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naki's blog

『流れ続ける無』_BLUE誌2013年3月号掲載_(1289文字)

Canvas Pompadour 5’9″

Softsand reef / North Hawaii 2010

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東の岬を超えてやってきてください

あなたの薫り高い芸術に私たちの風が出会います

あなたの朝夕の息吹を私たちに贈ってください

あなたを恋い焦がれるこの海にたくさんの真珠をちりばめてください

Come o’er the southern capes, and let our winds
Kiss thy perfumed garments; let us taste
Thy morn and evening breath; scatter thy pearls
Upon our love-sick ocean that mourns for thee.

海は流れ続けている。

潮によって、流れによって、

風によって、波によって流れ続けている。

夜明けの、冷たく、切るような風。

強い波が目の前で弾けた。

ボードのレイルを持って自身を沈める。

波は、頭、背中、足、

という順に上を走りながら通り過ぎていく。

次はさらに大きいのが来た。

沈みこむ前に息を大きく吸い、

そして口に海水を満たす。

これは少しでも深く沈むように、

自分自身の浮力を下げるおまじないである。

「沈め、もっと深く沈め」

祈りながら波の下に入っていく。

海の猛りが上を抜けていく。

かすかな閃光が頭のなかを幾度も過ぎる。

大量の大小の泡、

それらが弾ける音の中で口に含んだ水をはき出した。

舌に残った海の味。

水晶のように透明な塩味は、

いまはじめて俺に触れたかのように生まれたての持つ歓びに満たされていた。

波のことをしばらく考えていた。

波が通過してきた風景が想像の幕の上を浮かび上がってきた。

嵐、雨、闇、月、静寂、遠い白明、淡蒼、

そして艶やかな色をまとった空。

壮大な朝陽、朝靄、虹、青空、高くなった太陽、

動き続ける雲群、海面を飛び交う魚、歌うように飛ぶ鳥。

晴朗と海原の広大さをかみしめながら波は止まることなく一方向に進む。

傾く陽、燃えるような空、

暖色の陽が遠くなり、やがて蒼が満たし、月が静かに昇り、

闇がまたやってくるという幾度の繰り返しの後、

最終地点である大地が現れてきたのだろう。

この波は浅瀬に来て最後を知り、

叫びを上げながら弾け、泡群を海面に沸かせた。

波は動の象徴と言える。

その強健なパワーと精魂はいま散ってしまった。

だが、この清浄な味がここに運ばれてきた。

有機物の死の匂いや影などは微塵もなく、

さらには分解もなく、

ただただ無となって果て散って、

静に向かってひたすら混ざっていく。

この崩れた波は海に還り、

そしてまた風に吹かれてひとつの意志となっていくのだろう。

それを死と呼ぶのは俺たちのエゴ。

無と言えばいいのか。

その無に乗るために俺たちは牙を磨き、爪を立てながら波を待つ。

乗る資格を持った波が目の前に来たとき、

そこには歓声が聞こえるのか、

または深い啓示を受けるのか、

それとも全身を恍惚が占め、

雷感がつらぬくのかは自分にかかっている。

無になれるためにいまを生きる。

無に乗るために夢を見る。

海は流れ、俺も流れる。(了、2/18/2013)