土佐民話
第三話 宙君と狸男
さく:ドラグラ広報部
土佐弁監修&編集:ベンチュラ・セイジ
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平成から令和の頃のようじゃが、
宙(そら)というまじめな男がおったと。
楽しみといえば波に乗ることだけ。
ところが、
愛車に極上添加剤を入れたのにもかかわらず、
燃費が極端に悪くなっておった。
宙はこれを不思議に思い、
気をつけていたら、
狸男が忍び込んで来て、
愛車から油を盗んでおった。
腹が立った宙は、
狸男の住むところを見つけ、
青松葉でいぶし出して生け捕ろうとしたのだが、
取り逃がしてしまった。
それから極端に敵対意識が強くなった狸男は、
宙の鉄工所を荒らしたりするようになった。
ところで、
宙は酒がこじゃんと飲めるので、
飲講とかに入って月に一回ぐらいは宴会に行ったらしい。
いつも帰りは夜半だから、
宙を化かしてこらしめてやろうと、
狸男は夕方前から鳥心の角で待っていた。
ところがその日は、
宙が早目に引き上げてきたので、
まだ陽が高く、
化かすには都合が悪い。
それでも何とか化かして懲らしめてやろうと、
木の葉をつばで頭や体に着け始めたと。
しかし、
宙は嗅覚に優れていて、
先に狸男の臭いがすると気がついた。
ふと見ると、
狸男がチキンナンバン定食に化けている様子だった。
そこで、
宙は大声で、
「こらっタヌキ、
おのれはこの俺を化かすつもりか、
そうはいかんぞ。
今度は俺が鍛接(たんせつ)するにゃぁ」
と怒鳴ったと。
驚いた狸男は、
ホウホウのていで青軽虎で逃げたと。
その夜、
狸男は、
「これはいかん。
宙ににらまれたら我は鉄骨に溶接されてしまうぞ。
もともとはいたずらから始まったことで、
こちらが悪い。何とかして詫びねばならん」
と決めたそうな。
それから一か月ぐらいして、
宙はまた飲講に出かけたと。
帰りは深夜となり、
一歩は高く、
一歩は低く、
あちらへフラフラ、
こちらへフラフラ、
やっと餃子の王将から左廻りで南川添の集落、
しばらく行って吉野家の横の川に転落したと。
運の悪いことに、
落ちた所に大石があって、
背中を強く打って意識不明になってしまった。
どれくらい時間が経ったか、
気がついてみると、
狸の臭いがいっぱいだった。
なんと狸男が宙の胸をなでて介抱していたのだ。
自分の頭には水を包んだ生姜の葉が乗せてある。
「おお、お前が俺を介抱してくれたのか。
お陰で助かった。どうもすまんのう」
と起きあがった宙君は、
「明日の午後に遊びに来い。お礼をさせてください」
と約束したそうな。
あくる日、
狸男がこわごわ行ってみると、
宙が鉄工所の入口からしょうじ入れ、
戻り鰹を山盛りご馳走してくれたと。
宙と狸男は仲良くなって、
狸男はスケボーなどして賑やかであったと。
それから数年後、
新しい人生となった鉄工所は大成功して、
やがてランボルギーニ・ウルスSを買うころになると、
この狸男がやって来て、
「ツインターボいいね。666馬力って本当?」
そんなことを言いながら金の無心をしたと。
宙は、
この成功のご恩も狸男にあるので、
最初は良くしていたのだが、
どんどんとエスカレートして、
ぜいたくざんまいになったと。
例えば、
狸男ご要望のイタリアンに連れて行くと、
飲めない酒まで注文する始末。
だんだん腹が立ってきた宙は一計を案じた。
宙は家のそばのお地蔵さまへ、
「空海さまへ」
と刺繍した赤い帽子とお饅頭をお供えしたのだ。
ただ、
その空海印の赤い帽子には、
特別な仕掛けがしてあったとさ。
少しして、
お腹を空かせた狸男が、
お饅頭の匂いに釣られて、
お地蔵さまのところに来た。
饅頭をぽんとほうばると、
その赤い帽子に目が行った。
狸男は、
そろそろ寒くなって来たことを思い出し、
その帽子を盗んで、
代わりに葉っぱを載せて帰った。
早速海に行くとええ波が割れよる。
急いで着替えて、
野市の交換市で見つけたボルト印のピンテイルを抱え、
赤い空海帽を誇らしそうに海に飛び込んだ。
だが、
なにか様子がおかしい。
じまんの帽子が、
キリキリとしまって来て、
抜けなくなり頭から取れなくなった。
さらにそれが締まり続け、
しまいには、
頭が割れるように痛んで、
波乗りどころではなくなり、
ただひたすら来る波々に巻かれて打ち上がってしまった。
ほうほうの体となったがしばらくすると、
帽子が乾いてくるにつれ痛みは和らいでいく。
だが、
きつく食い込んで取ることはできなくなっておったと。
これは発明家の宙が、
『海水に反応すると強く締まる針金』
を仕込んでいた帽子だからだ。
それから当分のあいだ、
赤い帽子をかぶった狸男は海に入れなくなったとさ。
むかしまっこうたぬまっこう。
おわり
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【土佐民話第一話:法王が主人公】
【土佐民話第二話:お遍路さんストーリー】
Happy New Year and Happy Surfing!!
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