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【サーフィン研究所・文学編】上弦の月

上弦の月

行(ぎょう)というのを調べていた。

修行、

修法のことだと書いてある。

これは仏教用語らしく、

カリタ(carita)だともあった。

ラテン語でカリタスというは、

「神の愛」だという。

この行が極まると、

己の放射が三世十方法界(宇宙のこと)へ届き、

それがあまねく反射されたのを受けると、

意識は水晶や満月のようになるという。

そんな観想感というか、

拡がりのことを考えていた。

「波が来る」

明日にかけて北東うねりが、

秒数を上げながら南に振れていくという情報を得た。

だが、

波がある確証は何もなかった。

夜明け前にかなり干き、

午後に向けてたっぷり満潮となる。

もしうねりが小さくとも大きなボードならば、

潮が動いたときにサーフできるだろうという楽観もあった。

夜明けまでには、

ずいぶんと時間があったが、

波を見に行った。

林の中は暗かった。

堤防に出ると、

そら(宇宙)は明るく、

月齢7日の、

上弦の月(waxing moon)が浮いていた。

大量の波が動いていた。

数日前に上空を東上した低気圧からのバック・スウェル(Back Swell)だ。

うねりは浅瀬まで来ると、

波となって跳ね、

その美しい鉛色のエッジを残像とし、

影のような暗がりに落ちていった。

この波は、

世界中のどことも似ていない。

属性は、

岬横の一方向に向いた奇妙なショア・ブレイクだろうか。

東向きが良く、

さらに書くと、

北東から南東へ振れていくものこそが良い。

サーフできるほどの波があるのは珍しいのだが、

今年に限って言えば、

何度もここでサーフしている。

やはり異常気象なのだろうか?

海底を見ると、

柱状の大きな岩盤が、

ナナメにいくつも折り重なっていて、

そのあいだにはギッシリとウニが詰まっている。

魚もたくさんいるし、

大きなカメも泳いでいる。

いつも同じ鳶(模様が違う)が飛んでいるのも神話みたいだ。

低気圧からの強いうねりは、

この神話地へ分厚い水の塊としてやってきて、

音もなく盛り上がり、

せりあがった切っ先を押し出し、

岩に叩きつける。

轟音と無音の音響効果に息を飲む。

知力と体力、

それら全てを使って乗る波を選びだし、

「怖れ」を見せないように、

全て隠しきって波に入り、

飛沫の向こう側まで、

半円となった斜面を滑り抜けた。

すると、

「波動や振動を感覚として解し、

こころに理を溶かすような自己混合」

のようなものを得たことが、

そら(宇宙)に放射され、

瞬時に光のようなものが戻ってきた。

宇宙的感覚のことを説明するのはむずかしい。

先に仏教用語だと書いたが、

空海関連の文献を読んでいるにすぎない。

これは宗教的な感覚ではなく、

「どんなきっかけで空海が覚醒したのか」とか、

「(室戸岬で)口の中に飛び込んできた明星とはどんなものだったのか」

ということを知りたいのだ。

そんな空海著書漬けのある日、

「即身」という言葉を見つけた。

『即身』とは、

宇宙の塵や星々、

この地球の、

自分の周りにあるあらゆるものとつながろうとする考え方のようだ。

すると、

前述した波から得た宇宙的な感覚も即身の一部だと気がついた。

文献をもっと読んでいくと、

密教では、

即身は普遍的原理のひとつだと言う。

この原理はすでに2世紀ごろから存在していて、

それを龍樹(龍猛)が金剛頂経に残したともあり、

このあたりは、

『旧約聖書』のバビロン伝説に通じる宇宙系のノン・フィクション感が背中を通り過ぎていく。

マヤ文明というのもあった。

「自己放射が、そら(宇宙)から往信されてくる」

波乗りはすごい。

そう喜びつつ、

さらに「即身」のことを調べていくと、

「すべての感覚、

考えること、

学んできたこと、

記憶、

遺伝子、

そんなこと全てを混ぜ合わせて、

自身が波と同体となり、

飛沫の一滴、

うねりとなることが即身」

だと断言していた。

さらには、

自身とそれらが一体となったものを宇宙に溶かすことでもあり、

自身とそれを溶かしたものをこの宇宙の、

原理の一部とさせることが即身なのだという。

その果てしなさにショックを受けつつ、

またこの世界に戻ってくると、

波は、

あの奇妙で偉大なるデザインのままだった。

そして自身は波の一部であり、

その飛沫なのだという気持ちで、

瞑想するようにテイクオフしていった。

(了、11/26/2020)

出自:BLUE誌巻頭コラム

ちなみに現在午前三時、

ブイは76.7cm/10.0秒。

南西うねりだという。

Have a Happy Surfing!!