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naki's blog

【D・G・P】小説『ジェイミー・オブ・ライアン』のバレル_中編 2of3_(2133文字)

こんにちは、

今日は題名通り、

昨日の続きからとなります。

前編はこちらです。

【D・G・P】小説『ジェイミー・オブ・ライアン』のバレル_前編 1 of 3_(1558文字)

パドリングを開始すると、

波が、

ジェイミーに応じた。

波は意志を持たないので、

実際にはジェイミーが波に合わせたのだが、

そう思えてしまうほど、

波が、思うように同期した。

パイプラインの波を形成するリーフの基は溶岩流だ。

二つのパクレナ渓谷から挟まれるように出現した浅瀬、

60フィートの深さから一気にせり上がった崖状の海底。

それらラグーン、リーフの連なりがあり、

このパイプラインは、

世界の奇跡とされるノースショアで、

『最高峰の波質』という栄誉を受け続けている。

せり上がる浅瀬は、

波のエネルギーを増大させる。

発生からおよそ5千kmも深みを進んできたうねりが、

速度を緩めず深みから浅瀬に乗り上げる。

すると、

海面に水は集まり、

速度は増し、

切り立ちが頂点に達する。

達したら、

切っ先から倒れるように波が崩れる。

その起伏の高低差があるほど、

うねりの速度があればあるほど、

波先は分厚くなり、遠くに飛ぶ。

波先が飛べばチューブ、

またはバレルと呼ばれるものとなる。

Dream Barrel

広大な幅と、

丘のような高さのうねりが、

海中の、

崖上にあるラグーンにやって来る。

さらにエフカイ・チャンネルという深い溝がすぐ脇にある。

この総和として、

波は、

いったいどうなるのだろうか?

それがいま、

ジェイミーが相対しているものであり、

“土手状の海の盛り上がり”という塊であり、

妖物のような残忍さと、

海の猛りを同時に持ち合わせている妖獣だった。

冷静に言うのなら天変地異に近いものだ。

うねりの持つ膨大な資質と、

複合するうねりの均等関係、

それらの到達角度が重なり合ったものが、

いま、ここにある波だ。

波の、切っ先が揺れる。

重く、遠くに揺れた。

押してくる。

もっと押せ。

ジェイミーは、

波底に向けて、右腕を深く漕いだ。

左も強く入れた。

まだだ。

まだ下がらない。

もう一回。

あ、ノーズが落ちた。

よし、これでいい。

行くぞ。

分厚いリップが落ちてきた。

腕に全ての体重を乗せる。

胸を反らす。

頭を上げる。

落下が始まった。

体を起こしていく。

よし、いいぞ。

ボードが波から出てきた。

真っ逆さまに落ちていくのだが、

サーフボードのレイルとテイルが、

ある程度以上波に咬むと速度を失って、

止まる。

または後退する。

いわゆる「巻き上げられる」と言われるものだ。

ジェイミーの意識は、

壁の上部に持ち上げさせる感覚でレイルは入れていた。

そのまま均衡を保っていたかったのだが、

どうやっても落下が圧倒的に迫っていた。

さらに、

思っていたより早くリップが落ちてくると判断し、

ボトムターンを選択肢から外した。

レイル加重をより強めた。

前出したが、

斜面がある程度まで切り立つと、

レイルとテイルは、

落下と上昇の均衡を保つ道具となる。

ジェイミーは、

ほんの少しだけ自由落下するように調節して加重した。

鼓動するように壁の角度が上がり、

ある程度したところでフィンが抜けてテイルが滑りはじめた。

後ろをもっと踏んで、こうだ。

そして右腕を使って、

レイルを波の中に切れこませることで落下に耐えた。

左手も入れてしまえ、

これで食い付かなければ、

木の葉のように落ちていくだけだ。

もっと(波)減速しなかれば、

波面と自分を結ばないとならない。

落下しながらそのことだけを考えていた。

波はこのままかぶさってくる。

降りてしまえば、

バレルには入れない。

テイルをもっと踏んで、

レイルをノーズまで使って、

壁と接結を強めた。

6’6″のボードなので、

刃渡り2mのナイフとなったサーフボードを波に切れこませて、

落下しないように結んでいた。

だが、

あまりの傾斜(かべ)にレイルとフィンの面積、

そして左腕の抵抗では耐えられずボードが滑り始めた。

そのことに反応したジェイミーは、

その右腕にこめていた加重を解いた。

普通ならここでさらに加重させてしまうのだが、

この場合は滑らせたほうが良かった。

この切り立ち過ぎた箇所から降りたかった。

その代わり、

降りきったところで全加重させて失速させ、

波の中に巻き上げられるようにした。

アウトリガー・カヌーのように、

伸ばした腕をアマ(AMA)とし、

左半身とレイルを接点とし、

右腕で固めて、

ひとつの舟とする。

これはサーファーとサーフボードではなく、

人と板が合わさった速度を持つ浮力体だ。

止まれ、

止まったまま、この姿勢で浮き続けろ。

数トンもの波の斧、

巨大ギロチン状のリップが迫ってきた。

下に入る、

これを受けるということは、

硬いリーフとサンドイッチとなり、

死に関わる可能性が高い。

これがパイプラインの玄、

北東鬼門であり、

ここに神が棲みついているとされるゆえんである。

古(いにしえ)、

白明の時代から何人も犠牲になっている。

どんなサーファーであっても容赦はない。

グレートだろうと、

レジェンドだろうと、

誰であろうとも、

挑戦者の大切なものを奪うパイプラインの牙だ。

落下して、

海面と波の中間で、

レイルを海面に対して限界まで立てた。

腕も腰も、

接水できるところは全て使った。

自分が発した飛沫なのか、

波から飛んでくるものかはわからないが、

視界がなくなっていった。

(明日の最終編に続きます)

Happy Surfing!!