先週のことだ。
北海道の北、アリューシャン海域を台風並、
いやそれ以上とされるものすごい嵐がさらに発達した。
その爆風に海面が吹き出されるように北から南に散る。
北斎の絵のように揺れた海は、
風に磨かれながらまとまっていく。
たっぷりと芯をたくわえたうねりが、
ハワイ諸島手前の深海で速度を落とす。
しかし止まることなく、
そしてよどみなく進んで、
うねりは隊列を組むようにノースハワイ島の北西、
イナリーズ沖までやってきた。
水平線がたわみ、その中の何本かが見えた。
「来る」
直感が閃く。
身構えるのではなく、沖へとパドルし始める。
いくつものうねり、
その遙か向こうある山のような碧色が動いてこちらに向かっている。
浅瀬に来ると速度を上げながら頂上を切り上げてくる。
「大きく、猛烈だ」
そのことを確信すると、腹に力を入れ、
大きく、静かに呼吸して平静を保とうとするが、
畏怖からか、
体中が重く、筋肉は引きつる手前のようになり、
力を半分でさえも入れることができず、
次第に速度を失っていく。
「漕げ、漕げ、動け、負けるな」
宿命の波が迫ってくる。
自分の全てが試される。
「強くいられるのか、
耐えられるか、
覚悟はあるのか、
落ち着いていられるか、
これまで何をしてきたのか」
全てが試され、秒が凝縮されていく。
ここでは弁解も哀訴も何も効かない。
波は全てをふるわせて、
天に響きわたるように崩れはじめた。
波乗りをしているとこんな日がある。
そしてそれは、
壮大かつ微細な忘れがたい記憶となる。
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誕生日ではないが、
また一つ年を取った日。
23フィートと昨日よりも波高を上げて、
14秒と波間隔を下げた。
結果、波は少し小さくなっている。
波高だけではないのですね。
それにしても7mのうねりというのはすごい。
輝くような日、
が過ぎた。
腹に残るあの轟音、
猛る泡、背中の倦怠感。
自分が持っていたよどみや汚れが落ち去ったような気になり、
外を見ると、
よく動く雲と雲の間に満月に近い大きな月が浮いていた。
あの波はひと筋の光となって、俺の中にとどまっている。
いつか酒を飲みながらこのことを思い出すのだろう。
雨の音が聞こえてきた。
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