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Blue誌巻頭コラム『アルペジオ (伊: Arpeggio)』2017年11月号掲載作品_(1888文字)

   アルペジオ (伊: Arpeggio)

 

ロックが好きだ——私の年代のロック好きは、FMラジオによる影響であると思える。エアチェックして、カセットテープに録音して聴いたローリング・ストーンズ、キッス、イーグルス、レッド・ツェッペリンにピンク・フロイド等々。それから40年経った今も同じ曲群を聴いている。

気温が30度を軽く超えた真夏日となった。5ft@17seconds(206°)という歓喜に近いブイ数値の南南西うねり、終日無風コンディション。セットが来ると、軽くオーバーヘッドが5本は続き、稀な巨大セットの最大サイズは、ダブルオーバーヘッドはあった。波予想がされていた週末だったので、大混雑しているであろうと、出発をあえて遅らせて、人の少ないブレイクに到着したのが午後2時。付近にいるサーファーは好きな波に乗りたいだけ乗ったようで、駐車場は満足にあふれていた。

この駐車場は最近作られたものだ。なんでも最近の高潮傾向で道路が水没したので、そこに天然石を土手状に盛って通路を確保し、残った余白を駐車場としていた。この目の前が5つのピークから構成されるレフトオンリーのブレイクで、その日の混雑状況にもよるが、今回の南南西うねりは、最後から2つ目のピークが良かった。ショルダーはまるで三角定規の長い辺のように斜めに下がり、カリフォルニアの沖に沈んでいく太陽の眩々をそこに散りばめていた。汗をしたたり落としながらサーフボードにフィンを付けていく。フィンの表面積について気にするようになった。抵抗があるのがいいのか、それとも小さくすればいいのか、または…。フィンレスサーフをしてからというもの、そんな選択肢が出現した。小さなフィンを引っかけ、体を使ってストールやリカバリーができるので、サーフィングはより体術に近くなってきた。ワックスを塗っていると、『天国への階段』が流れてきた。

ロバート・プラントが「”音楽”こそが、万物を黄金に変える力を持つ」としめくくったので、私なら「”波乗り”こそが、万物を黄金に変える力を持つ」と歌うことだろう、と夢想しながらパドルアウトすると、海面から見るうねり群は、キラキラと反射する煌めきの明滅量によって、やってくるうねりの大きさがわかる。あまりにもまぶしいので、手のひらでその太陽からの反射を遮りながらうねりがやってくるのを見ていた。その明滅が突然、数秒間も失われた。大きなうねりがやってきた。

大うねりを見て、すぐにショルダー側に動き始めたのは上流に行くためだった。”あらかじめ流れに逆らっておけば、突然波がシフトしたときに下流に素早く動ける”そんな鉄則を守っていた。左の肩越しにうねりの方向を注視し、深く、強くパドリングしていく。手前の波を越えると、『きらびやかな波』が見えた。広い裾野の向こうにふっくらとふくらみ、長い壁を正確にショルダー側に落としている。偉大なる輝くピークがまさしく自分に向かって動いてきた瞬間、興奮しすぎて震えた。息をひそめながら近づいてくる『波』との距離を測り、近づいてきたところで大きく息を吸い込んで、そしてどこまでも吐いた。光の中にあるような波壁を背中にし、波芯が自分のテイルと合致した瞬間に全力の、最大トルクのパドリングをし、波底に向けてボードを滑らせていく。瞬時にノーズが下がり、ボードに飛び乗り、レイルを掴む。世界は一瞬止まり、波先と自分が、弾けるように飛んだことがわかった。振り落とされるのをグラブしたレイルを押しつけて耐える。波先は、泡にならず独立すると”リップ”という呼び方に変わる。リップが遠くまで飛んだ。内側に入ると、グリーンゴールドの丸い水の筒となった。内壁にレイルと、左肩を使って張り付けていく。加重を弱めると加速し、押しつけると減速する。波壁への上下移動も兼ねていて、加速は下方へ、減速は上部にと高さの修正でもある。遠くまで伸びた壁は、リーフが切り替わり、筒が狭くなってきたのでトリムラインを上部にするべく、レイル加重を強めた。

「ブワッ」という破裂音と共に波の外に出てきた。セクションの距離が短くなったようなので、右側のレイルに切り替えて、自分がいままで入っていた泡の切れ間まで戻り、左側のレイルに切り替えると、壁がたっぷりと、ふくよかに立ち上がっていた。最大速度になるように、波の壁にまた張り付くと、波先はゆっくりと、丸く飛んでいき、再度の波筒となった。レイルだけでいつまでも滑らせていく。最後は砂色をまとった出口から吐きだされると、世界は黄金色に変わっていた。■了、2017/10/26