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naki's blog

『さらなる旅へーーバハ・メキシコ』 Donavon’s trip part2 (1999年初冬)

年代物のカーステレオからボブ・マーレイの『Stir it up』が流れてきた。

運転席にたたずんでいるチャドに、この曲の意味を訊ねてみた。

「『かきまわす』という意味じゃないの」

俺はあらためて、

「表面的なことではなく、この歌の真の意味は?」

と聞き直す。

たよりなさそうな波が弱く動いている。

「これは俺の考えだけどね」

と前置きしたチャドはこう言った。

「男と女が出会ってねっとりと人生を送ることなんじゃないかな」

「それってビューティフルなことだよな」

と付け加えドアを開けると、大量の冷気が入って来た。

黒犬ウイリーがそれに反応して目を開けた。

俺も外に出ると、強いオフショア風が体に張り付いた。

車を風よけにして青白い海を眺めていると、やがて夜が明けてきた。

トヨタのピックアップトラックからベーン、アドルフ、そしてブライアンらグロメッツトリオも

「寒イ寒イー」

と体を揺らしながら出てきて、

「波ダー、波ダー、月ダー、星ダー、寒イー」

となぜか興奮している。

あまりにも寒いので、俺たちは焚き火をすることにした。

炎から風に飛ばされるオレンジのラインが、何千本も宙に舞った。

ドノバンが起きてきた。

彼は焚き火の横で少し波を見た後、今日は風向きが変わりそうだから、

岬と岬の間ーーつまり入り江ーーのほうがいいのでは?という動物的な勘に基づく意見を出した。

移動先はここからの距離、うねりの方向、浜の向き等の案がいくつか出され、

「ギャンブルになるけど、もう少し北に移動しよう」ということが速やかに決定された。

行き先はチャドのみが知る『秘密の入り江』。

いまだに夜が明けきらない一般道をひた走る。

バンの後ろからドノバンがギターで柔らかい音を奏で始めた。

大きく突き出た岬。

部分的に岩が露出している砂浜。

カリフォルニア同様に群生するパームツリー。

電灯が切れたカフェの看板。

だれもいない沿道商店街。

野犬の群。

トタンでうまく組まれた家の横には一本の紐で吊された洗濯物。

荒野の中にある一本道。

点在する部落。

そんな流れ去る風景を眺めていると、海側に逸れ、砂利道に入った。

車体を大きく上下に揺らしながら進むと、植木で飾られた車止め(ゲート)が行く手を阻んだ。

(続く)