こんにちは、
今日は題名通り、
昨日の続きからとなります。
前編はこちらです。
パドリングを開始すると、
波が、
ジェイミーに応じた。
波は意志を持たないので、
実際にはジェイミーが波に合わせたのだが、
そう思えてしまうほど、
波が、思うように同期した。
パイプラインの波を形成するリーフの基は溶岩流だ。
二つのパクレナ渓谷から挟まれるように出現した浅瀬、
60フィートの深さから一気にせり上がった崖状の海底。
それらラグーン、リーフの連なりがあり、
このパイプラインは、
世界の奇跡とされるノースショアで、
『最高峰の波質』という栄誉を受け続けている。
せり上がる浅瀬は、
波のエネルギーを増大させる。
発生からおよそ5千kmも深みを進んできたうねりが、
速度を緩めず深みから浅瀬に乗り上げる。
すると、
海面に水は集まり、
速度は増し、
切り立ちが頂点に達する。
達したら、
切っ先から倒れるように波が崩れる。
その起伏の高低差があるほど、
うねりの速度があればあるほど、
波先は分厚くなり、遠くに飛ぶ。
波先が飛べばチューブ、
またはバレルと呼ばれるものとなる。
広大な幅と、
丘のような高さのうねりが、
海中の、
崖上にあるラグーンにやって来る。
さらにエフカイ・チャンネルという深い溝がすぐ脇にある。
この総和として、
波は、
いったいどうなるのだろうか?
それがいま、
ジェイミーが相対しているものであり、
“土手状の海の盛り上がり”という塊であり、
妖物のような残忍さと、
海の猛りを同時に持ち合わせている妖獣だった。
冷静に言うのなら天変地異に近いものだ。
うねりの持つ膨大な資質と、
複合するうねりの均等関係、
それらの到達角度が重なり合ったものが、
いま、ここにある波だ。
波の、切っ先が揺れる。
重く、遠くに揺れた。
押してくる。
もっと押せ。
ジェイミーは、
波底に向けて、右腕を深く漕いだ。
左も強く入れた。
まだだ。
まだ下がらない。
もう一回。
あ、ノーズが落ちた。
よし、これでいい。
行くぞ。
分厚いリップが落ちてきた。
腕に全ての体重を乗せる。
胸を反らす。
頭を上げる。
落下が始まった。
体を起こしていく。
よし、いいぞ。
ボードが波から出てきた。
真っ逆さまに落ちていくのだが、
サーフボードのレイルとテイルが、
ある程度以上波に咬むと速度を失って、
止まる。
または後退する。
いわゆる「巻き上げられる」と言われるものだ。
ジェイミーの意識は、
壁の上部に持ち上げさせる感覚でレイルは入れていた。
そのまま均衡を保っていたかったのだが、
どうやっても落下が圧倒的に迫っていた。
さらに、
思っていたより早くリップが落ちてくると判断し、
ボトムターンを選択肢から外した。
レイル加重をより強めた。
前出したが、
斜面がある程度まで切り立つと、
レイルとテイルは、
落下と上昇の均衡を保つ道具となる。
ジェイミーは、
ほんの少しだけ自由落下するように調節して加重した。
鼓動するように壁の角度が上がり、
ある程度したところでフィンが抜けてテイルが滑りはじめた。
後ろをもっと踏んで、こうだ。
そして右腕を使って、
レイルを波の中に切れこませることで落下に耐えた。
左手も入れてしまえ、
これで食い付かなければ、
木の葉のように落ちていくだけだ。
もっと(波)減速しなかれば、
波面と自分を結ばないとならない。
落下しながらそのことだけを考えていた。
波はこのままかぶさってくる。
降りてしまえば、
バレルには入れない。
テイルをもっと踏んで、
レイルをノーズまで使って、
壁と接結を強めた。
6’6″のボードなので、
刃渡り2mのナイフとなったサーフボードを波に切れこませて、
落下しないように結んでいた。
だが、
あまりの傾斜(かべ)にレイルとフィンの面積、
そして左腕の抵抗では耐えられずボードが滑り始めた。
そのことに反応したジェイミーは、
その右腕にこめていた加重を解いた。
普通ならここでさらに加重させてしまうのだが、
この場合は滑らせたほうが良かった。
この切り立ち過ぎた箇所から降りたかった。
その代わり、
降りきったところで全加重させて失速させ、
波の中に巻き上げられるようにした。
アウトリガー・カヌーのように、
伸ばした腕をアマ(AMA)とし、
左半身とレイルを接点とし、
右腕で固めて、
ひとつの舟とする。
これはサーファーとサーフボードではなく、
人と板が合わさった速度を持つ浮力体だ。
止まれ、
止まったまま、この姿勢で浮き続けろ。
数トンもの波の斧、
巨大ギロチン状のリップが迫ってきた。
下に入る、
これを受けるということは、
硬いリーフとサンドイッチとなり、
死に関わる可能性が高い。
これがパイプラインの玄、
北東鬼門であり、
ここに神が棲みついているとされるゆえんである。
古(いにしえ)、
白明の時代から何人も犠牲になっている。
どんなサーファーであっても容赦はない。
グレートだろうと、
レジェンドだろうと、
誰であろうとも、
挑戦者の大切なものを奪うパイプラインの牙だ。
落下して、
海面と波の中間で、
レイルを海面に対して限界まで立てた。
腕も腰も、
接水できるところは全て使った。
自分が発した飛沫なのか、
波から飛んでくるものかはわからないが、
視界がなくなっていった。
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(明日の最終編に続きます)
Happy Surfing!!
◎