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ブランド波(2011年BLUE誌巻頭コラムより)_(1255文字)

世界を覆っていた雲がなくなった。

むき出しの太陽が昇ると、

鈍い色をしていた海の上に満開の波の白い花が咲いた。

パドルアウトし、間近で見る波はまるで動く宝石だ。

最近の波乗りでのテーマは、

“美しい波を優雅に滑る”

ということ。

“優雅に滑る”ということは、

波に乗っているときだけではなく、

パドリングアウト、ワックスアップ、

車の運転の仕方まで、

という普段からの端正なる挙措が求められている。

足を曲げるときは、

波乗りの際のスタンスよろしく、

膝を内側に曲げる、判断は一瞬で確実に等々、

いくつものやり方がある。

これを会得すると、

海に行けない日でもきちんと目的に向かえる自分がいる。

「全ての時間を波乗りに捧げて」

というスローガンが出来たが、

この言葉を賞賛してくれる人は、

ひたすら健康な精神の持ち主と信じます。

さて、先日、

『波乗り道場』というブレイクがあると聞いた。

それを教えてくれた人が、

「あそこは混んでますよ?」

と複雑なうれしさっぽく言った。

「でもレベルが高いから入っているだけで勉強にはなります」

と付け加えた。

そして、噂の道場波を見に行くと、

多くのプロも入り交じっての大混雑で、

やはり道場の名にふさわしい鍛錬的かつ、

真剣なる波取りが繰り広げられていた。

しばし見とれ、視界を広げて辺りをよく見ると、

その道場付近のピークから100m横が無人だった。

それは混んでいるところに勝るとも劣らないすばらしい波だ。

「まさか?」と思って波を見続けたが、

やはり完璧な斜面にしか見えなかった。

「とにかく無人だし、絶対に良い波だ」と、

その友人とパドルアウトしたら、

やはりすばらしい波で、

ここがなぜ無人なのかをずっと考えていた。

話は変わって、

「ハワイのパイプラインって、腰胸サイズの日はあるの?」

と先輩(D先輩ではない)に聞かれた。

「それは間違いなくありますが…」と答えると、

「それならそのときに入ってみたいんだよ」と言う。

でもどうしてパイプラインなんですかと聞くと、

「一度入ってみたかったが、大きいのは無理だから」

と言うので、

「ある程度のサイズと、きちんとしたうねりの向きでないと、

パイプラインではないような気がしますけど」

と返すと、

「とにかく入ってみたいんだ」と先輩は小さくつぶやいた。

彼と別れた後、

“ブランド波“という言葉を思いついた。

波もブランディングされる時代となったのだろうか。

「サーフ波ブランディングは、

精神的な構造を創り出すこと、

サーファーが意思決定を単純化できるように、

波質と状態についての知識を提供すること」

と定義してみると、

「多くの人がブランド波に惑わされているのだ」

と説明がついた。

携帯の波情報を見ていると、

やはりブランド波の評価は高く、しかもいつも混雑している。

「空いていて、すばらしい波がブレイクしているあのブレイク」

その携帯波情報には取り上げられていない場所。

そんなことを知っている、

または知るのも豊かな波乗り人のエッセンスなんだ。

そらを見上げると、

名もなき雲と、まぶしい太陽が出ていた。

(了、2011/6/18)