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【サーフィン研究所:半世紀文芸特大号】キャッチャー・イン・ザ・ライ(ライ麦畑でつかまえて)_(2052文字)

私は10代の終わりごろ、

藤沢駅南口の名店ビルにあった居酒屋で調理バイトを始めた。

正確には名店ビルの大船側に増築されたクッチーネ・ビル内の「つぼ八」だ。

指定時間の16時に履歴書を持っていくと、

「とりあえず勉強ということで今日から入ろうか?」

調理長という名札を付けた倉本さんが高い声で言った。

人手が足りなかったのだろう。

4階のフロアのほぼすべてを使った客席の裏手にある厨房で、

厚揚げ豆腐、

すき焼き鍋、

うな丼などを作るように指示されて、

最初は倉本さんが教えてくれるのだが、

次からはマニュアルに書いてある通りに料理を作った。

例えば液体出汁を200ml、

酒と醤油を50ml、

砂糖50gといった具合でだしを作り、

それが沸騰すると、

すでに切られてある白菜を入れ、

牛肉を何グラムと計り入れて、

煮えたのを見計らってアクをすくって提供していた。

厨房から外に出ると、

スポットライトが当たる刺場を囲むようにカウンター席があり、

その周りにぐるりとテーブル席、

壁沿いに座敷という作りだった。

長寿TV番組『トゥナイト』で、

湘南ジゴローとして出演する前の井本さんが、

華やかで威勢の良い名物ホール主任だったので、

あれは昭和59年だったと推察される。

Catch Surf® X Nakisurf Special Skipper Fish 6’0”

Nakisurf Original Twin + Vektor VMK (rear)

.

ある日、

男女共用の更衣室で着替えていると、

ホールの女の子がそこに入ってきて、

ロッカーの中から袋を出して、

「船木くん、読んでみて」と渡された。

『ライ麦畑でつかまえて』だった。

これは中学生のころに同じもの

——JDサリンジャー/野崎孝訳版を読んだが、

まったく意味がわからずに投げ出してしまったことをおぼえていた。

この人は、

「テリー」というニックネームだった。

プロレスでテリー・ファンクというテキサス出身のレスラーがいて、

キン肉マンにも登場していたのでテリーはよくわかったが、

実際にテリーという名前の人に会うのは初めてだった。

「ミステリー」が短縮してテリーになったんだぞと、

井本さんがそう教えてくれた。

で、

その『ライ麦畑でつかまえて』もやはりわからずじまいで、

当のテリーにはわかったようなことを伝えたが、

私が本の内容に共感したと言うことはできなかった。

で、

この1951年の作品を村上春樹さんが訳し、

『キャッチャー・イン・ザ・ライ(The Catcher in the Rye)』

原題そのままになった。

直訳すると、

「ライ麦畑で捕まえる人」となるので、

この原文=カタカナにしたのが村上さん流なのだと思う。

で、

再挑戦とばかりに読んでみてもやはりあまりわからなかった。

けれど、

村上さんのおかげでサリンジャーの意図というか趣旨はわかった。

翻訳文を抜き出してみると、

で、僕がそこで何をするかっていうとさ、
誰かがその崖から落ちそうになる子どもがいると、
かたっぱしからつかまえるんだよ。
つまりさ、
よく前を見ないで崖の方に走っていく子どもなんかがいたら、
どっからともなく現れて、
の子をさっとキャッチするんだ。
そういうのを朝から晩までずっとやっている。
ライ麦畑のキャッチャー、
僕はただそういうものになりたいんだ。

この一文で私はピンク・フロイドの名曲

“Another brick in the wall”の内容を結びつけた。

その歌詞を抜き出してみた。

We don’t need no thought control
思想統制は不要だ
All in all it’s just another brick in the wall
結局のところ、それは壁の中のレンガに過ぎない

とすると、

サリンジャーが書いたライ麦畑というのは社会そのものであり、

「崖から落ちる」ということが、

落ちこぼれ(レンガになれない)の具体だとすると、

「崖から落ちそうになっている自分を捕まえて」、

「見つけて欲しい」という願いが、

「ライ麦畑で捕まえる人」と、

逆説的にサリンジャーは書いたのだろう。

するとテリーは、

「ミステリー=崖から落ちそうになっている私を見つけて」

そう伝えたかったのではないかと、

38年も前のことがまざまざと、

彼女の気持ちもふくめてよみがえってきたのは、

本の持つ奇跡のひとつだと思う。

なので、

ここではサーフもおすすめするが、

読書も同様にそうしたいと思って、

ここにそんないろいろを書いてみた。

追記となるが、

教育もそうだが、

サーフ界も同規格のレンガをいまだに作ろうとしている。

「サーフボードの浮力はこれで、

フィンはこれで、乗り方はこのように。

会話してはいけません。喜んでもいけません」

そんな歌詞が浮かんだ。

ならば私もテリーであり、

崖に落ちていく子どもそのものだ。

#みんなでサーフィンを変えていく

【巻末リンク:ピンクフロイドの叫び】

Happy Surfing and Happy Lifestyles!!