一昨日、
私は波に相対(あいたい)してきて、
『魔獣』、『波獣』という言葉を使った。
波が下がってくると、
『奄美のすばらしい波』に変わった。
『獣=ケモノ』から『すばらしい』とまで評価が変わるのは珍しい。
例えば、
「巨大なイノシシが民家を襲った」
そう聞けば、
ケモノがすることだと畏怖し、
自分の場合ならどのように対処するのかをシミュレートするだろう。
宮崎駿さんなら「シシ神の仕業じゃ!」などと、
物語の前半あたりでヤマ場を作るだろう。
そんなどうにもならないケモノ=奄美の台風波だった。
NATION EAGLE 6’8″
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撮っていただいた画像を見ていたら、
私を襲うホワイトウォーターが竜頭群になっていた。
もし振り返っていたら、
海水に姿を変えた獰猛な竜たちがいたのだろう。
そういえば、崩れた瞬間の音もすごかった。
『轟音咆哮』
こんな小説が書きたくなった。
「珠丸」書き進めています。(業務報告)
NALU誌コラム脱稿。
今回は『環境』についての怪談を書きました。
10日発売ですので、
お楽しみにお待ちください!
さて、
なぜ私はこんな魔獣波に乗る顛末となったのか。
そんなことをここに書いてみます。
まずは前置きとして、
私たちーー熊ちゃんと私は沖のピークで波を待っていた。
状況はうねりが衰退しているのに加え、
潮止まりというダブルヒットで一切セットが入らなくなっていた。
英語で言うところのシャットダウン。
波のスイッチが切られてしまった状態だった。
けれど待つ。
水平線を見渡して、目を凝らして見ていく。
東側も南側も。
けれどうねりらしきものはない。
周りの風景を見る。
竜の形の雲は出ているかは自分の卦にとって重要なので、
雲が浮き出した竜の破片を探していく。
ある程度して、
セットは当分やって来ないことを確信した。
こういうときすることは自分の場所を求めること。
まずは陸側正面。
森の後ろに見える電波塔と、
その後ろの山の稜線を重ねてA点を作り、
B点は横側に。
堤防と標識、そして遠くの別荘をつないだ。
こうして自分の位置を作って、
そこから流されないようにしていく。
その間、熊ちゃんと去年の波、
伝説の年の魔獣波の回想を聞いていく。
少しすると、
かなり流されていることに気づいた。
で、先ほど設定した自分の地点、
A+Bの位置まで戻っていく。
およそパドル50回ほども流されていた。
すごいカレント(流れ)である。
それからも波のことを話しつつ、
沖への監視を行いながら、
ずっとパドリングで定位置をキープしていた。
「もう波高が下がってきている」
そんなうれしくない予感があった。
(実際の波高ピークは朝だった。この撮影は午後5時頃)
けれど波高というのは、
上下しながら小さくなっていくものなので、
魔獣波が来る可能性は十分にあった。
大うねりは入らないまま時だけが経っていく。
そしてついに。
私たちはうねりを見つけたのだった。
沖に1本だけ動く影があり、
その波高が高すぎて、
後ろは見えず不明だが、
とすると、2本目以降があるのなら、
この1本目の波高より大きくはないはずだった。
「これだ!」
そう決めてうねりのピーク側に動き出した。
だが、これに熊ちゃんが入るようで、
こちら側を向くようにガンボードを返した。
けれど、
熊ちゃんは、
ファーストセクション側のふくらみが気に入らなかったようで、
パドリングを止めてしまった。
私は上記したように「この波」と決めたが、
熊ちゃんがパドリングを始めたので、
「この波」をあきらめたばかりだった。
けれど、こういうことは常に想定しているので、
瞬時にイーグルを反転した。
パドリングを始める。
情報を入れていく。
ふくらみとはこれかと、
なかなかエグそうだとかそんなこと。
もうひとつは、
途中から切り出して(テイクオフ初頭の動作のこと)いるので、
パドリングの漕ぎ出しが遅く、
どうやら波に対しては遅延していることも知った。
ただ、
この波を熊ちゃんから引き継いだ責任があるから、
飛び込んでも波の中は入る心づもりだった。
イーグルは、
たった6’8″の長さなのに、
ガンに匹敵するほどのパドル能力がある。
いわゆる”パドリングが早い”ボードだ。
それを活かしてリズミカルに、
深く、強く、腕を最大限にしならせ、
水を多く掴みながら漕いでいく。
入った。
自分の右側がピークセクション。
この後ろに入ったから熊ちゃんはそれを見極めて止めたのだろう。
私は「この波」という最初の直感を信じつつ、
テイクオフの体勢に入った。
オフショアを受けて、
速度よろしく降下していく。
「ヒクク・ヒクク」
これは私のテイクオフのときの真言である。
要は体勢を低くしなさいと、
立ち上がるまで自分に言い聞かせている。
そうでないと体はなぜか立ち上がってしまう。
恐怖なのか畏怖なのか、
または誇らしいのか。(笑)
それを戒め、
さらには動作として機能する真言なのでお使いください。
低く低くをもう忘れて、
すっかり立ち上がろうとしている私が映っている。
ズドンと降りたけど、
有効波セクションからは10mほど後ろだった。
途中で斜めターンが出来たら良かったのだろうけど、
降りるのがやっとだったので仕方がない。
(ボードサイズを上げる〈8’0″くらい〉ことでメイクできる)
とにかく降りてきました。
手をこうして挙げるのは、
後ろから白波(魔獣波)に押されることを想定していたからであろう。
押されても前に出られるように、
弾かれないようにと編み出した必殺技なのであります。
けれど、
魔獣は文字通り無慈悲であります。
こっちの思惑だろうが、
人生だろうが知ったこっちゃありません。
前方にあるもの全てを襲います。
私もあっけなく吸われてしまいました。
けれど必殺技の効果ありで、
前に吐き出されてきた。
遠山の金さんではないが、
『これにて一件落着』と相成りました。
まあ、たかがクローズアウト1本の波ですが、
そこにはこんなドラマが存在していて、
そのおかげで私は竜波だか、
魔獣波に乗りつつ、生還してきたという事実。
サーフィンとは、
深く、そして野蛮なのでありました。
『野蛮波に乗ろう、猛獣波を喰らおう』
そんなガイドツアーのボディコピーを得たので、
本日の講座を終了します。
Happy Surfing!!
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