釣りバカの俺としては、すばらしくもかなしく、そして登場人物のバカ度が高いこの釣行記に感銘を受けた。
しかも俺の一番好きな雑誌「つり丸」連載なのです。
で、写経ではないが、今日のブログは「椎名さん風昭和軽薄体進化版」を模写してみました。
題して
「男たちの波」
昨夜、サーフィンライフに送る原稿チェックを校正格のとおるに送り、「問題なし」のメールが来たので、ヨロコビに身を悶えさせながらビールを飲む。
最近禁酒気味で、酒を飲まなくなったおれにはたまに飲むビール、これが大変うまいとグビーと喉を鳴らす。
翌朝、いつものように夜が明ける前に目をさましたおれはメール、原稿仕事を片付けた。
その後怠慢な天気、つまり太陽がのぼらない朝がやってきて、さらにわしわしとメール仕事を続けていると携帯が鳴り、それは「フレちゃん」こと長老のフレディからだった。
「ワシはね、昨日闘牛でひとりでサーフしたんだよ。いい波だったなあ、だからね、今日も空いていると思うけど、行く?」
と言うではないか。
昨日はサーフを休んだ日で、そんなことになっていたとは!
「いきますいきます」
と携帯を置きながら、おれは悔しさで「ガルルルルルウ!」と叫んで火を吹きそうになった。
バカ化した脳に男の夢がしみこんでいく。
極度の興奮からか、誰かにもこの無人波があることを教えようと、初心者だが波乗り熱が異様に高いココに声をかけ、次にワイメアに住む日本語と英語を完璧に話すクレイグに発作的に電話をかけた。
「ゴホンゴホン、フナキさん、ワタシ風邪よー、それでね、昨日センセーにー相談に行ったのですヨ。ゴホゴホッ、するとですね、コーセーブッシツをいただきまして、サーフィングはしないほうがいい、と言うのでキョウハそれにシタガイマスね?」
かくして、闘牛好きのクレイグは病欠となった。
まだ血走った目をしたおれは次にマイクに電話をかけた。
すると、「ロングボードサイズだろ?ショーンと30分後に行くよ」と返ってきた。
おお、これで5人となった!
おれのやりたかった「わしら狂った波乗り隊」の結成がジツゲンしたのだ、と一人うなづきつつ海に向かった。
闘牛岬到着。
路肩がここのオフィシャルな駐車場なのだが、すでに車が3台停まっていた。
ということは最少で3名のサーファーがいる計算となった。
おれの後ろには黄色いSUP(通称タチアガリ)を積んだ車があって、その横には見たことのある男が海に行く支度をしていた。
おれはひっそりとささやかに笑みを彼に発したが、無視されてしまう。
「誰もいない海」を期待してきたおれたちにとって、出鼻をくじかれた格好となったが、「こんなことで負けるおれではないぞ」とつぶやきながら、わっしとロングを持って浜に向かった。
クネクネと闘牛避けの柵を通り抜けて浜に向かって進む。
川を越えると波が見えた。
全体に波影薄く、風強く、汐悪く、人が多く、そして曇っている。
そして「タチアガリ」が5台もいる。
他のサーファーは3人。
「まあ空いているほうだ、入ろう入ろう」
と自らをなぐさめるように「おーし、えい、えい」とニーパドルで沖へ向かうと、なんとタチアガリ部隊はおれの好きなインサイドに陣取っているのではないか。
たまにやってくるせいぜい膝の高さしかないほどの波に、これだけの大人がよってたかって群がる、ということは悲しいが事実である。
が、しかし本日の目的は「波に乗る」ということなので、ぶつくさ言わずに彼らの奥のピークに陣取る。
波が小さいからかブレイクは浅瀬に移動していて、波待ちをするとリーフに足がついてしまうほどだった。
「ひええー危ないぞ」と言いながら少し沖に移動すると、ちょうどセット波が来た。
よーし!とボードをわっせわっせと漕ぎ、おれは波に乗った。
インサイドの速いセクションの向こうでは、明らかに波の足りていない、つまり供給率の低いのを受けたタチアガリがおれの波に漕いでいるのではないか。。
まだ一本目の波ということもあって、平和的におれは波から降りる。
昨夜読んだ本に「大人はあせらない」ということが書いてあったので、早速ここに実践したのだ。
ややあってマイクとショーン到着。
(椎名さん流ならば「ドレイ2名到着」となるのだが、ここにはドレイなどいないのだ)
セットがまた入る。
さっきの波を見たいつもいるタチアガリ族のデレックが、いつのまにかおれたちより奥に陣取っていて、奴がその波に乗っていく。
凶状鮫眼でそいつをギラリと睨むおれたち。
2本目も入り、ショーンが一番良い位置にいたので、「GO?」と叫ぶが、パドル力の足りない彼にはその波に乗るには小さすぎた。
で、横にいたマイクがパドルを開始して、上手に波に乗っていった。
さすがシェーン&ギャビンの父であるな、と頷いていると、生粋のボストンレッドソックス・ファンのショーンが野球の話題を振ってきたので、しばしの四方山話。
オカジマのコントロールが戻ってきた、ダイスケーの今年はすばらしい、などと場違いなかんじの話題で盛り上がる。
我々は風で少し流されたので、オリジナル場所に戻るが、まったく波の気配がない。
おれはボードの上にすっくとタチアガリのように立ち上がり、水平線を見やったが、うねりの線はどこにもなかった。
風に乗り始めて、徐々にだが風下に進んでいく。
みすぼらしくも前進して、彼方前方のニイハウ島に一直線に向かっていくタチアガリスタイルのおれ。
どーだー!
とマイクを見ると、おれはすでにかなり沖に来ていて、鮫の恐怖を感じて全力の正しいパドリングを早回ししながら戻る。
長老フレちゃんがここで登場。
「くふふふふふ」
と含んだ笑いの長老は、「やっぱり昨日は昨日で今日は今日だな」と諸行無常なことを言う。
やはり世の存在と現実は、形も本質も同一性を保持することができないのだなあ、と難しくもありがたき教訓を受ける。
さすが長老ヨーダ、じゃなかったフレちゃんは涅槃寂静なのである。
おれのような煩悩の炎を燃やしまくっている男には、ここはわからないところだが、キリリとわかったふりの顔をする。
涅槃とは反対側にいるであろうおれは、敬うように長老を見ると、なんとギラリと後光がさしていた。
「ハハー、ご神体さま」
と言いそうになり、よく見るとその後光は、曇り空から覗く朝の太陽そのものだったのだ。
とまあ、こんなバカヤロ話を続け、ここに綴っていきたいのだが、正しく清廉な読者がそれを許してくれるわけはないので、椎名誠さん風はこれにておしまいとする。
がしかし、オロかなことにまたいつかこの続きを書くかもしれないので注意していただきたい。
二〇〇八年九月
秋となり もうすぐイナリーズ やってくる
シーナフナキ
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(おまけ)
味平カレー続編です。
インド屋の切り札「ブラックカレー」に味平はどう立ち向かうのか?
という切り口で、後半がページ数が足りず、書ききれていないほど濃い内容となっている。
ノアが「ミルクカレーが食べたい」と言ってきたので、彼もこれを読んだことを知る。
これが料理漫画の元祖であり、長老です。
大人達の熾烈な波の取り合いの臨場感を感じました。 鮫の存在を気にしながらのサーフって言うのは日本に居る私にはあまり想像できません。実は叔母は高校がPunahou schoolだったのですが、同級生の白人の女の子が鮫に足を持って行かれて亡くなった話を何度も聞きました。
ニマニマしながら読み入ってしまいました。
再登場、ぜひぜひ~!
《味平》のブラックカレー懐かし過ぎます。(笑)
一度食べると病み付きになるのですね。媚薬入りですから。(笑)
元気でる文学でした
ほんわかして?やさしいピースな世界を連想します。学生時代かな椎名さんはやったのバブル期でしたよね確か、フラッシュバックしてます次回はドドゲさん登場して欲しいです!
昨日のガチガチな夢のお話しから、今日はバカヤロ話し。
逆真というか真逆ですね!
バカヤロ話し、ユッタリとした空気が流れてる気がして楽しかったです。また気が向いたらゼヒ聞かせてください。
シーナさんの本、あやしい探検隊シリーズから、ほとんどすべて読んでいたので、今回のブログ、最高でした!!
「昭和軽薄体(でしたっけ?)」の頃のシーナさんの文体を、nakiさん流に、逆真会的波乗り的解釈をすると、こんな素敵な文章になるのですね。
nakiさんのアレンジ、最高です。
また、ぜひぜひ続きが読みたいです!
「臨場感」ありがとうございます。
鮫がけっこういて、最近どのヒレが危険な種類かを見極められるようになってきています。
おー!
ブラックカレーご存じですね。
俺はカレーに「とんかつソース」をかけ、
「味平カレー2」だ!
と勝手に続編を作って食べていました。
ドドゲさん登場時に椎名さん文体で行こうかな?
でもドドゲさんの「ドドゲ文体」には誰もかなわないであろう、と感じます。
真逆も真なり
となるとメビウスの輪ですね。
長老フレちゃん話を続けたいです。
さすがです。
昭和軽薄体を俺の「なんでもちゃんこ鍋うどんをいれちゃうブンタイ」とリミックスしました。
また近いうちにやりますので、どうぞ読んでやってください。
気づいてくれてうれしいです。