Amamian Padang Padang
アマミアン・パダンパダン
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ものすごい風だった。
そして「猛烈な」という形容動詞が正しいのか、
天にある湖をひっくり返したような雨が西側全てを吹き付けていた。
Amamian Backdoor
アマミアン・バックドア
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時計を見ると、午前2時。
風と共に建物は揺れ、
「車高が高い車などは倒れるかもしれない」
そう感じられるほどの嵐だった。
野宿でないことを感謝した。
大きな低気圧だったのか。
天気図を見てみると、
高気圧に押し出される形で寒冷前線が真上を通っていた。
夜明け前に突然風が止んだので波を見に行くと、
いまだにオンショアは強かった。
その深夜に激烈に吹いたであろうオンショアの名残が、
うねりや盛り上がりとなって、
170cm程度の満潮を揺らしていた。
リーフがあるところはもちろん、
もしかしたらチャンネルの深いところでもうねりが合わされば崩れていく。
オーバーヘッド程度であろうか。
強烈なエネルギーだ。
太古から変わらない荒れた海。
VB, Amami
VB奄美大島
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オンショアが突然向きを変え、サイドとなった。
名瀬の方から吹いてくる西風だった。
「お、風が変わったよ」
一緒に波を見に来たきんちゃんは、
波乗りがしたくて、
一刻でも早くしたくて、
私が前向きになる材料を探しているようだった。
「お昼頃オフショアになります」
「おお、やっぱり!低気圧が抜けていったから?」
「そうです。低気圧を押し出した高気圧もいい位置にいるので、
お昼くらいにはオフショアになりますよ」
「ほんとだ、オフショアになったよ!すごい」
「本当ですね。けど思ったより早いな」
「あ、けどまたオンショアだね」
「風が廻っていますね」
Amamian Pipeline
アマミアン・パイプライン
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「でもさ、なんで風って回るの?」
「低気圧とは言っても結局は地球の上じゃないですか」
「そりゃそうだ」
「それと低気圧の風の動きを立体で考えたことはありますか?」
「いや、ない」
「低気圧は上昇気流です」
「それは知っている」
「低気圧や台風は、大気が真上に向かっていくわけではないんですよ」
「大気というのは風のことだね」
「そうです。低気圧は左周りで風を吹き込み、
らせん状に、これも左周りで空に昇っていきます」
「そうなんだね」
「それが大量に速く動いたのが昨夜の猛風です」
「そうか、あれが南向きだったのは、
まっすぐ横ではなくて、左周りからの南だったのか」
「そうです。だから南から西に向くというのは?」
「逆だ。うーん、わからない。何で逆なの?」
「低気圧の逆は高気圧です」
「おうよ」
「その高気圧の風を自分たちは今受けています」
「へー不思議、なんでわかるの?」
「この晴れていく天気と、天気図です(笑)」
「でもさ、それが自然の摂理なわけでしょ」
「そうです。誰も変えられません」
「そして西になっているのは、右回りだもんね」
「それが北、オフショアに向いていくのがお昼頃と予想しました」
「むう」
「さらに」
「さらに?」
「グッドニュースとしては、この風は弱まると」
「なぜ弱まるのかというと、この左周りの低気圧が離れていくからだね」
「ご明解です。
しかも西に高気圧を携えての状態での通過ですから読みやすいです」
「でもさ、なんでその高気圧が関係あるわけ?」
「低気圧は右回り(反時計回り)に空に昇っていく大気です」
「そうか。風の仕組みを知らなかったな。
サラリーマンは何も知らないって気づかされたよ」
「高気圧は反対回りです」
「というと?」
「大気だったり、低気圧が集めた風を地表だったり、
海面に右回りに振り落とすように送り込みます」
「そうだったのか!」
「お、タキビシの決めセリフ知っていますね。さすがです」
「いや〜。へへ」
「その風は低気圧と反対で左周り、時計回りです」
「ん?すると、この南、西と回っているのは、
高気圧の風ということになるね」
「そうです。低気圧が、右回りの猛風を吹かせました」
「はいはい」
「それはこの沖合いを右投手のサイドスロー投法のように、
またはムチのように螺旋状にあの爆風を吹かせました」
「それと、この高気圧からの風が抑えると」
「これが自然の摂理です」
「違うパターンもあるわけだね」
「千差万別です」
「そっか、だから波が出るという予想でも波が出ないのは、
沖で吹く風が予想通りにならなかったということか」
「パーフェクトです。お昼前からコンディションが良くなりますよ」
「お〜!」
「この風の塊が右回りで周りながら時速35kmで動いています。
お昼には北まで回るでしょう」
「すごい世界だ。でもそれが現実なんだよな。
でもさ、何で35キロってわかるんだい?」
「朝の天気図に進行速度があったので、そこからです」
「へー、天気図はすごいなぁ。
サラリーマンはそんなことも知らないんだよな」
「俺さ、風に興味を持ったんだけど、
風向きを知る方法って他にどんなのがあるの?」
「うーん。その時その時なので、
予測できずに後から読み解く方が多いです」
「それでもいいよ。知りたいな」
「ではひとつだけ」
「はいよ!待ってました」
「今お話したのが、
気圧の高いほうから低いほうに向かって大気を動かすことですね」
「はいはい」
「これを気圧傾度力と言います」
「へー、名前があるんだ。知らなかった」
「大丈夫です。普通の人は知らないです」
「コリオリの力というのは習いましたか?」
「そんなのあったね。なんだっけ?」
「コリオリの力は地球の自転の力です。ここは北半球なので右向きです」
「水が流れていくときの水流のことだね」
「そうです」
「それがなんで風に関係しているの」
「風が止まったことを感じることありますよね」
「もちろん、無風大好きだよ」
「コリオリは、先ほどお話した気圧傾度から吹く風を止めてしまいます」
「え、自転の力で風を止めちゃうの?」
「はい、これを地衡風(ちこうふう、Geostrophic wind)と言います」
「へー。あの無風のときは地衡風だったんだね。
すごく勉強になるね。定年前のサラリーマンには必携だね」
「ただ、このコリオリの力程度の気圧傾度風でないと成り立ちません」
「わかるよ。シーソーみたいに力の釣り合いが取れていないといけないんだね」
「そうです」
「それにしても奄美の海は壮大だね〜!」
「神話以前、ジュラ紀から続く隆起にぼくたちは今立っています」
「あの波もジュラ紀からこうだったのかな」
「その可能性は高いですよね」
「暑かったのかな」
「ジュラ紀は湿度が高く、雨もすごく、暑かったようです」
「壮大だな〜。だってさ、俺たちは波乗りをしていて、風に興味を持って、
それから1億5000万年前まで遡った話をしているんだぜ」
「そうですね」
「奄美は壮大だ。じゃないとこんな気持ちにならないもんな」
「本当ですね」
「こんなことは絶対サラリーマンをしていたら感じないもんね」
Happy Surfing!!
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