球で言うところのベテランプレーヤーである。
Christian Fletcher and Ford Archbold
クリスチャンは、その波乱人生の明滅を繰り返しながら生きて、
いまだにメジャーなスポンサーを獲得し、
魑魅魍魎(ちみもうりょう)しか生き残れないサーフ界の中で、
それは名を知られた怪奇妖怪偉大サーファーとして勝ち残っている。
上記したようにクリスチャンのことを昔から知る私にとって、
彼の魔界イメージというのは、
「(自分が)そうありたい」
「黒魔術」
「暗黒魔界」
そんなイメージでまとっている衣装だということは知っている。
なぜなら、私は彼の父ハービー⑧と親交があり、
(NAKISURF初期に存在した伝説のデッキパッド”Zライダーパッド”は、ハービー・フレッチャー総製作)
アート関係を一緒に、または撮らせていただいていたので、
そんなこんなで、彼の人生の起伏のことごとは父親から聞いていたり、
実際に私も立ち会ってきた。
【naki’sコラム】vol.62 The Thrill is Back. Life is Surfing._ハービー・フレッチャー2012_(12008文字)
撮影仕事があったりして、
サーファーたちを撮ることになる。
で、このクリスチャン・フレッチャーは、
——他のサーファーのように——
「ドタキャン」
「すっぽかし」
というのが皆無である。
それはみなさんが考える彼のイメージと異なるだろうが、
こんなに仕事をしやすい人はいないとも言える。
ただ、
このクリスチャンは、
全ての仕事は引き受けないというスタンスでいるようだ。
All photo by Takiro㉚
「多くの人にハッピーサーフと、波乗りの真実を」
そんな思想でウナクネ団というかウナクネ派を結成し、
名前のユルさで、
メジャー路線には一切行かずにサーフ界のサブカルを貫いている。
クリスチャンの数少ない友だちの瀧朗は、
「クリスチャンすごいです。日本に呼んだとき、
アメリカ人でもオーストラリア人でも寝坊遅刻早退休暇安眠の嵐や台風ですが、
クリスチャンはどんなに疲れていてもぼくたちと一緒に行動します」
「それはすごい。アメリカ人は、イベントに日本の社員たちと完全帯同というのは無理だよね」
「はい、でも彼は違います。本物です。こちらが先回りして、
“時差ぼけで疲れているからだろうから帰っていいよ”
そう言っても必ず最後まで残って、下手をすると撤収作業まで手伝ってくれます」
「それは本物だ」
「だから日本でイベントがあると、
他のアドヴォケィテ(advocate 提唱者、アンバサダー、チームライダーと同意)を呼ぶより、
ついクリスチャンを呼んでしまうのです」
「なるほど、それでクリスチャンは大好きな日本に良くいることができる、そうなっているわけだ」
「はい、とても喜ばしいことです」
こんなことができるからベテランとして、
彼がスポンサーを受けて、
いまも波乗り生活を続けていられるのだろう。
どの世界も同じだ。
□
そうやってサンオノフレに行くと、
美しい西うねりの波が超パーフェクトでブレイクしていた。
サーファーで良かった。
よーし、これから日没まで1時間、
1本だけでも良い波に乗れたら最高である。
上がってお湯を浴びたら、サーフボードに絵を描こう。
サーファーの佳き日が続いていく。
Have a wonderful day!!
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