新品・中古サーフボード販売、カスタムオーダー、ウェットスーツ、サーフィン用品など。NAKISURFは、プロサーファー、フォトグラファー、サーフライターで知られるNAKIのコンセプトサーフショップです。

naki's blog

ノースハワイ本山、ホワイトハウス道場での『波乗り道』_(5252文字)

昨日の未明から突然大きくなった南うねり。

それはまるで海が動いているかのようだ。

夜明け前にホワイトハウスが見渡せる丘に行き、

その海の鼓動を眺めていた。

セットは6?7本。

たまに孤高なるオバケ波が一本だけ、

という陣容だった。

そろそろ夜が明けるので、

下に降りていった。

大好きな夜明け前の時間でありました。

「瞑想」ですね。

セットがやってきたのでカメラを構えると、

こんな怪物波がホワイトハウスのリーフの上に跳ね上がっていた。

夜明けのホワイトハウスにパドルアウトしたのは8人。

ノースハワイのサーファーたちは、

勇敢で苛烈、豪放、壮絶、

実力凄まじく、と改めて感じさせてくれた。

何が違うのかはわからないが、

少年時代からこういう波に接してきているからこその安定度がある。

とすると、

ノアもこういう波が平気になるのだろうか?

こういう怪物波に挑むのは、

技術力ではなく、胆力だとよくわかる。

昨日と違って混雑していなかった。

なんでも西のシュネレガンズが良いということで、

昨日大勢いたノースショアチームはそちらに向かったのだそうだ。

https://www.nakisurf.com/blog/naki/archives/7882

混んでいないので、

俺はもちろんGOということになったのだが、

自分に不安になったり、

この波に挑む意味を求めて苦悩する瞬間もあったりして、

じつに興味深い自己の内面だった。

強い海に対峙するというのは、

それはさまざまな気持ちが代わる代わるやってくるものだ。

それは長年の経験で知っているんだけど…。

AVISO BD3にコンプリーシュ6’6″(nakisurfオリジナル)

をつけてパドルアウトする。

こんな波の日のリーシュは、

もっと太いレギュラー版がいいのだが、

「今日こそ(レギュラーリーシュを)持ってこよう」

と思っていたが、つい忘れてしまった。

でもセットが来たときにボードを捨てて、

引っ張らなければ、

つまり波と一緒に巻かれていけば切れないので大丈夫。

浜に降りる前に大波乗りのデレックに会った。

https://www.nakisurf.com/blog/naki/archives/2237

(デレックについてはこちらをドーゾ↑)

彼は俺のBD3を見て、

「WOW!このボードでやるのか!」

と言って、その後の言葉を失っていた。

余談だが、

じつのところ他のボードでもいいのだけど、

俺はまだこの島では「新人」なので、

こうしてハードルを高くして自身を表現すると、

ハワイアンたちは認めてくれると信じている。

だからこそ5’0“という短いボードで強い波をマナーよく攻めている。

そのおかげで、

多くのサーファーたちが俺をサーファーとして見てくれている。

(と思っている。笑)

デレックにこんな日の「教え」を聞くと、

「そうだなあ、巻かれたときはリラックスすることだな」

「みんな同じことを言うんですよね」

「あ、カウンティングがあった!」

「カウンティング?」

「そう、巻かれたときに数えるといいぞ」

「おお!」

「普段からやっていて、小さい日だといーち、にー、さんときて、

4秒くらいで浮かべるけど、今日は10はいくだろうな。

10秒は止められるだろ?」

「もちろん」

「ナキ、グッドラック!」

「ありがとう!」

ということで沖に向かって新しいエピソードをはじめた。

ラインナップに到着する前に、

クローズアウトセットがチャンネル(深いエリア)まで押し寄せてきて、

ダックダイブしたが、3本しこたま巻かれてしまった。

このエリアを越えないと乗れる波はやってこないから、

気を入れ、さらに深く腕を入れながらパドリングを続けた。

ラインナップに到着すると、

ダスティン(フェイマス社のジェイミーの弟)、

イエン(体が大きなグーフィーフッター)、

ガイ・ミラー(若き大波乗り)、

カイル鞠黒たちが笑みを浮かべながら俺を迎えてくれた。

「ヒャー、これで滑るのかいナキサン?」

てな具合で極小ボードをからかわれてしまった。

セットが来た。

先人たちが波に入っていく、

いや吸い込まれていくのを沖側から見ていた。

それぞれ乗ったみんなが戻ってきたので、

俺はさらに沖のコブと自分で呼んでいるピークに移動した。

少しして、そこにセットが入ってきた。

「GO?!ナキー!!」

と声が聞こえる。

パドルパドルパドル!

波が迫ってきて、

俺の思ったように前後左右切り立っていく。

「カンペキだぁ」

とそのままパドルをもう3回してから立ち上がると、

波底が真っ暗に見えた。

「もしかしたら??」

と直感した通り、

その次の瞬間には俺のレイルはおろか、

テイルも波にかみ(バイト)つかずに、

そのまま横から振り落とされた。

海面にヒットしたときの衝撃を今でもおぼえている。

高飛び込みの失敗みたいに体を海に打ちつけてしまった。

その後、波先が俺に突入してきて、

圧死するかも?(大げさですいません)

というほどのの圧力が襲ってきて、泡の中を弾かれて、

やがて沈まされた。

「く、苦しい…」

.

.

「そうだ!」

思いついたのはさっきのカウンティングで、

「1、2、3」

と、そこからゆっくりと数えていると、

7で俺の体は浮かびあがってきた。

ふー。

体中をアドレナリンが駆け巡っているのか、

ものすごい高揚感が俺を満たす。

インサイドでカイルが

「マジデー!」

といつものふざけたフレーズを叫んでいるので、

俺も同じように叫び返した。

沖に戻ったが、

俺の波乗りはまだ始まっていない。

「集中して集中して、体を小さくたたんで」

ここでのテイクオフの基本を反芻していた。

沖での位置取りの俺の方法は、

ハイウエイの電柱と、

後ろの丘(今朝自分で立っていた場所)の二本の木を重ねている。

だが、一度セットが入ったからか、

全員がチャンネル側に流されていたので、

俺はそのピーク位置取りを信じてセットを待った。

波がやってきた。

2、3本はあるだろう。

一番良い場所で待っているのを知っているので、

一本目から狙っていった。

波への距離、角度、パドリングスピード、

セクションの深さを確認しながら波に飛び込んでいった。

「ラクショウだ」

と、思った通りになった。

BD3がボトムに向かって滑っていく。

降りきる前に後ろ足のつま先を立てて、

波側に踏みつけてテイル側からレイルを入れていく。

向きが変わってきた瞬間にさらにレイル側だけに加重すると、

ボトムターンが始まる。

膝を曲げ、体を小さくたたんで、右手を波面に当てて、

低い姿勢で落下速度を上昇力に変えていく。

ボードが波の中に持ち上がっていくようにノーズが上を向いたところで、

その状態が伸びきる前に後足を思い切り踏みつけて、

波壁と、自分のボードが90度となるように滑走し、

波が追いついてくるのを待った。

切り立ってくる波。

集中しているからか、

無重力感覚のようで、

滑っているのだが、止まったように感じられる。

前足に加重して、波下に向けて少し機首を下げる。

前方上の波先が立ち上がるだけ昇りきって、

弧を描くように姿を丸めた。

そのままその中に包まれようと思ったのだが、

包まれるには自身の速度が速すぎたようで、

一瞬で壁セクションに出てきてしまった。

最大速度でBD3が走っていく。

これは速度によって波を裂く音が変わるので、

それがわかるのだ。

進行方向がボウル(お椀)状になっているので、

今度は浅いボトムターンから、

波のトップに引っかけるようにして、

そのボウルの底めがけて壁を引き裂いていく。

「ジジビジビーー」

と左側のレイルとフィンから音が出され、

そのままインサイドまで進み、

最後はチャンネルに向かって、

「気を付け」したポーズでキックアウトした。

乗れた。

今年もこの波を滑ることができた。

大きなことを成し遂げたような気がして、

しばし放心してしまった。

このホワイトハウス波への恋慕がかなった。

その後も波に乗ったのだが、

中盤頃、自身の慢心からか、

ある波を追いかけすぎて乗れず、

沖を振り向くと、

本日一番のセット波が来ていた。

しかも俺の位置がちょうどピークの真下。

それでも波が来るまで、インパクトを避けようとパドルをし続け、

もがくように全速力で真横に移動した。

10mほど先で波が崩れてきた。

ボードを捨てて、海の底まで潜りたいが、

それをするにはリーシュが細すぎる。

インパクトの衝撃で海面が轟くように揺れた。

弾けた波が視界全てを覆った。

それでもタイミングを失わないように、

「大丈夫でありますように」

と祈るようにダックダイブの体勢に入った。

今まで100万回以上はダックダイブをしてきているのだが、

これが集大成というほどの正確さと、

限界までの深さを求めて、ボードを沈めはじめた。

波泡の底に切れ込むようにノーズを深く入れていき、

足を海底深く踏みだしながら両腕と膝でボードと体を密着させる。

「よし、できた」

と思った瞬間に後ろに吹き飛ばされた。

「グアワ!」

ボードを握りしめたまま、

超速前回りをし、

回転直後の瞬間に右のレイルが抵抗を受けたのか、

大きな円弧の左周りを2回転。

逆さに浮いた瞬間に逆さ前回り。

「まだボードは放さないぞ」

と、さらにしっかり握りながら、

俺はさらに左周りしている。

これには斜めも方向も加わっているから新しい回り方であるぞ、

と考えながら、

「あ、数えよう」

と冷静になっている自分がいて、

さらにそこからもいきなり波の底に吸い込まれた。

水圧が変わるからなのか、音が聞こえなくなる。

海水が冷たくも感じて、

様々なことに畏怖し、

目を開けようと思ったが、なぜか開けずに4,5と数え続けていた。

回りながらリーフに右腿と右肘が激突した。

「ぐあぁわ、6」

と数を数えながら痛がり、

しぶとくボードは掴んでいた。

さらに回りながら、

最後にノーズから浮き上がりはじめたので、

ボードの浮力を使って、

「8?、9!」

と海面に出たら、もうそこはインサイドのチャンネルだった。

「あそこからここまで吹き飛ばされたのか」

と愕然としながらも、

恐怖を感じることはなく、

「笑うしかない」

と思い、にやけてみせる俺がいたのでした。

それから2本を追加し、

最後の波ではカイルの声援を恥ずかしく受けながらテイクオフし、

無事に上陸した。

そうしたら安心したのか、

先ほど打った腿がやたら痛く、

それは歩けないほどの疼痛でありました。

おかげで今は氷を患部に当てながらこれを書いています。

今日の盟友BD3さま。

セットが入るたびに駐車場から嬌声が上がっていた。

タオルドライした後、カメラを取り出して、

すっかり陽が昇って青くなった波を撮ってみた。

こんな波に乗っていたんだなぁ。

と感慨深い撮影でありました。

これはイエンの高飛び込み。

クワバラクワバラ。

この後イエンは15は数えたのだろうね。

正面から見た波。

すごい掘れ方をしています。

そこで、

これを書きながら

「このうねりはどこから来たのか?」

と調べてみると、

それは遙か遠くの

『ニュージーランド南東の沖にあった台風規模の嵐』

からということを知った。

しかもこの嵐の大きさが伝説的で、

それは1200 x 900海里 (1 nautical mile=1852m) という広さ。

それをキロメートルで換算すると、

2222km x 1669kmとなりました。

これは、

北海道の宗谷岬から鹿児島の佐多岬までが約2000km

青森から奄美大島のグリーンヒルまでが1669km

という広域に存在していた記録的な低気圧。

これに名前を付けて後世に伝えたいほどです。

そして、この低気圧が8月24日となって、

猛烈に発達し、暴風域付近は50フィート(約17.4m)以上のうねりとなり、

大時化とし、やがてそれがまとまってうねりとなり、

4200海里を5日半かけてノースハワイまで旅してきました。

4200海里は7778kmなので、

およそ時速60kmという速さのうねりです。

さらにはうねり周期が20-26秒という、

伝説的に長いバンドでした。

この怪物うねりが岸に近づくと、

海水の行き場がなくなって、速度が遅くなるのですが、

それでもその抵抗をかきわけるように激烈に陸に進んできて、

ホワイトハウスのリーフを壊すように乗り上げました。

それほどまでに強く、速度のあるうねりだった。

波はときに優しく、

そして時にものすごいパワーを誇る。

波イコール海。

その大自然のすごさを感じられる

『波乗り=サーフィング』

という行為に魅せられて28年間生きてきました。

波乗りを媒介として過ごしていくと、

新しい世界の幕が次々と開くようで、

それはすばらしいライフワークとなっている。

波乗りはときにスポーツとか、または遊びと例えられるんだけど、

今日の波乗りの感想は、

「真・波乗道」

みたいに啓示や教えがたくさん詰まったセッションだったと思える。

今まで以上に謙虚に、そして祈りながら、

幸せを求道できるようにしよう、と思った記念日です。

長くなってしまいましたが、

ここまで読んでくださってありがとうございます。

あなたの波乗道もこれからさらに入りこめますように!