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naki's blog

波神とたぬき / 宮鯖賢治_(3222文字)【ドラグラ・プロダクションズ製作】

ウマシマジとタヌーマン(波神とたぬき改題)

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ミヤサバ先生

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(新字、令和仮名)

夜明け。

煌びやかなサンライズ。

草に露がきらめき、力いっぱいに花が咲いている。

真東から金色をからだ中に被ったように朝日をいっぱいに浴びて、

波神がゆっくりとやって来た。

波神にもいろいろあって、

あるものは天羽々斬

(スサノオがヤマタノオロチを退治した十拳剣〈十握剣、とつかのつるぎ〉)

を持っていたり、

龍や鮫と素性はさまざまだが、

この波神はウマシマジと言い、

古事記では、宇摩志麻遅命と表記され、

日本書紀では可美真手命と書かれた物部氏の父だ。

渋く、辛そうな顔の翁(おきな)神は、

うねりとなってゆっくりとやって来たのでした。

モアナは少し怖くなりましたが、

それでも大きな瞳を輝かせてうねりの来る方を向きました。

うねり——ウマシマジは波のうねりのように太陽を反射させながら、

しずかにモアナの前に立ちました。

「モアナ。おはよう」

「おはようございます」

「わしはね、わからないことが沢山ある、むずかしいことが多いもんだね」

「まあ、どんなことでございますの」

「例えば、太陽は、なぜいつもそこ辺りからでるのだろう。

時間によってオレンジや紅の花さえ空に咲かせるのが、どうにもわからないねぇ」

「それはこの星が回転しているからです。

太陽が横にあるときは、地表、水平線に近くなることでななめに空気の層を通ります。

このため、目に届くまでの距離が長くなり、

光子がより多くの空気分子を通過するためなんですよ」

「そうだ。まあそう云えばそうだがそれでもやっぱりわからんな。

たとえばクラゲは種もなく、海の中で誕生するものだけど、

それにも赤や黄色といろいろある、わからないなぁ」

「狸(タヌーマン)さんにでも聞いてみましたらいかがでございましょう」

モアナは昨日ここで見たピンポンパン画像のことを考えていたので、

タヌーマンのことをうっかり言ってしまいました。

この語を聞いてウマシマジは俄かに顔いろを変えました。

そしてこぶしを握りました。

「何ぃ、タヌー? タヌーマンが何を言ったのだ!」

モアナはおろおろ声になりました。

「何も伺ったわけではございませんが、ちょっとご存知かと思いましたので」

「神が狸に教わるものはない!」

モアナはもうすっかり恐くなって震えてしまいました。

ウマシマジは歯をきしきし噛みながら、

腕をきつく組んで、ウロウロと歩き回りました。

すると、空から影が出てきて、美しい燦めきを隠してしまいました。

「タヌーマンは実に害悪だ。いつもニコニコしているし、

約束は守らない上、視力もよく、サーフィンもうまいときている。

なぜかそれが悔しく、とても妬んでしまうのだ。

ぬ、あやつは神ではない生きもののくせをして!」

モアナは話題を変えようと、台風の話をしました。

なぜならウマシマジは波の神ですから。

「台風はどうなりますか?」

ウマシマジはここでようやく顔を和げました。

「そうじゃ。次は950mbまで行くぞ。ここまではあと6日だ」

ウマシマジは少し静かにしていましたが、また突然声を荒げました。

「しかしながら人間どもは不届きだ。近頃は台風にも供物一つ持っては来ない、

おのれ、今度わしの領分に足を入れたものはきっと波の底に引きこんでやろうではないか」

ウマシマジはまた歯噛みしています。

モアナは自分のせいでこんなことになったので、

どうしたらいいかわからなくなり、

風にゆれるように体を震わせていました。

突然ウマシマジは、

太陽を受けてまるで燃えるようになりました。

波先を空まで立ち上げ、

ギリギリのところでこらえていました。

こうして崩れてしまったら、

ウマシマジの生涯はここで閉じてしまいます。

けれど、

タヌーマンのことを考えれば考えるほど、

何もかもしゃくにさわって来るらしいのでした。

そしてウマシマジは、

とうとうこらえ切れなくなって、

激しい波となり、

吠えるようにうなって荒々しく弾けて、

海に帰って行ったのでした。

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波神と狸

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宮鯖賢治

(新字旧仮名)

夜があけました。太陽がのぼりました。

草には露がきらめき花はみな力いっぱい咲きました。

その正東の方から熔けた銅の汁をからだ中に被ったように朝日をいっぱいに浴びて波神がゆっくりゆっくりやって来ました。

波神にもいろいろありまして、

あるものは天羽々斬を持っていたり、

龍のような体をするもの、

人の形、

または鮫形と素性はさまざまですが、

この波神はウマシマジ(宇摩志麻遅命)と言い、

辛そうな顔をした人間の翁です。

それがゆっくりゆっくりやって来たのでした。

モアナは何だか少し困ったように思いながらそれでも大きな瞳をきらきらと動かして波神の来る方を向きました。

そのうねりは太陽を身の中にちらちらちらちらゆれました。波神はしずかにやって来てモアナの前に立ちました。

「モアナ。お早う。」

「お早うございます。」

「わしはね、どうも考えて見るとわからんことが沢山ある、なかなかわからんことが多いもんだね。」

「まあ、どんなことでございますの。」

「たとえばだね、太陽というものはあちらから出るのだがなぜいつもたいていそこからでるもんだろう。

時間によって橙や紅の花さえ咲くんだ。どうもわからんねえ。」

「それは私たちが太陽の周りをまわっているからです。

太陽が横にあるときは、地表、水平線に近くなることでななめに空気の層を通ります。

このため、目に届くまでの距離が長くなり、

光子がより多くの空気分子を通過しなければならないためではないでございましょうか。」

「そうだ。まあそう云えばそうだがそれでもやっぱりわからんな。

たとえばの水母(くらげ)のようなものは種子もなし全く海の中からばかり出て行くもんだ、

それにもやっぱり赤や黄いろやいろいろある、わからんねえ。」

「狸(タヌーマン)さんにでも聞いてみましたらいかがでございましょう。」

モアナはうっとり昨夜のはなし(ピンポンパン)をおもっていましたのでつい斯う云ってしまいました。

この語を聞いて波神は俄かに顔いろを変えました。そしてこぶしを握りました。

「何だ。タヌ? タヌーマンが何を云い居った。」

モアナはおろおろ声になりました。

「何も仰っしゃったんではございませんがちょっとしたらご存知かと思いましたので。」

「狸なんぞに神が物を教わるとは一体何たることだ。えい。」

モアナはもうすっかり恐くなってぷりぷりぷりぷりゆれました。

波神は歯をきしきし噛みながら高く腕を組んでそこらをあるきまわりました。

そらから影がちらちらちらちらも恐れて顫えたのです。

「タヌの如きは実に世の害悪だ。ただ一言もまことはなく、約束の刻は守らぬし、

浪乗り法は胆も据わっていてなかなかにうまい。

なのだが、やつは別の生きものの分際としてうすら笑っていて、

狸のくせして視力もよく、

なぜか非常に悔しく、嫉ましさに顔を青くしてしまうのだあ。」

モアナはやっと気をとり直して云いました。

「もうあなたの方のお祭も近づきましたね。」

波神は少し顔色を和げました。

「そうじゃ。次は950みりばあるだ、あと六日でここだ。」

波神はしばらく考えていましたが俄かに又声を暴らげました。

「しかしながら人間どもは不届だ。近頃はわしの祭にも供物一つ持って来ん、

おのれ、今度わしの領分に足を入れたものはきっと波の底に引き擦り込んでやろう。」

波神はまたきりきり歯噛みしました。

モアナは折角なだめようと思って云ったことが

又もや却ってこんなことになったので

もうどうしたらいいかわからなくなり体を風にゆすっていました。

波神は日光を受けてまるで燃えるようになりながら高く腕を組み

キリキリ歯噛みをして

その辺をうろうろしていましたが

考えれば考えるほど何もかもしゃくにさわって来るらしいのでした。

そしてとうとうこらえ切れなくなって、

吠えるようにうなって荒々しく散って、

海に帰って行ったのでした。

Happy Surfing!!