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蘇る金鯖 野望篇_(1134文字)【ドラグラ・プロダクションズ製作】

蘇る金鯖 野望篇

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大鯖春彦

 

ティントカラーだが、
長鳴鳥(とこよのながなきどり)色のタイラー・ボンザーは、
珍魚のようなフィン群のエロティックな影を落とし、
フォード・ヴァンの中央に転がっていた。
ダブルバレル・チャンネルのようなふくらみに胸が高鳴る。

Tyler Warren 1973 Bonzer 6’4″

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後ろ足を先導させて深く体を折ると、波がすっぽりと男を覆った。
髙倉はバレルの位置に合わせてターン角度を調節して、両足を締めた。
収縮する視界が近づき出口を伝え、弾丸のような大粒の飛沫が弾けていた。
バレルを脱出すると、
ボンザーは小刻みに揺れ、波質に反応していた。
レイルを乱暴に掴み、さらに押しつけて、透明なトップを睨んだ。
垂直に近く立ったトップは厚すぎず、薄すぎずといったところだろう。
絞り上げるようにボトムターンを入れていく。
右サイド、そしてセンターフィンが波面に噛んでいる。
その奥に、テイルがあり、そこが上昇する起点となる。
波から弾かれそうになるのは滑走速度の恵みで、
それを踏み込みという加重で、圧縮するように貯重する。
波面に這わせた掌をきっかけに加重を瞬間的に解く。
透明な波トップまで、サーフボードという矢が放たれた。
髙倉は、こちらに向かってくるトップの切っ先だけを見て、体(たい)を絞りこんでいく。
波は生き物のように跳ねあがり、
切り返す位置が微妙にずれたのを見て、
反射的に体を捩(ひね)った。
サイドフィンと、センターフィンが食いつき、
ボンザーはラフながらトラクションを取り戻し、
トップ下に凹むダブルアップセクションに最速で向かう。
奈落に転がるような穴が波の中に出現し始めていた。
飛び込むように突き進むだけだった。
波穴はその面を拡げ、どっぷりと髙倉を包んだ。
前加重しハイラインで持ち上げ、
そしてテイル加重に移重させ、
波獣の中に呑み込まれるのを耐える。
バレルというのは、純粋なる滑走なので、前加重しなくてはメイクできない。
遠くに飛んでいったリップが、海面に炸裂して、
轟音を上げてバレル内に向かってくる。
フォームボールという、
バレル内では厄介な代物だった。
メイクしたい。
いや、高倉はこの波をメイクするしかなかったのだ。
メイクできなければ、全てが終わる。
追い詰められて、意識が矮小になっていく。
もしも、デューク・カハナモクという波乗りの神があるとすれば、
デュークよ、
頼むから自分に乗り移ってくれ。
乗り移って俺に力を貸してくれ・・・・・
弾ける波から勢いよく飛んでくる親指大の飛沫が目に入っても、
気にもせず、ぬぐおうともせずに、
髙倉は焼き尽くすように燃える瞳を据えて祈った。

Fin.

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