ほぼ日本の南端近くにいる。
こんな辺境の場所で、唯一唯二のスーパーマーケットに入ると、3日前のオリンピック野球種目予選で「日本が韓国に競り勝つ!!」という見出しの新聞が届いたところだった。
忙しいモーレツ日本で、こんな大きな時差があるのはなんともすてきなのだろう、とうっとりしつつメロンパンを買うとやはり賞味期限切れのものだった。
それは幼い頃初めて食べた味で、粗目糖の歯触りに銚子のおばあちゃんの顔が浮かび、なぜかそこからパワフルな青い波「君ヶ浜の三角岩ライト」が、そして「大久保」の伊達巻き寿司までを瞬間連想した。
こちらは到着後から北風が強く、ずっと時化(しけ)となっている。
海を見ると、室内に戻って読書をする気にしかならないのだが、ここに住む徳ちゃんによると、風でおこされたうねりが東側に回り込んで、うねりとなり、岬状になった山の稜線で風向きが変化して、まっすぐオフショアとなり、パーフェクトなライト波の場所があるという。
よくある話なので、それを耳の後ろで聞き、つまり信用せずに彼と一緒にその場所に行ってみると、不思議なものでそこは前回ここに来た時に滞在していた女神洞窟入り口であった。
その時も蝶が出迎えてくれたが、今日も同じ蝶がやってきた。
「ここ?あの時はまったく波なんかなかったぞ」
と言うと、「そりゃそうですよ、あの時は南うねりでしたから」と返された。
「うーむ、感動は深く時を越えてつながっているのだなあ」
と女神浜に降りると、イナリーズのように沖に向かって右側からうねりは規則的にやってきて、浅い棚に沿ってズドズドズドーンと凄まじい音を発してブレイクしていた。
150mは続く究極高速(多分抜けられないだろう)のセクション最後に岩の切れ込みがあるようで、波の角度を変え、持ち上げ、ボウルとなっていた。
そこで入ることに決め、沖に出るとオフショアが強く、体感温度ということを思い出す。
徳ちゃんの勧め通り、ロングスリーブスプリングスーツを持ってきてよかったなあ、と実感した。
自分が滞在していた女神洞窟地区を沖から見ると、また不思議な気持ちとなる。
さて、波なのだが、急浅となる棚があり、その少し沖はディープブルーの世界。一度風に流され、深海色をした沖に流されたのだが、「鮫地域ですね」という言葉にぞっとし、全力で棚に戻る。
ノースハワイも鮫が多いので、その怖さは知っている。
その最終棚はかなり面白く、何本か乗り、満足しているとヒロシくんという若いサーファーが現れた。
彼はにっこにこで「こんちはー」と言いながら、奥の超高速棚方面にパドリングしていく。
うねり方向が斜めなので、こちらから丸見えなので少し見学すると、あのセクションを抜けてきた。
!
それを見てその棚に移動し、ノンショルダーの波にパドリングするが、テイクオフするころにはショルダーは一気に延び、ベイル(この場合後ろに止めること)を余儀なくされる。
その後のヒロシくんはテイクオフした直後にチューブというか波穴に勇敢にも入りこみ、そのまま浅い棚に吸い込まれていき、心配して見ていたら膝くらいの水深で立ち上がり「ワハハハー」と大笑いしている。
すごいサーファーである。
これなら世界のどこに行こうとサーフィンを楽しむことができる、世界クラスに浅くて、シャープで、速く、掘れる波だった。
似ているとすれば、トトヤ島の「カンニバル」というレフト波の小さいときに似ているが、ここまで浅くないだろう。
すると徳ちゃんが、「ヒロシ、そんなところに立つとミノカサゴに刺されるぞ」と言って、しばし俺たちはその毒の痛みについて話す。
徳ちゃんは2回刺された経歴の持ち主で、その痛みは激しきもので屈強の男が涙するという。処置としては「出来る限りの熱湯に患部を2時間浸けておく」と言うが、猛痛の中、患部を熱湯に入れ120分と考えるだけで恐ろしい。
こんなきれいな海だからこそ、鮫だ、毒魚だとトゲがあるわけで、鮫がいない陸ではハブがいて、都会に行くと、鮫やハブがいない代わりにスモッグと辛いことがあるわけで、都会も原生も善悪は同比率だというその自然界バランスにしばし呆然となった。
衝撃の「ブラックダイヤモンド2」体験はいかに。
左からひろしくん、徳ちゃん、洋ちゃん。
静かに弱々しく暗くなり、日没を知った。
それほどまでに雲は厚いのだ。
「島で一番おいしい」というレストランに行くと、店内にいたネコたちに驚く。
床に7匹、天井にも3匹、よく見ると厨房にも数匹入り、食器棚にもはまりこみ、まさしくこれはネコ版「ウオーリーを探せ」である。
30匹?はいるのだろうか。
俺もネコ好きだが、食品と一緒に彼らの毛を食べる気はしないし、あまりの凄さにこれは夢なのか?と供された白ワインを見ると、小さなグラスにしかも1/3量しか注がれていなかった。
ウエイター氏に「700円も取るグラスワイン、しかも白でこれはいかがなものか?」
と訪ねると、「すいません、次からはちゃんと注ぎます」との返答。
「そんなことを言わずに1杯しか飲まないからこれに注いでもらえる?」
と言うと、「お店の決まりでこの量なんすけどぉ」と言いながらボトルを持ってやってきた。
見ると、ボトル1本680円のソービニョンブランであった。
それをあの量で提供したら大儲けだろうと察した。
とにかく通常量まで注いでもらい、徳ちゃんと春ちゃんと乾杯すると、さっそくネコがニャーとタコをかっさらいに来た。
徳ちゃんがそれを払い、「俺もネコ好きだけど、教育のためにこうする」と複雑な顔。
食べる前に取り皿、フォークを紙ナプキンで良く拭きとる。
複雑な気持ちだ。
ガーリックトースト、野菜炒めと石垣牛のアラビアータ(スパゲティ)。
それらの料理はどれも信じられないほどすばらしく、やはり気になるのは衛生面だけである。
病気のネコがいたらこちらも一発で病気となるが、この夕食でも自然界の善悪一定となるバランスを感じる。
衛生的な生活に慣れた俺にとって、この食事は痛烈なパンチを受けた気がするが、体勢を立て直して「これもまた真なり」と恍惚となった。
(追記)
この旅の主役だった純城はこの旅をキャンセルしたのだが、この寒く、強風、メルヘンであったネコレストランを考えるとそれはそれで正解だったなあ、と風でひしゃげた水平線を見て、しみじみ思う。
すると旅の極意がまたひとつ生まれた。
「旅は悪い天気、食を喰うことでもある」
いかがなものでしょうか?
(追記2)
最後に一句。
北風にパイヌ海から夢のせて
これは少し難しいので解説すると、
パイヌという意味は沖縄方言で「南」ということ。
そして、気圧配置が「西高東低」となると、この風がその強い北風の起点部分となっているようで、この風に乗ってこの句がみなさんに届いて欲しいと思いました。
西高東低の日本海でしかと受け取りました。
本日は、今シーズン始まって以来の寒さです。
凄いサーフレポとレストラン・レポ。
これもバランスですかね?(笑)
Fgさん、
ありがとうございます。
今一転して大雨です。
これからどうなることやら、お寒いのですね。
同じです。
ひろし君すごいですね。
環境は人を強くするものなんですね!
毎日リーフに乗っていると平気になるものなのか…?
近所のおばあちゃんがやっているパン屋さんでも時々期限切れのパンを売ってます。。。
感動的な再訪ですね。
行ってみたいなぁ…
想い続けて実現するぞ?!
のりさん、
そうなのでしょうね。
うらやましいです。
得♪さん、
そうなのです。
西高東低は憎く、そしてものすごい風でした。