蘇る金鯖 復讐篇
大鯖春彦
三
高倉は、
視界ゼロの中を歩きだした。
海まで、
崖に付いた小径を降りていく。
目を開けていようが、
つぶっていても何も変わらない闇が全てを浸していた。
高倉は砂浜に降り、
轟音を巻き上げるショアブレイクに歩を進めていく。
地獄の入り口を表現するのなら、
この画もいいのかもしれない。
6オンス巻きボンザーの堅いデッキに雨が弾け、
こだまするように高倉の耳に届く。
東に歩き、
膝まで海水が来た次の瞬間、
獣のような泡が叩きつけてきた。
そして闇の中に突然、光が溢れ、
視界を軽く振り切り、残像が赤く点滅した。
同時に爆発音。
真横に雷が落ちたのだろう。
波内の高倉は、
レイルをつかんだまま飛ばされていたが、
両腕を引きつけて、ボンザーに体を密着させた。
激流が引き込むのを利用して、
数度パドリングすると、一瞬無音になった。
本波と、バックウォッシュが激突するようにぶつかり、
それがダブルアップバレルとなっていた。
その中心にいたから無音になったのだった。
その水壁の高さの一部になるように高倉はボンザーと吸われていた。
普通の人間なら狂い出してしまうような瞬間を、
口元に笑みすら浮かべているのであった。
永遠とも思える波の連続。
ただの波ではなく、数年で一度、
数時間程度来るか来ないかの強靱なうねりが叩きつけていた。
それらが、
高岡を試すように、
そして嬲(なぶ)るように執拗にたかっていたのだった。
腕を引いて、背中を持ち上げる。
そんな繰り返しのパドリングという歩み。
狂濤が終わる頃になると、
闇は白み、
ほんの少しの視界を高倉に与えた。
たった今過ぎたばかりの波が砕け、
絶叫のようなインパクト音をあげていた。
巨大な波群の中でもさらに強靱なる選りすぐり波は、
魔神の斧のような分厚い切っ先を振りかざして高倉に襲いかかってくる。
波はまるで炎を吐きながら蹴り出してくる怪物に見えた。
その腹にあたる箇所にノーズ、
そしてテイルと差し入れ、ダックダイヴの姿勢のままで耐えていた。
そしてこの波が最後の試練だった。
突然沈静したのは、
海底が、
波という名の巨大な魔物たちを起き上がらせないほど深くなったためだった。
高倉は、
激しい雨の中、
ほぼ何もない視界で、
艶消し色のようなうねりを見つけた。
その猛々しいまでのピークの下で、
深々とボンザーのテイルを沈め、
どこまでも深く腕を入れ、
肩がちぎれるほど強く引き絞り、
テイクオフの体勢になっていった…。
(続く)
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