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naki's blog

忘れられない波体験_(6588文字、中長編ブログです)

20100101_V5494

おはようございます。

[Buoy 51101/9ft@11sec./WNW]

とあるように1番ブイは、

9フィート@11秒、西北西とその数値を落としている。

だが、これは明日に届く巨大うねりの先端であると思うと、

緊張し、興奮して咳き込んでしまう。

当事者である俺たちはこうして大波を迎え、

そしてそれぞれの判断で沖に向かう。

そんな繰り返しで26年が経過した。

Surf will be 10 to 15 feet today.

現在、波はダブル程度まで上がっていて、

海軍が提供する自動更新の風情報では「120@07」。

これはサイドオフショア(東南東)7ノット、

つまり3-4mという風速。

だが、早朝から現場に行った長老フレちゃんは、

電話の向こうで

「おー、オンショア強しだな」と言っている。

「それではその風を数字にしてください」

というリクエストをすると、

「270@20といったところだ」

となった。

西風10mという吹きっぷりを聞き、

明日からの波のためにもノーサーフと決め、

オフィスに来て、写真編集等の業務をしていく。

メーラーを開くと、友人からのメールで、

「数字で方角を言われてもわからない」

と書いてあるので、

ここに表を作ってみました。

wind

これは世界各国共通なので、覚えておくといいでしょう。

つまりは「北風が360、東が90、南が180、西は270」

としたらバッチリです。

各針は「22.5度幅」であり、合計が360度なので、

方角というのは16方向だということがわかりました。

時計とは違い、

大きく分けても一時間よりも細かいのですね。

また勉強になり、

「鳥が180度の方向に飛んでいった」

と活用してみたが、あまりピンとこないなぁ。

.

さて、新年から2日間通った北海岸(ノースショア)シークレット。

2日が一番大きく、一番ブイ計測は17秒という怪物クラスだった。

“Buoy 51101 is reading 10feet@17seconds from the WNW”

その朝のシークレット。

NSA

岸から見える波はこんな感じで、

ブレイクまで遠い(300m位)ため波質はわからない。

だが、時折やってくるセットは大きく口を開き、

波の中から爆風がはき出されているのを見て、

ものすごくいい波だということはわかる。

もちろん無人で、誰も来ない超シークレットで、

この二日間は南西風、

または南から4-5ノット(約2m)

というパーフェクトオフショアコンディションだった。

少し高いところに登り、

望遠レンズで見ると、

そのファーストセクションはこんな美しいお姿だった。

見とれていると、ノースショアの番人リックがやってきて、

「オハヨウゴザイマス。ドーシテこの波を知っているのデスカ?」

(彼は日本語を話すのです)

と聞かれた。

それには答えないで「寒い寒い」と言うと、

「ここでこんなにいい波を初めて見た」

とあっけにとられている。

20100101_secret_V5543

ハワイアンサイズで4フィートくらいといったところだろうか。

あるいはもっと大きい?

最初は「フィッシュでパドルアウトする」

と言っていたリックはミニガンを選び、

俺に「お前がもしそのおかしな5’0″で乗るなら見てみたいところだ」

と皮肉たっぷりにあおってくる。

あおられても、あおられなくても俺はこのBD5と、

キャンバスのミニノーズライダー(6’0″)しかないので、

それには答えずにワックスアップをすると、

彼は薄笑いを浮かべていた。

いざいざとゲッティングアウトする。

深みを越え、ブレイクに近づくと浅瀬になっていて、

ドライリーフが広く、浅くてパドル不可能となっていた。

しかも歩いたら足がザクザクに切れそうなほど鋭いコーラルリーフだ。

満潮時でこれだから潮が少しでも下げてしまったら、

このトゲトゲリーフを歩くしかないのだろうか。

うねりによって、水深が10-20cm程度上下するので、

潮位の高いときをリーフの溝に沿って、海面パドルで前に漕ぐ。

ブレイクに近づくにつれ、波の全貌があきらかになってくる。

ライトオンリーで、見渡す限り壁が続き、

それは甘美というのか、

夢っぽいというのか、

自分の視界が信じられない。

「カメラがあったらなあ」

と思うが、

こんな超シークレットにカメラを持ってきたら騒ぎになってしまうのだろう。

テイクオフセクションは最初からバレルとなり、

どこから波に入っていけばいいのか。

セットの合間にするりと沖に出ると、

200kgはありそうな重量級ローカルが俺たちを待ち構えていた。

「誰にここを聞いて来たのか?」

と、

「ローカルオンリーだ」

と二言だけ言い、次に俺のBD5を見て、

「これで乗るのか?ブギーボードみたいだぞ!」

と少し好意的であったので、

すかさず自己紹介をすると、

「俺はロバートと言うんだ。まあこの波を乗れるのなら乗ってみろ」

ということになった。

セットは一本だけだったり、

4本、5本、たまに8本。

大きすぎるのも混ざってきて、

それは湾の奥の深いところまで一気にブレイクする。

セットが入ってきて、

沖に逃げたが、2本目でリップに引っかかってしまい、

そのまま後ろ向きに引きずられてしまった。

「そういえば、この後ろは激浅地区だ…」

と感じるのだが、ボードを離すと余計に危険そうなので、

レイルを握りしめたまま波の中をゴットゴトと巻かれていく。

浮き上がると、やはり浅いところまで来ていて、

沖にはさらなる大セットが。。

こういう時は何も考えずにウミガメのように浅く、

薄くパドルしながらリーフの切れ目まで波が来るまで最短距離で移動する。

前方10mの位置で激震しながらブレイクする波。

巨大な白泡がやってくる。

俺は、

モービーディックと対峙するエイハブ船長の気分になっていた。

MD

限りなく浅く潜り、リーフの上をすごい速度で引っ張られた。

もし足や手が当たれば、ザックリと切れてしまうほどの速さだった。

しかし、この高速移動が功を奏したようで、

リーフ激浅地区は越えてラグーンに出た。

しかも無傷で。

「へへー」

と、D先輩の口癖をしながら、

チャンネルに向かってパドルアウトすると、

ロバートが

「無傷か!お前はラッキーだ」

とその幸運を讃えられた。

本当にそう思う。

巻かれているとき、

もしテイルかレイルが海面を噛んでいたら今頃は血まみれだっただろう。

セットを待っている間、

素潜りしてピーク下の深さとリーフ形状をチェックしていた。

12フィート(約3.6m)はあり、

こんなに深いのにバレルになるのは、

沖からと、右横から徐々に浅くなっていくので、

それが集まるのか、

ドミノみたいにうねりを倒しながらブレイクするためなのかは不明だが、

とにかく美しい、長い斜面のバレル波なのだ。

次のセット波はワイド気味に入ってきて、

怖ろしげなピークが口を開けてこちらに向かって走ってきた。

ロバートが「GOナギー!!」

と大絶叫するので、

「よし、本気で行くぞ!」

と集中しきって、

波の位置を確認しながら

本気モードのパドル、

ぶれない姿勢、

斜面に対して少し斜めに

そして最後には

「すぐに立たないぞ」

と、(リップの上に乗らないように)

追加パドルを頭の中で復唱しながら波の中に潜りこんでいった。

一瞬で波が追いつき、

テイルが持ち上げられると同時に、

さらに前足でノーズ側を落としながら右側のレイルをひねるように波壁に向ける。

リップによる衝撃も、

波のコブによる挙動変化も何もなく、

波壁を滑り始めた。

次の瞬間には視界上部が円弧を描き、

俺に覆い被さってくる。

深いバレルとなった。

ひんやりした水に囲まれた世界を滑走していく。

そのままノーズを落としながらも、

今度は降りすぎないように、右手を波壁に突っ込み、

つま先側に体重を懸命にかけていく。

速度と斜面によって、レイルは入りづらいのだが、

後ろ足の親指部分にさらに力を入れ、

その場所よりも少し高く、

そして少し高くと位置を調整していく。

バレル内の位置はいつもケースバイケースで、

低すぎると波のトップに叩かれ、

あまり上げすぎても今度は巻き上げられてしまう。

以前フィジーの未踏島に波を探しに行き、

見つけたのはバレルオンリーの美しい波群。

バレルを抜けられないと、珊瑚礁に叩きつけられてしまうので、

絶対にメイクすべく、最高レベルまで集中させながら毎日サーフしていた。

晩は晩で、

トリー・バロンとバレル写真を見ながらイメージトレーニングをしていた。

文字通り朝から晩までバレル漬けの日々でした。

それからというものは、こんなバレル写真を見ると、

20091227_inaris_T4949

「どこを走れば脱出できるのか」

ということをテーマに凝視している。

そんなこんなで、

バレル内の位置修正に成功した俺は出口に向かってまっしぐらに進んでいた。

出られそうになると、さらに前方部分がバレルとなり、

さらにもう一回、とドラマがあり、

それは長い時間が経過し、

最後には小さく狭まった出口穴から

「バウツ!!」という霧状の視界と共に出てこられた。

沖からロバートの絶叫に近い声が聞こえる。

この時間は実際に文字にしたくらいの長さで、

「こんなに長いバレルはメンタワイのラグズライト以来だ」

と感動しながら、

飛び跳ねてしまいそうな余韻を燃料に静かに全力パドルでラインナップに戻ると、

目撃したリックが「長いバレルだ、3秒デシター!」

と言うので、

10秒は入っていたと思っていた俺は少しがっかりした。(笑)

ロバートも、

「深かったな!」と、自分のことのように大喜びしている。

そんな記憶に残るセッションだった。

いつまで経っても風も吹いてこないで、

また潮も一切変わらず、

リックは、

「満潮と干潮の差が0.1フィート(約3cm)しかない日なのでは?」

とうれしそうに推測していた。

待ち時間の長いセッションなので、

肩や腕は疲れてはいないのだが、

もう目が焼けてジリジリと痛くなってきた頃、

特大セットが入ってきた。

リックがピーク奥にいて、

俺とロバートが15mほどチャンネル寄りに位置していた。

一本目は全員スルーできたが、

2本目は俺とロバート位置でギリギリ逃げられるという状況だった。

ダックダイブする瞬間にリックの方を見ると、

すでに崩れてくるピークに向かい、

彼は静かに、そして深くダックダイブしていた。

そのまま彼は見えなくなり、

3、4本目と、

ロバートと俺でその猛獣たちから逃れ、

水平線が見え、安心しながらリックを見ると、

彼はすでに激浅リーフを越えてラグーン地域にいて浮いていた。

あのセットサイズだと、

もしかしたら一発であそこまで吹き飛ばされたのかもな、

と怖ろしいことを考えていた。

少し経ってもう一度リックを見ると、岸の方に向かってパドルしているので、

俺も上がろうと決意し、

ロバートに「どうやって上がるのが最善かな?」

と聞くと、

「最初はあの丘を目指して奥に行き、

レフト(グーフィー)波の長いのに乗って、行けるだけ走り、

浅瀬を越えたら電話電柱があるからそれに向かってパドルすればいい」

と簡潔、明瞭明確に教えてくれた。

次の波でそのようにして上がろうとするのだが、

レフトも同じように激掘れしていて、

「これは本当に乗れるのか?」

と訝(いぶか)しがってしまうほど、危険な斜面だった。

ならばさらにショルダー側にパドルし、

ロバートの言うようにレフトに乗れるだけ乗り、

最後に白波になったところで、

前方に幅20m、長さ10mほどの浅瀬が見えたので、

プルアウトするようにして白波の上に乗り上げ、

そのまま進むのだが、途中で失速してしまい、

浅瀬のど真ん中で立ち往生。

パドルの姿勢のまま、

フィンがゴトゴト音を立てている。

手をつくわけにも立ち上がるわけにもいかず、

そのまま次の波がくるのを待って、

白波が泡の上に来たところで、

ウミガメパドルを全力敢行し、

恐ろしい浅瀬を無事に脱出した。

簡単に書いたが、この脱出劇にはさまざまなドラマがあり、

これだけで一回分のブログが書けそうだが、

もう文字数もいっているので、先を急ぐ。

ラグーンをパドルしていくのだが、

日焼けで目が痛いので、

目を閉じたまぶた内の陽の位置を頼りに左右50回づつパドルし、

そして目を開けて方角修正をし、

また50回と進み、

それが8回を数えたころに岸に着いた。

「最高最高」

とつぶやくようにリーシュをボードを巻き、

車に戻ると、血だらけのリックを見た。

彼は「背中はドウデスカ、腰のココハ?」

と、自分では見ることのできないリーフの擦り傷を確認して欲しいと俺に言う。

両指(2カ所)、

手のひら、

肩、

背中、

腰、

もも

スネ、

そして足

足の裏

合計10カ所も切っていて、

特に足の裏の傷が深い。

そして『オキシドールセッション』となって、

「リーフの傷はハブラシで洗わなければダメなんデス」

と被虐的なことを言うリック。

なんだか「痛いけどうれしい」

というように見えるが、

きっとアドレナリンが出ていて、

痛覚の麻痺をしているのだろう。

傷口をきれいにして、消毒セッションも一段落した、

あの沖で喰らった一本で、

そのまま沖のリーフに沈み込められて、

叩き、こすりつけられたのだと言う。

3m以上も水深があるピーク。

彼をボードを持ったままここまで傷つける波の威力を思い知った。(怖)

リックは波乗りが大好きで、

限界を超えた三日月湾のアウトにひとり出て行くような伝説的なサーファーです。

彼の大波用ガンには、リーシュプラグがふたつ付けられていて、

「それは一個だと衝撃で抜けてしまうのデスネー」

と爆破体験に近いサーフ経験を通過してきた男である。

R0016465

ロバートも上がってきた。

消毒し終わって、傷口のために靴を履くリックをうれしそうに見ている。

R0016466

写真を撮っていると、

ロバートは「絶対に、誰にもこの場所は言うなよ。内緒だからな」

と言うので、

「俺のブログにグーグルマップのリンクを付けて紹介するよ。

きっと明日には100人以上訪れるから屋台でも出して楽しみにした方がいい」

と高度なジョークを飛ばすと、

「ワッハハー!」と笑い、

もう一回ボードを見せてくれ、

とBD5を眺めていた。

なんだかふつふつとうれしくなった俺はボードを浮かべて写真を撮った。

沖に見えるのは「その波」なのだが、

遠すぎて、なんだか小さく見える。

R0016457

ラグーンには釣り師が立ち、

楽園のように平和なのだが、

ひとたびリーフの沖に出ると、

警報が鳴るような波が襲ってくる。

R0016444

ちょうど月曜日になったので、

このすばらしいボードを作ってくれたコールに電話し、

彼の推奨するボンザーフィン位置を聞いたり、

ボードサイズによってのフィンの大きさ等々の話をし、

電話を切ったらちょうど11分11秒のゾロ目だった。

R0016438

こうしてボード写真を撮るほど愛おしいBD5。

BWTから始まったボンザーシステムの恩恵を享受している。

シングルフィン、

ツイン、

トライ、

クアッドと色々あるが、

このボンザーは粘りと安定感が魅力であります。

前にも書いたが、

このボンザーが主流になるとは思わないけど、

珍味とも違う。

うどんでいうところの

「カレーうどん」。

お酒だと、

「カクテル」。

お寿司だと、

「中トロ」

焼き肉だと

「ハラミ」だろうか。

さらに言いますと、

電車なら

「準急停車駅」といったところだろうか。

メインストリームでない「お味」をどうぞお楽しみくださいね。

シングルフィン位置を前後させたり、

フィンを交換したりと、

間違いなく愉しめるボードだと思う。

と、ここまで書き、気づいたのは長い極私的なブログだということ。

だが、自分のためにもこの波体験を記録しておこうと思い、

書いてみました。

2010年、こんなボードで

ノースハワイ・ノースショアの究極波を滑ることは想像していませんでしたが、

これからも自分では予想できないことが起きるのだろうな、

と感じています。

今日の標語は、

20100105b_NAKISURF「乗った波によろこぶ、という習慣」

としてみました。

波に乗って感動して、海に祈り、

そんなサーファーでありたいと思いました。

今日もNAKISURFにお越しいただき、

ありがとうございます。

今日の波には乗っていないのに、

乗ったとき以上に波のことを考えながら過ごしました。

初波にはもう乗られましたか?

または初海にもぜひ。

また明日ここで。

ALOHA!