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naki's blog

the white sound -白音- part2 (2001年1月作品)

・・・昨日からの続き)

さきほどのうねりが未明に届いたザ・ピットは、朝陽と共にその大きな口を開いた。

夏期を形の良いポイントブレイクで過ごした俺にとって、「ザ・ピットで入る」というのはいわば形式化された冬の儀式で、楽しいターンの繰り返しとは違った感覚となる。

波への畏怖や海が創り出す芸術作品に触る気構えとキック力がある。

セットの起伏が水平線を上下させながら近づいてくる。
繰り返すが、これは遠く日本からはるばるやってきたうねりだ。

沖にパドリングし、ラインナップに到着するとまずは呼吸を整える。
斜面が一番最初に凹むピークからドロップインし、波壁に沿うようにして降下すると、壁の先端が弧を描きながら自分を包む。

波が海面に炸裂した轟音の反響、濃藍色をした波の壁、部分的に砂を巻き上げているエリア、天井から先へ薄くなった側が太陽に透けて艶麗な視界を創り出した。
その中で楕円に開いた外への門までただひたすら向かう。
やがてセクションがつながってしまったのか、出口が遠くなり、曲がった壁で見えなくなる。
逃げ場の無い大気が狭くなる空間と共に加速度的に圧縮して、「キュイーン」という高い金属音が始まると、緊張で身が引き締まった。
さらに進むと圧縮が極まり、完全無音状態と化した。

それは例えるなら真空というか、今見える全ての光景が本質をもたない因縁による仮の現象として存在しているように映った。
これは今まで経験したことのない神秘的なものだった。
その空間で俺はサーフボードに乗ったまま凍っていた。
突然壁の角度が横方向へと変化し、泡が真下に発生して一瞬で吸い込まれた。
背中に強く感じる海底の硬い感触から解放され、海面まで浮上すると、まるで世界が変わってしまったかのように精神は解き放たれた。のみならず五感全てが研ぎ澄まされたようで、震えるように体が興奮している。
この感覚は長く持続し、夜になってもなかなか睡ることができなかった。
これが何なのかを説明しようとしばらく考えていたが、しっくりするのは「宇宙飛行士が青く輝く地球を初めて見た」というのに似ているのかもしれない。

翌日ドノバンと会って、体験した無音状態全てを説明すると、
「おーそれか!下まで開くチューブの中では毎回起きるぜ、バックドアなんかは風景がカチッと固まるのさ。お前初めて聞いたのか?」
と答えが返ってきた。
ディノも向こうからやってきたので同じことを聞くと、
「俺は耳がいいからシュワシュワと泡のはじける音が聞こえるんだ」
と、やはり彼らは何百回もその境地をすでに経験済みだという。

波乗りの持つ新世界に純粋に感動し、それから波が出るたびにザ・ピットまで行くのだが、あれから一度も味わってはいない。しかし波の内側から見る世界が変わったようで、超自然的で美しく感動的だ。

追記:サンクレメンテの老舗シェイパーのティム(・ベセール)がバレル内の無音状態のことを『ホワイトサウンド』というのだと教えてくれた。これこそ名は体を表している典型だろう。

(了、1/14/01)

One thought on “the white sound -白音- part2 (2001年1月作品)

  1. z200本

    いやー、毎回の事ながら臨場感溢れる文章、さすがです。
    映像が見えてきますね。
    『ホワイトサウンド』ですか、僕がテイクオフのときに毎回頭の中が真っ白になるパニック状態、いわゆる『ホワイトアウト』と近いものがありますね…

    nakiさんの潜伏中にイチロー選手が7年連続200本安打を達成しました。
    ちなみに僕は8年連続『ホットツナ』のサーフパンツです。