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naki's blog

無事にLAXまで到着しました!_夢は見たか(BLUE誌巻頭コラム・バックナンバーより)_(2000文字)

 

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先ほど、

LAX(ロスアンジェルス国際空港)に到着しました。

これからKaiくんのお迎えを待って、

サンクレメンテに向かいます。

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西北西うねりが入ってきているとあって、

こんな波はあるのだろうか?

今日はこんな移動日なので、

少し前にBlue誌に書いたコラム

『夢は見たか』をここに掲載します。

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夢は見たか

 

スパークリングワインが好きだ。

ビールのようにグビーっと、直流でのどを通っていく感覚が好きなので、値の張らない辛口を最高峰としている。こちらの名店トレーダージョーズでは、ボトル5ドル台のスパークリングワインがあり、銘柄的にはこれが一番好きなのであります。

縁があれば、ものすごく上等なものを味わうことになる。開栓するだけで、蜜たっぷりの白い花のような香りがし「ううむ、こんな世界もあったのか」とうっとりしてしまう。シャンパングラスの中に注ぐと、琥珀が溶けるようにクリスタルアンバー色となり、液体の中から1列で立ち上がる細かな気泡群が虹色をまとい、セクシーでたまらない。そしてそれを口に入れると、センセーショナルな瞬間となる。舌に巻きつけるようにして味わい、喉を通り抜けていく宝石。これでは酔いかたも崇高になる。酒飲みの楽しき瞬間である。

さて、波乗りの話。

“波に乗る”ということが私の人生だと気づいた。より良いコンディションで波に乗りたいので、さまざまなことに気を払っている。

そうやって生きていくと、波に乗るだけではなく、乗るまでの過程も含めて好きだということがわかった。ひとたび波に乗ろうと決めたら「波情報を見る」「念のためローカル気象情報も見る」「サーフボードを車に入れる(または屋根に積む)」「ウエットを入れつつタオルとワックス日焼け止め飲み水を確認する」「海は冷えるのでジャケットも入れ」出発し、次に「乗る波のための音楽を聴きつつ信号待ちでは肩と首をほぐす」「腰を伸ばし胸を開き」つつ海に接近し、自身を”サーフィングモード”としていく。到着後は全身全霊で正確に安全に駐車し、人生で一番良い姿勢で歩きつつ、波が見えるところまで行く。

今日の波をスパークリングワインに例えるとどんなものになるのか?カヴァ、スプマンテ、シャンパン、クレマン、ムスー…というように、波にも産地、乗る地域と場所、季節、そして波の形と大きさを見極めつつ、次々と水平線に現れるうねりを選び抜いている。波乗りでも格式とかドレスコードとかを気にせず、肩肘が張らない弱波のブレイクで、グビーという感じに気楽に乗っている日々。

サーフィングは自身の表現だ。私は品格と悦楽を重んじる横山泰介さんや抱井保徳さんが邦乗では一番好きで、洋乗では、トム・カレン派に陶酔していたが、時を経てドノヴァン・フランケンレイターのユルさとスタイルが好きになり、そこからの潮流でオルタナ界に参入し、まずはクリスチャン・ワックの門人となり、そこからの流れで全サイズのサーフボードに乗れるタイラー・ウオーレンを知り、そして奇天烈さを内包したアレックス・ノストを崇拝し、さらには技術を超越した思想のジャスティン・アダムスを賛美している。オルタナ界にはさまざまな門派、流、道があるが、彼らは間違いなくそれぞれの上級師範たちだ。

特に抱井さんは「誰も乗れないような奇波、または小波」にも30年も前から真剣に取り組まれていて、さらにそれをウインドサーファー艇だとか、まな板みたいなもので乗るという念の入れようなので、鮮烈な記憶を見たものに残し、私の波乗り思想形成期に大きな影響を与えた。

良い日も悪い日も継続的に海に行っていると、いつの日か上等な波が目の前に現れる。波情報を見てドキリとし、次に懐疑的に眉をひそめつつ『見るまでは、乗るまでは信じまい』と気持ちを落ち着かせる。海が見えて来た。遠くに見える水平線を持ち上げるようにセットの筋が入り、岸近くまでやって来た幾数もの波は、美しく伸びるようにその斜面を持ち上げ、やがてギラリと光の反射の残像を残しながら弾けていく。こうして極上の波はいつも突然やってくる。

『トップボトム』という表現があるが、それは波の先とボトム、つまり海面が直接当たる波のことを言う。トップボトムとなるピークがそばにやってきて、それに合わせてパドリングを開始し、弧を描くように飛翔する。こんな波にめぐりあうには、地形、気象、自身のコンディション、サーフボード等々、全てのことが揃って実現する。ということは、波乗りにかける想いと、夢と、運が一体となって現れるトリニティ。

それぞれの夢を抱きながら自身を高めていくサーフィング。極上波の夢を見続けよう。(了)

初出自 Blue2015 7月号


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