波が樹木よりも高く立ちのぼって、
はげしく海面に叩きつけているとする。
そのことを、
自分が持つ感覚や、
あるいは、
画像や映像でその高さを知ることを一般的理解であるとすれば、
私は、
多くのサーファーと同様にだいたいがそのほうにむいている。
The Boss on
7’2″ Pintail by Don Johnston
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だが、
ドラグラの考えはまったく異なっている。
サーフィンとは、
認識や知覚をとびこえて、
波そのものになることであり、
さらにドラグラにあっては、
波そのものですら、
神や法王の普遍的原理の胎内に入り、
原理そのものになることを目的としている。
Tim at First Peak
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ティムさんは、
ずいぶんと昔に日本に移住してきて、
教育者として生計を立てて今に至っていると伝え聞いた。
彼の卓越したサーフ力と、
この土佐の波が見事にマッチした一例だろう。
ティムさんは、
波が強くなればなるほど、
そしてうねりが大きくなればなるほど、
光り輝くオーラをまとうサーファーとなる。
Catch Surf® Skipper Fish 6’0″
Tyler Stanaland model
Mega Quad Fins
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今回のSR三部作、
最終回においては、
「SR5000波の忘れられない1本」
でまとめてみる。
ティムさんがいて、
波待ちをしているとき、
「社長さん♪」
の唄を作詞しつつ、
雲の形を眺めていると、
この波がやってきた。
見た目はふくらみきって、
土佐料理で言うのなら、
まるまる太った、
メジカのシンコのようにムッチムチだった。
テイクオフ、
自身のコンディション、
全てが上手くいっていた。
思い通りの世界だった。
セカンド・セクションのボウルは、
一瞬まるでフィジーにいるかのような感覚に陥っていた。
しかし、
ボトムが激しく泡を吹き出してきた。
これは浅い岩群が海面下にあり、
波が、
その起伏に反応しているのだった。
こんな感じの海底隆起であり、
この急浅によって、
このセクションの下に潜んだ怪物が、
その片鱗というか、
正体のかけらを表した。
だが私は、
高速で滑っている最中であり、
斜面がこんなことになると困るのだが、
波とはそういうものでもある。
予測通りになるときもあるし、
このように全く予想もつかないこともある。
写真には写っていないが、
私側——ボイル(泡)の手前に——
ボール状の茶色の岩が直径2mくらいであり、
その横に黒岩の突起が見えた。
この視界が、
あまりにもおぞましいので、
理想ラインはとっくに捨てていた。
とにかく岩に当たらないように、
突っ込まないようにハイラインに持っていった。
すると、
ボイルも大したものなので、
「そうはさせないよ〜!いただきます!」
「かんたんです!」
怪物はジローくんのような文体で、
波の底からナイフとフォークを両手に掲げ、
落ちてくる私を待ち構えているのだろうか。
ワナだったのか!
疑心暗鬼になるなか、
こんな怪物に食べられたらどうなるのだろう。
まずは岩で頭を砕かれ、
それから…。
————
Yakushima 2016
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ネガティブ思考は止めた。
目下おかれている状況を的確に判断し、
やはりどう考えても上へ行くのが適切だとわかった。
さらにはこのまま進行方向に加速し、
この岩群から
「サヨナラ・バイヨン」と、
細野晴臣さんの歌詞のようにしなくてはならない。
怪物の武器ボイルも
「私を逃すまい」
とばかりに持ち上げた。
突然斜面が屋根のようになり、
波の中の波に私は持ち上げられていった。
けれど、
岩に気が取られたのが38%、
ボイルに押し上げられたのがこれも38%、
その他のたくさんの理由がいろいろ細々とあったのだろう。
ラインを上げすぎてしまっていた。
そういえば、
このあいだムカデを殺した罰かもしれない。
こうなったらフローターだ。
そのラインに持っていって、
この絶体絶命を乗り切ろうと決断した。
かんたんでした!
だが、
ここはリップ(波先)の上で、
その厚さだけでも2mはあり、
このユラユラとしながら奇っ怪に、
恐ろしく崩れた怪物波だ。
高い位置から見る海面は、
岩の茶色と黒色の影が、
「死の宣告」
みたいなものをこちらに伝えていた。
ただ、青と緑色もあちらにあり、
きっとこれがまだ生きていられる未来を表現していた。
ならば、
キャッチサーフをジャンプ台にして、
その海色だけを目がけて飛び込んだ。
あきらめるのは好きではないので、
あまり飛び込んだことはないのだが、
これはやるだけやった結果であり、
仕方がない。
「これでいいのだ」
バカボンパパの気持ちとなった。
思った位置に着水でき、
伸ばした腕の角度を使って、
イルカのように波の裏側に出ることができた。
その間、
じつに5秒程度だろうか。
奇跡である。
これは普段から率先して遊んでいるボディサーフのおかげであり、
波をメイクすることはできなかったけど、
この怪物から逃れられることができて、
うまくいった気がして笑いが止まらなかった。
画像をよく見ると、
あの押し上げられる波の下に行けばメイクできたはずで、
もし同じようなことがあるのならそうしてみたいと感じた。
(理想ラインをレッドラインで示しました)
サーフィンはやはり面白い。
前出の細野晴臣さんではないが、
「この次はモアベターよ!」
(細野さんのトロピカル三部作、
最終アルバムである「はらいそ」より)
そんなアウトロが頭から離れない。
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【三部作前編】
【巻末リンク*2:長安での空海】
Happy Surfing and Happy Summer!!
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