無人波。
激浅というか、
水深50cm程度なので、
巻かれると、
たいていは海底に叩きつけられる。
それを避けるためには、
ワイプアウトをしない
または転ぶときは、
石投げの要領で海面と平行に飛んでいる。
例によって、
『柔術鍛錬場』と勝手に名付けたが、
悪くはないネーミングだと自負している。
Bonzer 1973 / 6’5″ x 20-7/8” x 2-11/16”
.
漕ぎきった。
突然、
草野心平さんの
「ケルルン クック」
という言葉が浮かんだ。
なぜかはわからないが、
意識がどこかに飛ばされたのかもしれない。
記憶か。
テイクオフの動作というのは、
今まで何回やっただろうか。
10代のときは、
毎日畳の上でテイクオフの練習をし、
もちろん海の上でもした。
20代で床上の数を減らしたが、
今までずっとサーフィンを続けてきた。
計算してみると、
この動作を55万回も繰り返してきたとわかった。
もしかすると、
もっとかもしれない。
[計算]
38年=13870日
平均40本/日のテイクオフ動作。
(海の上で一日35回平均。そして陸トレの回数をプラス)
ボードを降ろしながら波側にタックインしたいのだが、
ご覧のように強力な向かい風により、
私は空に押し上げられている気分だった。
浮かび上がる自分を押さえつけるように、
進行方向の肩を落とした。
ややあって降下が開始された。
よし。
やっと落ちた。
すぐに張り付きたい(ストール)のだが、
このベロン(リップ、波先が独立する箇所)でストールすると、
私は波の先端となり、
海面に叩きつけられるだろう。
中腹まで降りてからタックル(ストール)しないと、
こういう波質の波はメイクできない。
よし落ちた。
ここだ。
左半身と腕を波に差し入れるが、
降下が遅かったので波が切り立ちすぎ、
自身の速度がありすぎて瞬時に弾かれてしまった。
反省としては、
もっとじんわりとタックルすれば良かったが、
もしかすると、
どちらにしても一瞬だけのワンチャンスだったのかもしれない。
!!
プランが変わってしまった。
というか絶体絶命だった。
まさにトム・クルーズ
(©ミッション・インポッシブル)気分なのはいつものこと。
サーフィンというのは、
ああいうリアル・ファンタジーまでも現実となる。
ラッキーなことに外側のレイルが効いていたので、
臨時というか避難処置として、
外レイルをひたすら掴んで波側に引き入れていた。
波壁に弾かれた際に体勢を崩したとき、
波側の手でボードをつかんでしまった。
ちょっとしたバッドニュースかもしれない。
これだと、
前加重なので速度は出るが、
もう少し速度が出たら、
フィンが抜け、
ボードが波から弾かれてしまう。
後ろ足体重に戻したいのだが、
これだけの慣性が付いてしまうとそれがむずかしい。
「落ちていく物体に乗っている」
そう考えていただけたらわかりやすいだろうか。
「とにかく後ろを踏め」
そんなことを自分に指令していた。
もっと踏まないと落とされてしまう。
波壁に張り付きたい。
少し改善してきたが、
このノーズに置いた左半身の腕が戻らない。
このままで行くのか。
ぐー。
もう最後のタイミングとなった。
バレルの距離も伸びていく。
こうなったら、
このまま行ってしまえと、
逆に手を使って加速した。
やった。
もしかすると!?
あれ!?
ザザ
またフィンが滑り始めた。
嗚呼…。
速度超過と、
前加重のバランスが悪かった。
それでもなんとかラインには乗せたが、
まだフィンの滑りは止まらない。
ラインを落としてしまった。
いわゆる「失速」である。
これではバレルはメイクできない。
さらにレイルを切り替え、
通常に戻すも、
浅いエリアに入り、
セクションがさらにさらにと、
遙かに延伸していった。
バレルは円運動なので、
その中心にいれば、
このままの状態であっても
ジャバジャボ程度の時間と圧で、
波からかんたんに浮かび上がってくる。
ということで、
そんな栄光を目指して
円運動の内部を滑走し続ける。
まだまだ走れる。
奇跡のような瞬間の連続のタイム。(イーチ大瀧さん)
あれだけ体勢を低くしていると、
この辺りの視界は、
収縮していく高速ボブスレーと例えてみた。
ついには、
遊園地の新アトラクション
『チューブライド』というのを思い付いた。
きっとこのあたりでは、
円運動の最後まで来られた。
ズババババゴボゴボ
泡上層をボンザーと共に浮かび上がった。
ジローくんなら
「かんたんでした!」と言うことだろう。
そうだ。
大切なことをここに。
この場合は、
自分のボードは蹴ったり離したりしてはならない。
離すと、
自分に跳ね返ってくる可能性が出てくるが、
このままボードを持っていれば、
波の裏に浮かび上がることができる。
偉大なる波の最後。
私は真っ白となった。
(©あしたのジョー)
ここは『柔術鍛錬場』、
ジュウジュツ・タンレンバであるので、
前加重というミスをしたが、
レイルワークという力業で波内部にとどまり、
この怖ろしい師範の投げを受けなかったことを自身で評価する。
よって、
この勝負「引き分け」
だと前向きに解釈した。(笑)
糸井重里さんではないが、
「前向きと寛容」
であります。
さようなら、
また乗る日まで。
こういう波に乗る機会はやたらと少ないから。
またいつかきっと。
Someday.
またこの波師範に挑みたい。
それまで稽古を積んで、
心身共に元気で過ごそう。
【お知らせ】
あと24時間となりましたが、
神格化記念です。
よろしければこの機会に。
[余談]
サバ手を科学したのは、
キャットフォード大学の高間教授だ。
教授はこのたび、
『かんたんシリーズ』
という天才を編み出している。
「すべてはジローくんのおかげです」
教授は、
そんなようなことをボソリと教えてくれた。
その研究結果を知りたい方は、
以下のリンクにお進みください。
Happy Surfing!!
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