こんにちは、
こちらはこの冬初めての雨。
なので、アクティブなことはできないので、
以前Blue誌に書いた文章をここにポストします。
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遅速のススメ:宇宙とつながった滑揺(かつよう)
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“執着”という言葉を見つけた。
調べてみると「事や物に固執し、とらわれること」とあった。
さて。
いい波に乗って水平線を眺めていたとき、
サーファーにとっての“執着”とはなんだろうかと考えていた。
このセットに、しかも1本目に乗らなくてはならない。
この波をこのボードで。
執着はそんなことからはじまり、
あのブレイクであるとか、
あのライト波。
さらにはそこでは正面の小屋と、
後の崖の茂みとが重なるピークで、
ちょうど頭くらいで、干潮いっぱいから少し満ち始めたとき、
はたまたフィンはこのように、
ワックスはボード全面にこれだけ塗って、
そう考えてみるだけで、
自分は執着だらけの波乗りをしていたことに気づいた。
だからといって、無心でサーフできるほど悟ってはいない。
波乗りということを深く考えるようになった。
すばらしいサーファーの生きざまに共感したり、
その世界に関わるもの全てが気になって掘り下げている。
そんな中で、
出会ったサーファーたちの影響でショートボードやミニボードのみならず、
フィッシュやミッドレングス、はたまたログボードに乗るようになった。
乗ってみて感じたことはそれぞれあるが、
なかでも一番ビビッドだったのがログボードだろう。
ログはその大きい浮力のため、
波が終わり、泡が消えつつあるさざ波まで乗っていけた。
ただ、そのさざ波、つまり海のしわに乗っていくためには、
ボードに抵抗をかけずに自分をも消して、
細心かつ途切れない集中力が要求される。
そのときに感じたのは、
遠くまで拡がる闇のような世界に小さく走る光線と、
無数の大きな光という宇宙空間だった。
波乗りをしていて宇宙を感じたことはあった。
それまではすさまじいほどの波に圧倒され、
自身として征服した瞬間に宇宙空間を感じたのだが、
今回は全く逆で、
静寂と遅速という素材で宇宙空間に行けた。
前出した「執着」ということを考えてみると、
ブレイクへの執着、ボードへの執着よりも、
食べもの、睡眠時間、道路や乗り換えのルート等々、
生活への執着に満たされていたことに気づいた。
自分は知らずにこんな制約を課していたのか、
と驚いたほどで、
それからは、
いかにこのとらわれから逃れられるのか、
そんなことばかり考えている。
そんな中、ログに乗る友人からのメールで、
「パドルアウトしただけで悪意を持って睨まれました」
とあった。
ここで彼が受けたのは、
ショートでなければいけないというのと、
地元民優先というふたつのことのダブル執着からの敵意だろう。
なぜショートでなくてはならないのか、
なぜログではいけないのか。
この思い込みはどこから来ているのだろうか、
波質なのか、または誰かからの刷り込みなのか。
海に魂を解き放つことができるサーファーたちよ、
どうして互いが集うブレイクでなぜ敵対する心を持つのだろうか。
しばし立ち止まって考えてみると、
これはきっとサーフブレイクへの所属権を所有すること(既得権)に価値を見いだし、
「自分(たち)の場所だ」と感じているのだろうか。
それでは尖閣諸島に対して領有権を主張する中国とあまり変わらないように思えてくる。
自由で穢れなきサーファーたちよ。
俺たちはこの世の執着から逃れたくて、
海の上を走る無垢な波に乗り、
いつかやってくる夢波のために生きている。
これからの真のサーファーたちは、
スーパークールに、颯爽と美しい波に乗ろう。
この世にばらまかれたあらゆる執着を解き放ち、
そしてこのすばらしいライフスタイルをいつも感じて、
いつまでも楽しめるサーフ時代の幕を開いていこう。
Blue誌
2014年8月号掲載
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Pirates Point, California
Tyler Warren’s Bonzer 6’11”
Photo by Brian Miller
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